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しおりを挟む「……は?」
突然のことで、思わず間抜けな声が漏れてしまった。
「いやだから、私とルベルで、剣で打ち合いをしようとだな……」
「いやいや、それぐらいはわかるわ! そうじゃなくて、俺と、スカーレットで打ち合い⁉」
「そうだ。何か問題でもあるのか?」
「あるわー! 大アリだよ! 王女と打ち合いをする近衛がどこにいるんだよ!」
「……私と打ち合うのが嫌なのか?」
急にしおらしくなって、しょんぼりとするスカーレット。
「え? い、いや、そういうことではなくて、えっと、これだけ身分が違う者同士が打ち合いするのはマズいというか……」
「そうか……なら命令だ! ルベル・ライヴァー! 修練の成果を、力を持って我に示せ!」
そう言い、腰の剣を抜き、スカーレットはルベルに斬りかかる。
「ッ⁉」
慌ててルベルは後転し、剣を避ける。
「危ねっ⁉」
なにすんだよ! と王女に抗議しようとするが、スカーレットの構えを見て、黙って剣を抜いた。
「……しょうがねぇ、王女サマのご命令とあらば!」
やるしか無い、そう感じたルベルは腰を低く落とし、剣の切っ先を上げる。
「いいぞルベル、なに、ほんの数分打ち合うだけだ。大丈夫だ、死なない程度には加減しておいてやる」
「……ご忠告どーも。でも、俺だってプライドっつうもんがありましてね。手加減されてボコされましたじゃ格好がつかないんですわ!」
ルベルが仕掛ける。まずは様子見と、自分の態勢が崩れない、コンパクトな上段斬りを繰り出す。
「シッ!」
しかしスカーレットは、それを剣の柄でいなし、蹴りを見舞っていた。
「ごっ⁉」
腹をしこたま蹴りぬかれ、たまらず後退するルベル。
「どうした、私は剣だけしか使わないとは言っていないぞ?」
(……鬼強っよ……。普通蹴りでこんなダメージもらうか?)
もちろん、ルベルも剣術に体術を組み込んでいるので、蹴りなどは予想していた。しかし、その予想を上回るほどスカーレットの技は速く、重いのだ。
「ゴホッゴホッ! んん、そーですよね」
さすがクリムゾン・プリンセス、一筋縄ではいかないとルベルは冷や汗をかく。
「攻めないのか? なら、こちらから行かせてもらうぞ」
フラッ……と王女が揺れたかと思うと、一瞬でルベルの目の前に現れる。
「な――」
(回避――間に合わない! 防御――無理! それなら――!)
瞬時に判断し、ルベルは後退するのではなく、あえて前に踏み込む。
「はっ!」
そして、今まさに振り上げようとしていた剣の鍔を手で押さえる。さらに、グッと肩でスカーレットを押し、バランスを崩させる。いくら強いとはいえ、王女は女性であるので、ルベルとの体重差は明確だ。
「もらった!」
そのまま強引にスカーレットの剣を押さえたまま、自分の剣でスカーレットの首もとに剣を押し当てようと――
「甘い」
ドゴォ! スカーレットの冷静な膝蹴りが、ルベルの腹を撃ち抜いた。
「ガッフ……!」
猛烈に来る吐き気、衝撃に顔をしかめ、体をくの字に折り曲げる。
「カッ、カハッ……!」
よろよろと、なんとか地面に膝を付き呼吸を整えようとする。
「ふむ、まだまだ。だが、まあ、その剣をよく使いこなせているな。期待しているぞ」
そんな言葉が頭上から降り注ぎ、ルベルが顔を上げると――
「がっ⁉」
急に空を飛んでいた。ルベルがスカーレットにアゴを蹴り上げられたと気づくまで、ルベルは――
(お、俺、こんな王女を本当に守れんのか……?)
薄れゆく意識で、そんな事を考えていた。
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