23 / 48
22,至高の高みに座する剣
しおりを挟む「……新しい技術?」
「そうだ。いわゆる……遠い遠い国での技術だ」
世界すらも通り越している技術ではあるがな、とアリスは脳内で補完する。
「軽銀と呼ばれる素材だ。若干鉄には硬度で劣るが、軽さは鉄の三分の一。そして錆びづらく、加工がしやすい。まあ、素材を作り出すのがかなり苦労しそうなのだが、手に入ればかなり装備の幅が広がると考えている」
パチパチと炎の音が聞こえてきた。
「……なるほど。話だけ聞く分には、夢のような素材ですな。ただ、素材を作り出すのが面倒であると?」
「……ああ、そうだ。ただ、アテはある。まあ、それで無理なら……他の方法を考えるさ。とはいえ、剣は鉄で作るからな、防具はまだ先のことだから心配するな」
アリスはふう、と息を吐く。
「その素材の名前は先ほど言った軽銀、またの名を……『アルミニウム』という」
「……あるみにうむ? ううむ、聞いたことがございませぬ」
「そのようだな。シナに確認したが、やはり知らない様子だった。作り方は、ボーキサイトから酸素を取り出し、アルミナへ。そして、アルミナを電気分解して、アルミニウムを作り出す」
「……な、なるほど。私めにはさっぱり理解できませんでしたが、とにかく複雑な手順を踏む必要があるのですね?」
「そうだ。今、シナに依頼してボーキサイトを探して貰っている。数々の文献を読んだが、それと思しきものの記述がいくらか見つかった。二つ先の山でも発見されたとも書かれている」
この世界にボーキサイトがある可能性は高い。物理法則、物質、時間の概念などを調べたが、アリスが元居た世界と変わりは無かった。ということは、存在する可能性が高いということだ。
「シナの報告が来るまでは、剣に注力するぞ。剣に使う鋼にもこだわる。使うのは、『玉鋼』だ」
「……玉鋼、ですか?」
玉鋼とは、日本の古式製鉄法であるたたら製鉄での過程、けらおしにより製鉄された最上級の鋼のことである。
「西洋式の剣でも十分なのだが、やはり使うものにはこだわりたい。だから、剣の中でも至高の高みに座すると言われている『日本刀』を真似た剣を作るぞ」
日本刀。いまや美術品として世界で名を馳せているが、それまでは最強の剣として世界で名を轟かせていた。日本刀は折れず、よくしなり、何でも切れる。耐久性も硬度も他の剣とは比べ物にならないくらい高く、西洋では日本刀の研究も活発に行われるほどであった。
「と言っても、日本刀なぞ見よう見まねで作れるものではない。もちろん、お前の腕を信用していないわけではないのだが、それでも最高難度だ」
とある刀匠が言った。人生一生鍛錬であると。生涯をかけて、刀を打つ。また、弟子も五年は下積みを続ける。それでやっと初めて刀を打つことができるのだ。
「……精一杯努力させていただきます」
アリスの言葉に、神妙な趣で頷いた。
「なに、あまり気負いすぎるな。何も、一人で戦場に赴くわけではない。前線の部隊に配属させられるだけであると聞いている。今、前線は膠着状態。小規模な偶発的な戦闘が日に何度か起きるだけだ」
よくある話だ、とアリスは言う。
「だからあまり気負うな。……まあ、まずは防具だな。動きを阻害しないものがいい」
「動きを阻害しないものですか……」
カールが少し考えこむ。
「……籠手などどうでしょうか。手で刃を受け止めることができますし、そこまで動きに支障が出ないかと」
「ふむ……アリだな」
籠手は西洋東洋関係なく使われてきた。白兵戦の多かった時期に多く見られ、手を保護するための防具である。日本では皮を使ったものが多いが、西洋ではチェインメイルと一体のものであったり、板金技術が発達してくると、複雑な加工を施された籠手(ハンドガード)なども存在した。
「試しに数日かけてプロトタイプを作ってみますので、それで判断していただけたらと」
「そうだな、そうしよう。お願いできるか?」
「かしこまりました。では、早速作業に取り掛かるとします」
そう言い、適当な金属を見繕い、窯を開ける。すると、閉じ込められていた熱気が一気に噴出した。
「む、暑いな」
少し離れた所から見ていたアリスだったが、その熱気に驚く。
「ああ、お嬢様。窓を開けましょうか」
ガタッと立ち上がり、煉瓦造りの壁にはまった窓を押し開けた。
「ふう、確かにずいぶんましになるな」
さわさわと優しい微風が彼女の頬を撫でる。
「気持ちの良い風だ」
「ええ。少しは熱気も消えたのではないかと」
作業小屋に一気に充満した熱気は、まだ消えてはいないが先ほどと比べるとかなり良くなった。
「……ふむ、そろそろ金属に火を入れますかな。というより、お嬢様は見ていなくても大丈夫ですぞ。出来たらお届けにあがりますので」
「そうか? まあ、そういうならお願いしきってしまおう、頼んだぞ。必要な素材、モノがあったら遠慮なく言ってくれ。できる範囲で全て揃える」
「それは頼もしきお言葉で。今のところは大丈夫ですので、なにか必要なものができましたらお伝えいたします」
「ああ」
そしてアリスは作業小屋を後にした。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる