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22,至高の高みに座する剣

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「……新しい技術?」

「そうだ。いわゆる……遠い遠い国での技術だ」
 世界すらも通り越している技術ではあるがな、とアリスは脳内で補完する。

「軽銀と呼ばれる素材だ。若干鉄には硬度で劣るが、軽さは鉄の三分の一。そして錆びづらく、加工がしやすい。まあ、素材を作り出すのがかなり苦労しそうなのだが、手に入ればかなり装備の幅が広がると考えている」
 パチパチと炎の音が聞こえてきた。

「……なるほど。話だけ聞く分には、夢のような素材ですな。ただ、素材を作り出すのが面倒であると?」

「……ああ、そうだ。ただ、アテはある。まあ、それで無理なら……他の方法を考えるさ。とはいえ、剣は鉄で作るからな、防具はまだ先のことだから心配するな」
 アリスはふう、と息を吐く。

「その素材の名前は先ほど言った軽銀、またの名を……『アルミニウム』という」

「……あるみにうむ? ううむ、聞いたことがございませぬ」

「そのようだな。シナに確認したが、やはり知らない様子だった。作り方は、ボーキサイトから酸素を取り出し、アルミナへ。そして、アルミナを電気分解して、アルミニウムを作り出す」

「……な、なるほど。私めにはさっぱり理解できませんでしたが、とにかく複雑な手順を踏む必要があるのですね?」

「そうだ。今、シナに依頼してボーキサイトを探して貰っている。数々の文献を読んだが、それと思しきものの記述がいくらか見つかった。二つ先の山でも発見されたとも書かれている」
 この世界にボーキサイトがある可能性は高い。物理法則、物質、時間の概念などを調べたが、アリスが元居た世界と変わりは無かった。ということは、存在する可能性が高いということだ。

「シナの報告が来るまでは、剣に注力するぞ。剣に使う鋼にもこだわる。使うのは、『玉鋼』だ」

「……玉鋼、ですか?」
 玉鋼とは、日本の古式製鉄法であるたたら製鉄での過程、けらおしにより製鉄された最上級の鋼のことである。

「西洋式の剣でも十分なのだが、やはり使うものにはこだわりたい。だから、剣の中でも至高の高みに座すると言われている『日本刀』を真似た剣を作るぞ」
 日本刀。いまや美術品として世界で名を馳せているが、それまでは最強の剣として世界で名を轟かせていた。日本刀は折れず、よくしなり、何でも切れる。耐久性も硬度も他の剣とは比べ物にならないくらい高く、西洋では日本刀の研究も活発に行われるほどであった。

「と言っても、日本刀なぞ見よう見まねで作れるものではない。もちろん、お前の腕を信用していないわけではないのだが、それでも最高難度だ」
 とある刀匠が言った。人生一生鍛錬であると。生涯をかけて、刀を打つ。また、弟子も五年は下積みを続ける。それでやっと初めて刀を打つことができるのだ。

「……精一杯努力させていただきます」
 アリスの言葉に、神妙な趣で頷いた。

「なに、あまり気負いすぎるな。何も、一人で戦場に赴くわけではない。前線の部隊に配属させられるだけであると聞いている。今、前線は膠着状態。小規模な偶発的な戦闘が日に何度か起きるだけだ」
 よくある話だ、とアリスは言う。

「だからあまり気負うな。……まあ、まずは防具だな。動きを阻害しないものがいい」

「動きを阻害しないものですか……」
 カールが少し考えこむ。

「……籠手などどうでしょうか。手で刃を受け止めることができますし、そこまで動きに支障が出ないかと」

「ふむ……アリだな」
 籠手は西洋東洋関係なく使われてきた。白兵戦の多かった時期に多く見られ、手を保護するための防具である。日本では皮を使ったものが多いが、西洋ではチェインメイルと一体のものであったり、板金技術が発達してくると、複雑な加工を施された籠手(ハンドガード)なども存在した。

「試しに数日かけてプロトタイプを作ってみますので、それで判断していただけたらと」

「そうだな、そうしよう。お願いできるか?」

「かしこまりました。では、早速作業に取り掛かるとします」
 そう言い、適当な金属を見繕い、窯を開ける。すると、閉じ込められていた熱気が一気に噴出した。

「む、暑いな」
 少し離れた所から見ていたアリスだったが、その熱気に驚く。

「ああ、お嬢様。窓を開けましょうか」
 ガタッと立ち上がり、煉瓦造りの壁にはまった窓を押し開けた。

「ふう、確かにずいぶんましになるな」
 さわさわと優しい微風が彼女の頬を撫でる。

「気持ちの良い風だ」
 
「ええ。少しは熱気も消えたのではないかと」 
 作業小屋に一気に充満した熱気は、まだ消えてはいないが先ほどと比べるとかなり良くなった。

「……ふむ、そろそろ金属に火を入れますかな。というより、お嬢様は見ていなくても大丈夫ですぞ。出来たらお届けにあがりますので」

「そうか? まあ、そういうならお願いしきってしまおう、頼んだぞ。必要な素材、モノがあったら遠慮なく言ってくれ。できる範囲で全て揃える」

「それは頼もしきお言葉で。今のところは大丈夫ですので、なにか必要なものができましたらお伝えいたします」

「ああ」
 そしてアリスは作業小屋を後にした。




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