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16、クロイツ、魂の料理(前編)

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「お嬢様、お食事のお時間です」
 クロイツが扉を叩き、アリスを呼ぶ。

「そうか、今すぐ行く」
 今読んでいた本を閉じ、椅子から立ち上がる。

「今日のメニューは?」
 食堂へと向かいながら、クロイツに訪ねる。

「今回はいい肉が手に入りまして、素材の味を生かすためにステーキにしました」

「そうか。お前の腕ならハズレは無いからな」
 クロイツの作る品々は、どれも素晴らしく、上質だった。旬のものをふんだんに使ったり、王都でしか味わえないような豪華な料理、また、素朴で味わい深い郷土料理など、メニューは多岐にわたる。今までアリスが食べてきた三ヶ月間あまり、同じような味、メニューは一度もなかった。

「ありがとうございます。私もお嬢様が好き嫌いをしなくなったので、作れるレパートリーが増えて嬉しいです」
 にこやかに答えるクロイツ。

「それよりも最近食事の量が増えている気がするのだが、気のせいか?」
 減量食であるといえど、量が増えてはいけないと考え、クロイツに質問する。

「ええ、増やしております。以前までは減量を目的としたお食事をお出しさせていただいておりましたが、今は体を作るためのお食事に切り替えております」

「ほう、それはどういうことだ」

「今お嬢様は、脂肪を落とし、筋肉をつけていらっしゃいます。そのため、高たんぱくの食事、そして消費されるエネルギーに見合った量をご用意する必要がございます」

「なるほど、破壊された筋肉の再建の際に必要になるエネルギーか」

「ええ、その通りでございます。まあ、それと……」
 そう言い、少し悪戯っぽく笑う。

「基礎代謝が増え、多少多めにお食事を取られても問題ないと判断したので、少しでも多くお嬢様に召し上がっていただこうかと。余計なことをするなとおっしゃるのであれば、直ちに量をお減らしいたしますので」

「このままで大丈夫だ、食は嫌いじゃない。兵糧は取れるときに取るのが一番だからな」
 食事は人を人たらしめる一要素であると考えている。美味しい、楽しい、うれしいなどの要素が無ければ、それはただ肉を食らう獣である。生きるために食べる、それは確かに大事な事である。だが、人はその食べる過程をも大事にする。料理をし、栄養価を高め、味を整える。それこそが、『人間らしさ』なのだ。

「では、お席にどうぞ」
 アリス一人と使用人十数名が住んでいる屋敷のわりに大きすぎる食堂に到着し、クロイツが華美な装飾が施された木の椅子を引く。

「シナ、持ってきて」
 アリスが着席したのを確認し、静かにシナに指示を出す。
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