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14、サービス回、女子たちの花園、湯けむりの中

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「お嬢様、本当にお綺麗になられて……」
 脱衣所でアリスの服を脱がせながら、シナはしみじみと、感慨深く言う。

「もちろんお痩せになられたこともそうですが、最近のお嬢様はよりキラキラとしていらっしゃいます」
 アリスが着ていたのは、いわゆる運動着であったので、脱がせるのが簡単だったため、自分もメイド服を脱いでいく。

 パチン、パチン。バサッ、シュルシュル、パサッ。一枚一枚丁寧に脱いでいく。

「キラキラとは、どういうことだ?」
 一糸まとわぬ姿になったアリスは扉を開け、もくもくと湯気が充満する浴室……いや、浴場に足を踏み入れた。

「ふふ、それはですね、最近とてもお嬢様が一生懸命に生きているからです」

「私が一生懸命に生きている……?」
 その言葉を分析するように、復唱する。

「そうです。全ての事柄に一生懸命で、とても楽しそうに取り組んでいらっしゃいます」
 シナも続いて浴場に足を踏み入れた。

「そうなのか?」
 たしかにアリスは全ての事柄を一生懸命にこなしている。だが、楽しいとはどういう事、どういう感情なのだろうか。

「前のお嬢様はその、できないこと、やりたくないこと、しんどいこと、面倒なことは術t手を抜いてらっしゃったので……。でも! やりたいことや楽しいことには今のお嬢様みたく一生懸命でしたよ!」

「……そうか」
 アレフルルの事をまた一つ知った。彼女を知るたび、アリスとアレフルルは別物であるということを改めて認識する。

「さ、お体を洗わせていただきますね」
 花の香りのする石鹸を泡立て、少しアリスに湯をかけてから手で優しく洗っていく。

「んっ……」
 背中、肩、手。それを流れるような手つきで、丁寧に、丹念に洗ってゆく。

「お嬢様の肌は、まるで上質な白磁のようです……。なめらかで、永遠に触っていたくなるような、そんな病みつきになる罪深き肌です……」
 そしてシナの手がアリスの胸に触れた。

「んん、けしからん大きさです」
 もにゅもにゅ。シナは手のひらに収まりきらないサイズのそれを洗いながら揉む。

「そうだな、非常に邪魔だ。この胸部装甲をパージする術はないのか?」
 胸を揉まれながらも、無表情に自分の乳を見下ろす。

「なぬっ……⁉ くうっ! 私もそんな邪魔だなんて言ってみたいものです……!」
 うらやましそうに、揉みしだく手を強めた。

「あと駄目ですよ。女の子の胸は、おっぱいは女の武器何ですから! 秘密兵器というか、最終兵器ですね」

「んんっ、そ、そこばかり洗わなくても……。そうなのか、知らなかったぞ」

「ええ、覚えておいてくださいね。では、髪の方を失礼しますね」
 いつの間にか足などの方も洗い終え、泡を流し終えたシナはアリスの銀髪に触れる。

「むっ、いけませんね。髪がパサついています。お手入れはちゃんとされていますか?」

「お手入れ……?」
 なんだそれは、とアリスは首を傾げた。

「ま、まさか! なにもされていないのですか⁉」

「いや、髪は洗っているぞ」

「そうじゃなくて、香油を付けたりなどは……」

「していないな」
 オシャレなどに微塵も興味を持っていないアリスは、シナに言われた事、体を洗うことや、髪を洗うことなどしかこれまでやってこなかった。

「それよりもこれも邪魔だ。切ってしまっても構わないか?」
 訓練中目に入りそうになったり、ペシペシと頬にあたって気が散るので、アリスはこの髪を非常に邪魔に感じていた。

「絶対駄目です! この髪は、前のお嬢様が愛情をこめてそれこそ命がけでお手入れされてきた髪です、お手入れもしっかりしていただきますし、切るのも許しません。邪魔になるのであれば、あとでおまとめいたしますから」

「む、そうなのか。了承した」
 アレフルルが愛情をこめて手入れをしてきたと言われてしまっては、アリスに返す言葉はない。

「さて、失礼しますよ」
 とろり、と粘度の高いシャンプーを適量取り、髪になじませて丁寧に梳くように洗っていく。

「ちゃーんと髪の毛を洗うんですよ。そして、シャンプーが残らないように丁寧に濯ぎ洗いをしてくださいね」

「なかなかに面倒な手順を踏むのだな、だが了解した。最初だからうまくできるかはわからないが、努力はしよう」

「はーい、わからないことがあったらぜひ聞いてくださいね!」
 
「ああ、存分に頼らせてもらおう」
 そう話しているうちに髪を洗い終わり、シナも自分の体を洗い終えた。

「私も髪を洗い終わったら入りますので、先に入っていてください」

「わかった」
 大きな浴槽に惜しみなくたっぷりと張られた湯に足先をつけ、ゆっくりと沈んでいく。

「ふぅ……」
 無茶ともいえるトレーニングに連日晒され続けてきた損傷している筋肉が温められ、血流がよくなり、弛緩していくのを感じて思わず声が出た。

「最近お嬢様、風呂はいいって言って、水浴びと少しのお湯で済ましていますものね」

「別にそれで十分だからな」
 汚れなどを落とすメンテナンスは大事であるとアリスは理解していたので、しっかり毎日、多い日は二日ほど水浴びなどは行っていた。

「駄目です。お湯に浸かることで、疲労物質を抜いて、筋肉を休める効果があるのですから」

「初耳だ。では、湯に浸かる方が回復が早いということだな」

「そうです。それに、心もリフレッシュしますから、心身ともに元気になれます!」

「なるほど」

「庶民の方々は週に一度、公共の大浴場に行ったりしますが、お嬢様はできれば三日に一回はお風呂に入って欲しいです」
 ちゃぷん、とシナも湯に浸かる。

「んー、幸せ……。あっ! すごいですお嬢様! 胸って浮くんですね!」

「? 浮き袋みたいなものなのかもしれないな。もしや武器とさっき言っていたが、こういう兵装なのか」
 アリスは真剣な顔で、胸は水戦用装備であったのかと考察を始めた。
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