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第一章 毒師よ目覚めよ
5,ジャガイモとの格闘
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5,ジャガイモと格闘
「……ふん、うちの制服、似合っているじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
エプロンや制服一式を戸棚から取り出し着た。……に、似合わなくね……?
制服は三種類ほどあり、どれもが可愛らしいデザインだ。……男用ではなさそう。なんおで、一番フリルの少ない、パンツタイプの男も着れそうな無骨なのを選んだ。
「でも、なんでこんなに在庫というか、制服とかが積み上がってるんです?」
そう、戸棚には十枚ほど制服が積み上がっていたのだ。
「…………からよ」
「はい?」
「……だれも募集をかけても来てくれなかったからよ!」
…………ああ、なるほど……。
俺はこれ以上突っ込まないことにした。
「さ、そんなことよりも、仕込みなどを手伝いな!」
「は、はい!」
俺は手を洗い、厨房に入る。
「おお……」
そこは、中世に近いのだろうか? 古風な竈などが並んでいた。なるほど……って、広くね⁉
「ま、まさかこれを一人でやってたんですかマゼンタさん?」
「そうさね。それと、アタシのことは店長とお呼び!」
「あ、はい店長! それで、俺は何をすれば……」
すげぇ広いよこの厨房。ほんとにこの人、どうやっていままで一人で切り盛りしてたんだ……?
「シューヤ、ジャガイモの皮むきはできるかい?」
「できますよ。というか、一通りのことなら多分できますけど」
たまーに家でメシを作ってたし、大丈夫だとは思う。
「よし、それならこの樽の中にあるジャガイモ全部剥いてもらうよ」
「…………え?」
店長が奥から持ってきたのは、三十リットルはゆうに入りそうな樽いっぱいに詰め込まれたジャガイモの山だった。
「あらくれどもには肉とジャガイモがあれば十分さね。アタシが肉を準備するから頼んだよ。ここにナイフが置いておくからね」
そう言い残して、店長は更に奥の倉庫へと消えていった。
「…………おいおい、なんつー量があんだよ……」
異世界で初めて戦う相手は大量のジャガイモ。ファイッ!! ……ということで、俺はそこにあった木箱に座り、黙々とジャガイモの皮むきを始めた。
「……なーにやってんだか俺は」
ショリショリ、ショリショリ。やたらと切れ味が良いナイフで皮を剥きながら考える。とりあえず職は手に入れた。ただ、状況的にはプラマイゼロ。というか、マイナススタート。よくわからん固有職業で、勇者としてのステータスも無し。挙句の果てに、先代のせいで悪名だけが広がっているらしい。……悪夢じゃねぇかよ。
「あ、芽が出てる」
十数個剥いているうちに、何個か芽が出ている事に気がついた。
「店長ー! ジャガイモ、いくつか芽が出てるんですけど、取ってそのまま使って大丈夫ですかー?」
「ああ、構わないよ! どーせあのあらくれどもは多少毒があっても気にしないから、取らなくても別に良いけども!」
奥の倉庫から店長の声が聞こえた。
「りょーかいです! ……ん? 毒?」
そういえば俺は毒師だった。じゃがいもの芽に含まれるソラニンは『毒』だから、取っておけば何かしらに使えるのでは?
「よし、取っとくか」
包丁なら角で取るのだが、あいにく俺が手に持っているのはナイフなので、鋭く尖った先端で少し苦心してえぐり取る。
「おお、やっぱり……!」
そして、その芽をじっと見つめていると小さなウィンドウが出て、そこには説明が乗っていた。
ジャガイモの芽 毒レベルⅠ
ソラニンを多く含む。頭痛、嘔吐、下痢、胃炎を引き起こす。少量なら食べても中毒になることはない。食すと少し毒耐性スキルが上がる。
「なるほどな」
試しにジャガイモの芽を少しだけ口に入れて飲み込んでみる。少しなら大丈夫だと小学校のころ家庭科で習ったし、そこにも書いてある。……なんも変わった気がしないので、追加でもう二個ほど飲み込む。すると、
「……あ、ほんとだ。対毒スキルが上がってる」
確かに『対毒Ⅰ』のスキル熟練度が2/1000になってる。でも……
「これ、上げるのめちゃんこ時間かかるやつだな……」
なんかこんなネトゲやったことあるわ。マゾゲーって名高いあれ。
「……これは同時並行でやってくかぁ……」
今は先に皮むきを優先させないと。サクッと剥けはしないけど、そこまで時間はかからない。……数は相変わらず減らないけど。
「シューヤ、そろそろ芋を茹でるよ! 手伝いな!」
「はいっ!」
ひー! 忙しいっ!
「あらくれどもは酒と味の濃いもんがあれば文句は言わない。塩ゆですれば問題なし」
塩ドバー。ジャガイモゴロンゴロン。……雑っ⁉
「そして十分ぐらいしたら上げる。覚えたね? んで、できたもんはこのザルに入れときな。勝手に冷めるから」
「……それだけですか?」
塩のキツいだけのジャガイモじゃ飽きる気がする……。
「そうさ。アレンジ加えたいなら好きにしてもいいが」
「いいんですか? ならなんか考えときます」
今は先にこの山のようなジャガイモをなんとかしないとな。
それから一時間ほど俺はじゃがいもの皮を剥いては茹でて剥いては茹でてを繰り返したのだった。
「……ふん、うちの制服、似合っているじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
エプロンや制服一式を戸棚から取り出し着た。……に、似合わなくね……?
制服は三種類ほどあり、どれもが可愛らしいデザインだ。……男用ではなさそう。なんおで、一番フリルの少ない、パンツタイプの男も着れそうな無骨なのを選んだ。
「でも、なんでこんなに在庫というか、制服とかが積み上がってるんです?」
そう、戸棚には十枚ほど制服が積み上がっていたのだ。
「…………からよ」
「はい?」
「……だれも募集をかけても来てくれなかったからよ!」
…………ああ、なるほど……。
俺はこれ以上突っ込まないことにした。
「さ、そんなことよりも、仕込みなどを手伝いな!」
「は、はい!」
俺は手を洗い、厨房に入る。
「おお……」
そこは、中世に近いのだろうか? 古風な竈などが並んでいた。なるほど……って、広くね⁉
「ま、まさかこれを一人でやってたんですかマゼンタさん?」
「そうさね。それと、アタシのことは店長とお呼び!」
「あ、はい店長! それで、俺は何をすれば……」
すげぇ広いよこの厨房。ほんとにこの人、どうやっていままで一人で切り盛りしてたんだ……?
「シューヤ、ジャガイモの皮むきはできるかい?」
「できますよ。というか、一通りのことなら多分できますけど」
たまーに家でメシを作ってたし、大丈夫だとは思う。
「よし、それならこの樽の中にあるジャガイモ全部剥いてもらうよ」
「…………え?」
店長が奥から持ってきたのは、三十リットルはゆうに入りそうな樽いっぱいに詰め込まれたジャガイモの山だった。
「あらくれどもには肉とジャガイモがあれば十分さね。アタシが肉を準備するから頼んだよ。ここにナイフが置いておくからね」
そう言い残して、店長は更に奥の倉庫へと消えていった。
「…………おいおい、なんつー量があんだよ……」
異世界で初めて戦う相手は大量のジャガイモ。ファイッ!! ……ということで、俺はそこにあった木箱に座り、黙々とジャガイモの皮むきを始めた。
「……なーにやってんだか俺は」
ショリショリ、ショリショリ。やたらと切れ味が良いナイフで皮を剥きながら考える。とりあえず職は手に入れた。ただ、状況的にはプラマイゼロ。というか、マイナススタート。よくわからん固有職業で、勇者としてのステータスも無し。挙句の果てに、先代のせいで悪名だけが広がっているらしい。……悪夢じゃねぇかよ。
「あ、芽が出てる」
十数個剥いているうちに、何個か芽が出ている事に気がついた。
「店長ー! ジャガイモ、いくつか芽が出てるんですけど、取ってそのまま使って大丈夫ですかー?」
「ああ、構わないよ! どーせあのあらくれどもは多少毒があっても気にしないから、取らなくても別に良いけども!」
奥の倉庫から店長の声が聞こえた。
「りょーかいです! ……ん? 毒?」
そういえば俺は毒師だった。じゃがいもの芽に含まれるソラニンは『毒』だから、取っておけば何かしらに使えるのでは?
「よし、取っとくか」
包丁なら角で取るのだが、あいにく俺が手に持っているのはナイフなので、鋭く尖った先端で少し苦心してえぐり取る。
「おお、やっぱり……!」
そして、その芽をじっと見つめていると小さなウィンドウが出て、そこには説明が乗っていた。
ジャガイモの芽 毒レベルⅠ
ソラニンを多く含む。頭痛、嘔吐、下痢、胃炎を引き起こす。少量なら食べても中毒になることはない。食すと少し毒耐性スキルが上がる。
「なるほどな」
試しにジャガイモの芽を少しだけ口に入れて飲み込んでみる。少しなら大丈夫だと小学校のころ家庭科で習ったし、そこにも書いてある。……なんも変わった気がしないので、追加でもう二個ほど飲み込む。すると、
「……あ、ほんとだ。対毒スキルが上がってる」
確かに『対毒Ⅰ』のスキル熟練度が2/1000になってる。でも……
「これ、上げるのめちゃんこ時間かかるやつだな……」
なんかこんなネトゲやったことあるわ。マゾゲーって名高いあれ。
「……これは同時並行でやってくかぁ……」
今は先に皮むきを優先させないと。サクッと剥けはしないけど、そこまで時間はかからない。……数は相変わらず減らないけど。
「シューヤ、そろそろ芋を茹でるよ! 手伝いな!」
「はいっ!」
ひー! 忙しいっ!
「あらくれどもは酒と味の濃いもんがあれば文句は言わない。塩ゆですれば問題なし」
塩ドバー。ジャガイモゴロンゴロン。……雑っ⁉
「そして十分ぐらいしたら上げる。覚えたね? んで、できたもんはこのザルに入れときな。勝手に冷めるから」
「……それだけですか?」
塩のキツいだけのジャガイモじゃ飽きる気がする……。
「そうさ。アレンジ加えたいなら好きにしてもいいが」
「いいんですか? ならなんか考えときます」
今は先にこの山のようなジャガイモをなんとかしないとな。
それから一時間ほど俺はじゃがいもの皮を剥いては茹でて剥いては茹でてを繰り返したのだった。
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