竜焔の騎士【外伝】海を越えた大恋愛~北と南で同時に開く愛の花~

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
31 / 86

ラウンド26 やっぱり、ハプニングはつきもので

しおりを挟む
 それから時間が流れて、日が西に傾きだす頃……


「アル!! これは一体、どういうことだ!?」


 ベンチに腰かけて夕日を眺めていたところで、ノアはたまらず声をあげた。


「ん? 何かご不満なことでも?」
「ご不満がないから驚いているのだ!!」


 足を組んで優雅に休憩中といったジョーに、ノアはどこか狼狽うろたえた様子で詰め寄る。


「お前、ルルアに来るのは二度目だよな!? どうしてあんなに穴場ばかり知っているのだ!? あっちにもこっちにも根回し済みというのも、意味が分からん!!」


 そうなのである。


 ジョーに連れ回された今日一日。
 彼が辿ったデートコースは、完璧としか言いようがなかった。


 セレニアならではの感性が活きたドライブは、渋滞をけつつ退屈させない景色を見せてくれた。


 途中途中で彼が立ち寄るレストランや公園は、ほどよい活気。


 寂れて閑古鳥かんこどりが鳴いているわけではなのに、時間や人の混みようを気にすることなくのんびりとできた。


 とはいえ、国の要人を連れているという認識が忘れられたわけではなく、休む場所は人目と防衛がしっかりと考慮されていた。


 あらかじめ手を回してあったらしく、行く先々で当然のように責任者と親しげだこと。


「これが情報の使い方ってねー。」


 ジョーは別に得意げでもなく、淡々と語りながら携帯電話をいじっている。


「よくあるでしょ? 本当は有名になってもおかしくないのに、色んな事情からあえて小ぢんまりと運営している所。そういう所とパスを繋いでおいて、損はないのさ。あとは……多少のコレがあればどうとでもなる。」


 ジョーが片手で示すサインは、明らかに金。
 そのサインがおどしも示しているように感じるのは、気のせいだろうか。


「ディアやあなた経由で作った伝手つてを、僕が今まで何もせずに遊ばせておいたとでも? そうだったら、ああも簡単に御殿の防衛システムを突破できるわけないでしょ?」


「金はどこから出てくるんだ……」


「あらぁ? 神官直轄の特務部隊のお給料、なめないでほしいな。それに、まだ新薬の特許期間中です♪ 特許権は父さんと製薬会社に譲渡してあるんだけど、真面目な父さんは納税だけして、残りは僕の口座に振り込んでくるんだ。」


「まあ、本来はお前が受け取るべき金だからな。」


 こいつ、本当に隙がないな。


 こいつの恐ろしさは知っていたつもりだったが、改めてそれを実感するには十分な一日だった。


「でもま、そこそこ楽しめたでしょ?」
「うぐぐ……はい……」


 あれを〝そこそこ〟と言うな。
 ものすごく楽しかったわ。


「アル……お前、今までもこうして、たくさんの女とデートしたのか…?」


 疑問に思いつつも訊く踏ん切りがつかなかったことを、思い切って訊いてみる。


「まあね。それなりに。」


 やはり、彼は否定しなかった。


「お誘いは基本、断らないようにしてたんだ。いい気分にさせてあげれば、いい情報を落としてくれるからね。ただまあ……仕上げのきな臭い展開までがセットだけど。」


「きな臭いって……」


「ノアは知らなくていいよ。」


 いやに早く切り返してきたジョーの瞳。


 そこに揺蕩たゆたうのは深い闇。
 その闇を一瞬の内にまぶたの裏にしまった彼は、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「さて、そろそろ帰ろうか。」


 優しく差し伸べられる手。
 今まで何人の人がこの手に触れて、この微笑みを間近から見つめたのだろう。


 それを思うと、少しばかりもやついた気分になった。


 黙って頷き、彼の手を取って車へと戻る。




 その道中―――事件は起こった。




「………」


 すっと。
 ふいに鋭く細められる瑠璃色。


 次の瞬間―――


「ちょーっと失礼!!」
「―――っ!?」


 強く手を引かれ、大きく視界が揺れる。
 ふわりと体が浮いて、あっという間にその胸の中に抱かれる。


「走りますよ、お姫様!」


 軽々と自分を抱いて、ジョーは軽快に走り出す。


(ああ……やっぱり、平和に終わりとはいかないか。)


 暗くなったことでまばらになってきた人の中に、殺気をまとった気配が複数。
 自分たちが帰る雰囲気を漂わせたので、隠れることをやめたようだ。


 気付いてはいたので、特に落胆はしない。
 胸を満たすのは、別の感情だ。


(こいつ、プライベートでは香水もつけるのか……)


 香りから危険を感知することもあるので、科学者は香水をつけないことが多い。


 当然ジョーもそのたぐいだろうと思っていたが、距離がぐっと近付いたことで、普段はしない香りが鼻をくすぐった。


 もしかして、自分がいつもつける香水を考慮してくれたのだろうか。
 混ざり合っても気分が悪くならない、ほのかな柑橘類の香りだ。


(見た目に反して、意外と筋肉がしっかりしてる……)


 いや、これもな?


 普段から散々抱きついているわけだし、この私と二時間も対等に暴れられたわけだし、知っていたつもりなのだよ?


 だけど、こうして彼に抱かれていると、このたくましさがまた違ったように感じるのだ。


(こういうことも……他の女にするのか…?)


 また胸がもやつく。
 それをごまかしたくて、その首にぎゅっと腕を回してしがみついた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...