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ラウンド6 半年ぶりのご対面
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それから、たったの五日。
(ようやく来たな、この可愛くない奴め!!)
搭乗ロビーから出てきたジョーを、ノアはひきつった笑顔で迎えた。
案の定、キリハから相談を受けたジョーは、純粋&健気ビームに負けてルルア行きを了承した。
オークスも休みの提案に二つ返事で、彼に二週間もの長期休暇を与えたそうだ。
「はあ…。あの狸親父が二週間くらい旅行してこいって言ったのは、あなたの差し金ですか。」
こちらの顔を見るなり、挨拶より先に出るのがそれか。
笑顔で嫌味を言われるのも腹立つが、全力で嫌な顔をされるのもそれなりにムカつくぞ。
「ごめんね、アル。急に無理を言って呼び出しちゃって……」
口の端をピクピクとさせるノアに気付いていないキリハが、申し訳なさそうに頭を下げる。
すると、にわかにジョーの態度が軟化した。
「いや、別にいいよ。体調を崩してるドラゴンが心配だなんて、君らしくて笑っちゃった。それに僕も、そろそろ地下室から出て太陽を浴びた方がいいかなって思ってたところだし。」
こら、貴様ぁ!
その態度の差はなんなんだ!?
一応は私も、お前の恩人に近いんだがな!?
「……というわけで、早いとこ研究所に行きましょうか。」
スーツケースを引き、ジョーは颯爽と歩き出す。
「んー……こんなことになるなら、面倒回避のために、あの薬の論文は開発部名義で出しとくんだったかなぁ…?」
「えー? 普通に、ジョーの名義で出したらいいのに。」
「やだやだ。ただでさえ、ジョーの名前でドラゴン討伐の功労者として勲章を受けちゃったんだ。これ以上この名前に箔がつくなんて、考えるだけでも吐きそうだよ。」
「だったら、名前を戻したら? ターニャも戸籍の書き換えに協力するって言ってたじゃん。」
「今さら? 別にいいよ。これは僕が決めた生き方だから。中途半端なことをして、世間を騒がせるつもりはないよ。」
アルシードとしての事情を知る人間しかいないからか、ジョーは己の黒い感情を包み隠さずに本音を述べる。
この意地っ張りが!
先進技術開発部に異動したくせに、まだアルシードを名乗り直すつもりがないというのか。
研究はするけど論文は出さないなんて、そっちの方が中途半端だわ!!
ああもう、このもどかしさをどうすればいい。
やっぱりこいつは可愛くない!!
そんなこんなで辿り着いたドラゴン研究所。
そこでは、キリハを迎えた時並みの人々がジョーの到着を待ちわびていた。
「あらー……ものすごいお出迎えで。」
一瞬だけ意外そうに目を丸くしたジョーは、すぐに対人用の営業スマイルをたたえた。
「はじめまして。セレニアの宮殿で先進技術開発部に所属しております、ジョー・レインと申します。この度はお忙しいところ、手厚く出迎えていただき恐縮です。」
そうだ。
そういえばそうだった。
こいつが初対面の人間相手に被る猫は、鳥肌が立つくらい気持ち悪いんだった。
思わず二の腕をさするノアに気付くことなく、研究所の人々は我先にとジョーに群がった。
「はじめまして! キリハ君から話を聞いて、一刻も早くお会いしたかったんです!!」
「えっと……どんな話を聞いたのかは分かりませんが、私は別にそこまで大した人間ではなくてですね……」
「あの……」
ジョーが苦笑して話を受け流そうとしたところで、職員の一人が手を挙げた。
「人違いなら申し訳ないんですが……もしかしてジョーさんって、数年前の国家民間親善大会で、三年連続でトップスリーに入ってませんでした?」
「ああ……」
問われたジョーの表情が、若干ひきつる。
「ええ、まあ…。今はもう大会に出場してませんが、確かにそんな時もありましたね。」
「ああ、やっぱり! フルネームに聞き覚えがあって、ずっと気になってたんですよ。お顔を見て、やっぱりご本人だと思って! 確か、キリハ君が最年少優勝記録を塗り替えた年も、同僚と同率三位でしたよね?」
「うう…っ。よ、よくご存じで……」
「そりゃ、武術大国であるルルアですから! 特にあの〈風魔のディアラント〉がこの国に来てからは、ルルアでも毎年配信予定が組まれるほどのイベントになってますよ。」
「ディア……」
「ああ、それなら私も知ってます!! それにその後、ディアラントさんやキリハ君と一緒に、功労者として最高勲章を授与されてませんでした?」
「いや、違うんです…。あれはたまたま、当時ドラゴン殲滅部隊の参謀代表を務めていたからだったんです。最高勲章は部隊を代表して幹部三人が受け取ったってだけですし、他の隊員も勲章を受け取っています。だから、私自身が評価されたわけではなくてですね……」
まさか、ルルアで自分の功績が知られているとは思っていなかったのだろう。
ジョーの名前で褒め称えられるほどに、その表情が苦々しく歪んでいく。
ほら見たことか。
さっさと名前をアルシードに戻さないから、自分の首が絞まっているじゃないか。
「さ、世間話はこれくらいにして、キリハ君の話に出てきたドラゴンに会わせてください。状態が芳しくないと聞きましたよ。」
「ああ、はい! こちらへどうぞ。」
これ以上は聞き流していられないのだろう。
表面上は冷静を装いつつ、ジョーは自身の話から逃れていった。
(ようやく来たな、この可愛くない奴め!!)
搭乗ロビーから出てきたジョーを、ノアはひきつった笑顔で迎えた。
案の定、キリハから相談を受けたジョーは、純粋&健気ビームに負けてルルア行きを了承した。
オークスも休みの提案に二つ返事で、彼に二週間もの長期休暇を与えたそうだ。
「はあ…。あの狸親父が二週間くらい旅行してこいって言ったのは、あなたの差し金ですか。」
こちらの顔を見るなり、挨拶より先に出るのがそれか。
笑顔で嫌味を言われるのも腹立つが、全力で嫌な顔をされるのもそれなりにムカつくぞ。
「ごめんね、アル。急に無理を言って呼び出しちゃって……」
口の端をピクピクとさせるノアに気付いていないキリハが、申し訳なさそうに頭を下げる。
すると、にわかにジョーの態度が軟化した。
「いや、別にいいよ。体調を崩してるドラゴンが心配だなんて、君らしくて笑っちゃった。それに僕も、そろそろ地下室から出て太陽を浴びた方がいいかなって思ってたところだし。」
こら、貴様ぁ!
その態度の差はなんなんだ!?
一応は私も、お前の恩人に近いんだがな!?
「……というわけで、早いとこ研究所に行きましょうか。」
スーツケースを引き、ジョーは颯爽と歩き出す。
「んー……こんなことになるなら、面倒回避のために、あの薬の論文は開発部名義で出しとくんだったかなぁ…?」
「えー? 普通に、ジョーの名義で出したらいいのに。」
「やだやだ。ただでさえ、ジョーの名前でドラゴン討伐の功労者として勲章を受けちゃったんだ。これ以上この名前に箔がつくなんて、考えるだけでも吐きそうだよ。」
「だったら、名前を戻したら? ターニャも戸籍の書き換えに協力するって言ってたじゃん。」
「今さら? 別にいいよ。これは僕が決めた生き方だから。中途半端なことをして、世間を騒がせるつもりはないよ。」
アルシードとしての事情を知る人間しかいないからか、ジョーは己の黒い感情を包み隠さずに本音を述べる。
この意地っ張りが!
先進技術開発部に異動したくせに、まだアルシードを名乗り直すつもりがないというのか。
研究はするけど論文は出さないなんて、そっちの方が中途半端だわ!!
ああもう、このもどかしさをどうすればいい。
やっぱりこいつは可愛くない!!
そんなこんなで辿り着いたドラゴン研究所。
そこでは、キリハを迎えた時並みの人々がジョーの到着を待ちわびていた。
「あらー……ものすごいお出迎えで。」
一瞬だけ意外そうに目を丸くしたジョーは、すぐに対人用の営業スマイルをたたえた。
「はじめまして。セレニアの宮殿で先進技術開発部に所属しております、ジョー・レインと申します。この度はお忙しいところ、手厚く出迎えていただき恐縮です。」
そうだ。
そういえばそうだった。
こいつが初対面の人間相手に被る猫は、鳥肌が立つくらい気持ち悪いんだった。
思わず二の腕をさするノアに気付くことなく、研究所の人々は我先にとジョーに群がった。
「はじめまして! キリハ君から話を聞いて、一刻も早くお会いしたかったんです!!」
「えっと……どんな話を聞いたのかは分かりませんが、私は別にそこまで大した人間ではなくてですね……」
「あの……」
ジョーが苦笑して話を受け流そうとしたところで、職員の一人が手を挙げた。
「人違いなら申し訳ないんですが……もしかしてジョーさんって、数年前の国家民間親善大会で、三年連続でトップスリーに入ってませんでした?」
「ああ……」
問われたジョーの表情が、若干ひきつる。
「ええ、まあ…。今はもう大会に出場してませんが、確かにそんな時もありましたね。」
「ああ、やっぱり! フルネームに聞き覚えがあって、ずっと気になってたんですよ。お顔を見て、やっぱりご本人だと思って! 確か、キリハ君が最年少優勝記録を塗り替えた年も、同僚と同率三位でしたよね?」
「うう…っ。よ、よくご存じで……」
「そりゃ、武術大国であるルルアですから! 特にあの〈風魔のディアラント〉がこの国に来てからは、ルルアでも毎年配信予定が組まれるほどのイベントになってますよ。」
「ディア……」
「ああ、それなら私も知ってます!! それにその後、ディアラントさんやキリハ君と一緒に、功労者として最高勲章を授与されてませんでした?」
「いや、違うんです…。あれはたまたま、当時ドラゴン殲滅部隊の参謀代表を務めていたからだったんです。最高勲章は部隊を代表して幹部三人が受け取ったってだけですし、他の隊員も勲章を受け取っています。だから、私自身が評価されたわけではなくてですね……」
まさか、ルルアで自分の功績が知られているとは思っていなかったのだろう。
ジョーの名前で褒め称えられるほどに、その表情が苦々しく歪んでいく。
ほら見たことか。
さっさと名前をアルシードに戻さないから、自分の首が絞まっているじゃないか。
「さ、世間話はこれくらいにして、キリハ君の話に出てきたドラゴンに会わせてください。状態が芳しくないと聞きましたよ。」
「ああ、はい! こちらへどうぞ。」
これ以上は聞き流していられないのだろう。
表面上は冷静を装いつつ、ジョーは自身の話から逃れていった。
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