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第22歩目 形に囚われない想い
地獄は、無慈悲に口を開いて―――
しおりを挟む一体、何が起こっているのだろう……
突き飛ばされて地面に倒れたフィオリアは、起き上がった先にあった光景に思考を半ば停止させていた。
「く…っ」
まばゆく光る魔法陣の上で、シュルクが苦しげに呻いている。
その全身には魔法陣から飛び出した光の鎖が絡みつき、彼の体を地面に縫い止めていた。
次いで鼓膜を叩くのは、いくつもの悲鳴。
反射的に周りを見渡すと、何人かのツアー客がシュルクと同じように魔法陣に捕らわれてしまっていた。
「あら、ラッキー。ここでは一番厄介になる坊やを、ご主人様自ら封じ込めてくれるなんて。」
フィオリアの前に立ったラミアは、上機嫌な笑みで口笛を一つ。
そして、誰かに合図を送るように両手を叩いた。
「あんたたち、お芝居は終わりよ。」
彼女がそう告げると、その場にいた従業員の全員と、客のうちの十人ばかりが即座に演技をやめ、元々示し合わせていたらしい立ち位置へと散っていった。
つい数秒前まで普通に接していた人々の豹変に、何も知らなかった人々は混乱のあまり絶句するしかない。
「純粋すぎて、馬鹿なお嬢様。あたしが堂々としてる時点で、全員がグルかもしれないって疑わなかったわけ?」
「え…?」
微かな笑いを含んだ声で問われ、錆びついていた思考回路がようやく動き出す。
「そこの坊やが大人しくしてたのは、その可能性を危ぶんだから。疑うことを知らないお嬢様は、ツアーを中止しろって必死に訴えてたけど……下手すれば、あの時に袋叩きに遭って奴隷落ちだったわよ? この子が先に交渉を済ませてて、命拾いしたわね?」
「………っ」
今まさに、従業員の全員が化けの皮を剥がす場面を見たばかりだ。
ラミアが語った〝もしも〟が起こっていたらと想像すると、とんでもない恐怖で全身がすくんだ。
言葉だけでフィオリアを大人しくさせたラミアは、拘束から逃れようともがくシュルクの傍に膝をつく。
「残念ねぇ…。自分の感情もプライドも必死にかなぐり捨ててここまで来たのに……最愛の人のせいで、ぜーんぶが水の泡になりそうよ?」
「てめぇ…っ」
「誤解しないでよ? あたしは、あんたを追い込むつもりはないの。今は、ただの事実を言ったまでよ。あんたを傷つけたくはないし、しばらくそのまま大人しくしてなさい。」
壊れ物を扱うような丁寧な手つきでシュルクの髪を梳いたラミアは、次にゆっくりと立ち上がる。
「さてと……―――皆さん、最後の贅沢は存分にお楽しみいただけまして?」
高らかにそう告げた彼女は、気さくで親しみやすい女性ではなくなっていた。
「運が悪かったわねぇ。カモフラージュとして、普通にツアーを楽しんで帰れる馬車もたくさん用意してあったのに、よりによってこの馬車を選んじゃったなんて。あんたたちも、そう思わない?」
ラミアが訊ねると、彼女の仲間たちがくすくすと笑う。
追い込まれた袋小路で明かされた現実に、人々は出せる言葉もなく震えるしかなかった。
「んー、どうしようかしら。今回はそこのお嬢様と護衛君が頑張ってくれたおかげで、まだ時間に余裕があるのよね…。―――じゃあ、一つゲームといきましょうか。」
そんなことを述べたラミアは、この空間から外に繋がる細道を指し示す。
「今から十五分の時間をあげる。その間にあの道に飛び込めたら、特別に見逃してあげるわ。チャレンジするもしないも、あんたたち次第。……どうする?」
提示されたのは、慈悲とは言い難いゲーム。
残った客は二十人ばかり。
そのうち数人はすでに鎖で戒められて動けず、そんな彼らを残しておけないと判断した人々は諦めの表情で肩を落としている。
諦めずにチャンスを掴もうと立ち上がる人もいるが、それに対するラミアたちは、従業員と客に紛れていた人を含めて十七人。
一番の戦力であるシュルクが動けない以上、この条件で逃げ切れる可能性は一握の砂に等しいだろう。
しかし―――
「じゃあ、スタート♪」
ゲーム開始の宣言は、一刻の猶予もなく放たれてしまって―――
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