Fairy Song

時雨青葉

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第21歩目 何を一番にするべきか

痛烈な指摘

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 乱入してきた自分に、シュルクもラミアも驚かなかった。
 きっと、自分が聞き耳を立てていることくらいお見通しだったのだろう。


「あら、まだ起きてたの?」


 白々しくも聞こえる、ラミアの意外そうな雰囲気の言葉。


 そんなラミアの腕がシュルクの腕に絡んでいるのを見た瞬間、頭の奥で激情が弾けたような気がした。


「シュルクから離れて!」


 フィオリアはラミアを突き飛ばし、シュルクとラミアの間に割り込んだ。


「あなた……人のことをなんだと思ってるの!?」


 一度沸点を越えた感情がそう簡単にしずまるわけもなく、フィオリアはきつくラミアを睨む。


「あなたが土足で好き勝手に踏みにじっていいほど、人生は軽んじていいものじゃない! どうして、他人の人生をめちゃくちゃにして笑っていられるの!? どうして、それで悲しむ人のことを考えないでいられるの!? あなたにだって、運命の人はいるでしょう。その人のことを大切に想える気持ちはないの!?」


 血を吐くような心地で叫ぶ。


 ふざけないで。
 人の価値を勝手に下げないで。


 きっかけさえあれば、人は簡単に手をよごす?
 そんな暴論、シュルクに失礼だ。


 彼は、これまで理不尽な目に遭いながらも、光を失わずに前を向いて歩いてきた。
 誰のことも恨まず、揺るぎなく強い信念を持って生きてきたのだ。


 その価値は、何よりも尊い。
 これまで出会ってきた人々だってそうだ。


 もちろん、中には生活に苦しむ者もいた。
 絶望や悲しみで打ちひしがれている者もいた。


 だけど皆、自分なりにそれらと向き合っていた。


 今この世界に生きている人の全てが、ラミアのような価値観で行動しているわけじゃない。


 ラミアが言ったことは、そんな尊ぶべき人々を侮辱したのだ。


「運命の人、ねぇ……」


 ラミアは、記憶を手繰たぐるように虚空へと目をやった。


「……ああ。あたしにこの業界から手を引かせようとして煙たかったから、とっとと売り飛ばしちゃった。今頃、生きてるのかしらね?」


 そこに、誰かに対する愛情や友愛は皆無。
 そんな現実を目の当たりにして、フィオリアは絶句する。


 到底理解できない。
 それだけが分かって、熱くなっていた気持ちに冷や水を浴びせられた気分になった。


「フィオリア、もうやめろ。」


 そこで、これまで黙っていたシュルクがやんわりと肩を引いてきた。


「まともに取り合うな。どうせ、俺たちとは住む世界が違う奴の言うことだ。理解しようとしなくていい。」


「そうねー。なぁんか興醒めしちゃったし、今日はこれでー。」


 ラミアは、親しげにシュルクの肩に手を置く。
 その行為は、フィオリアの怒りを煽るものに他ならなかった。


「ま、よくよく考えてよ。悪いようにはしないから。」
「いい加減にして!」


 途端に激情を取り戻したフィオリアが、ラミアの手を叩き落とす。


「シュルクは、あなたの仲間になんかならない!!」


 自分としては、明らかな事実を言ったまで。
 ラミアはそんなフィオリアを見つめ、妙に神妙な面持ちをした。


「あたし、思うんだけど…。あんたみたいな潔癖な人って、自分の理想を他人に押しつけがちよね。あたしはこの坊やに話をしてるんであって、別にあんたの意見を聞いてるわけじゃないの。ご主人様なのか運命の相手なのか知らないけど、この坊やの選択をあんたが決める権利なんてあるのかしら?」


「それは…っ」


「まあ、奴隷を扱ってるあたしが言えた口じゃないかもだけど。あたしは、運命の相手と添い遂げることだけが幸せだとは思わないわね。自分の運命の相手ならこうだって夢を見られて、勝手な妄想を押し付けられても迷惑だし。あんたはどうなのかしら? そこの坊やに勝手に期待して、勝手に幻滅してない?」


「―――っ!!」


 思わず口をつぐむフィオリア。
 悔しいが、何も言い返せなかった。


 勝手に期待して、勝手に幻滅している。
 ラミアの指摘は、今の自分を的確すぎるほどに表現していたから。


「それじゃあ、おやすみなさい。」


 決して消えないしこりを残し、ラミアは一人で消えていく。
 残された二人の間には、重たげな沈黙が落ちるばかりだった。

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