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第21歩目 何を一番にするべきか
道標を見失う心
しおりを挟む「シュルクの馬鹿、シュルクの馬鹿、シュルクの馬鹿!!」
部屋に置いてあった軽食を口に運びながら、フィオリアは憤慨していた。
部屋に戻ってすぐ、机の上に軽食が置いてあったことに気付いた。
しかも、ご丁寧に二人分。
シュルクが気を利かせてくれたんだ、と。
それに思い至り、湧き出してきたのはシュルクへの不満と怒りだった。
こんな風に自分を気遣ってくれる優しさがあるくせに、どうしてラミアたちの悪事に目をつむっているのだ。
さっきだってそう。
自分が感情的に訴えかけるより、シュルクが論理的に危険を呈示した方が従業員たちに危機感が伝わったと思う。
それだけの話術と説得力が、彼にはあるんだから。
……それなのに、シュルクは動かなかった。
本当は味方になってほしかったのに、睨まれたあの瞬間〝余計なことはするな〟と言われたようで、とっさに口をつぐんでしまった。
確かに、シュルクに甘えて何もかもを任せきりにするのはよくないと思う。
でも、あんなにも強くて有能な彼なら、少しでも多くの人を助ける術を打ち出せるはずだ。
もう奴隷になってしまった人は助けられないにしても、これから奴隷になるかもしれない人たちなら、いくらでも助けられるはずなのに……
どうして?
どうして、シュルクはラミアに手出ししないなんて言ったの?
そう問いかけて意見をした時、シュルクははっきりと〝俺には無理だ〟と言った。
何故、そんな風に他の皆を切り捨てたのか。
自分には、それが分からない。
確かに、奴隷商を根絶やしにすることは不可能だろう。
シュルクの言うとおり、この一回を止められたとしても、自分たちの知らないところで犠牲者は増えていくだけ。
でも、だからといって、数少ない人々を今目の前にある危険から遠ざけることすら許されないのか。
もう捕まってしまったかもしれない人たちのことを思うと、やりきれなくてたまらない。
「……静か。」
ふと黙ると、辺りにしんとした静寂が満ちる。
隣の部屋からは、物音一つ聞こえない。
きっと、皆ぐっすりと眠っているのだろう。
今なら、眠っているのではなく眠らされているんだと分かるけれど。
……なんだか、独りぼっちになったみたいだ。
今日は、できる限りのことをした。
ここは危険だって、ありったけの思いを込めて訴えた。
それなのに、誰も信じてくれない。
唯一の味方であるシュルクですら、今回は寄り添ってくれない。
「うう…っ」
フィオリアは、自身の膝を抱いてうなだれる。
こんなにも大きな孤独感を味わうのは、生まれて初めてかもしれない。
なんだか、少し変な気分。
運命の人を永遠に奪われてきた前世よりも、ちゃんと隣にいる運命の人に寄り添ってもらえない今の方が寂しいなんて。
「私、欲張りになっちゃってるのかな……」
悲しい運命を辿るしかなかった、これまでの輪廻転生。
こんなにも長い間、運命の人と共に歩めた記憶はない。
呪いがシュルクを蝕み始めてしまったことは不安だけど、いつだって彼は毎朝「おはよう」と言って隣にいてくれる。
理不尽な運命に挫けない前向きさと、それを後押しするような生命力の強さ。
シュルクならきっと、運命に負けないんじゃないか。
彼と一緒なら、恐れずに明日を迎えられるんじゃないか。
そう期待している自分がいる。
そして、その期待が勝手に大きくなりすぎていたのだろう。
『なあ……―――お前は、俺に何を求めてるんだ?』
そう問われて、ハッとした。
シュルクなら、きっとなんとかしてくれる。
無意識でそう思っていたことに気付かされた。
シュルクが言うように、恵み子としての能力を過信していたのかもしれない。
でも、ミシェリアを死の縁から救ってみせたあの能力に、期待するなと言う方が無理というもの。
「もう……分かんないよ…っ」
シュルクが言うことにも一理ある。
でも、自分が間違っているとは思わない。
そんな複雑な気持ちで、溜め息をついていると―――
「いい加減、離れろって。」
ふと、部屋の外から声が聞こえてきた。
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