Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
201 / 236
第20歩目 静観

意味を成さない行動

しおりを挟む
 フィオリアはあれから、会う人々に漏れなく声をかけて危険を訴えた。


 しかし、コルムの例もあったように、彼女の言葉を真に受けたのは数人にも満たなかった。


 このツアーの評判はお墨付きだし、実際にツアーに参加して無事に帰って来た人もいる。


 それに、専属の護衛もついているのだから、そこまで心配しなくてもいいだろう。


 大多数の答えがそれだ。


 おそらく、ラミアはツアーが怪しまれないように、連れ去る人数を調整しているのだろう。


 客の中にラミアの仲間が紛れていることを考えると、ツアーから戻ってきた人が本当に一般人なのかという疑問は出てくるけれど。


 訴えては空振りに終わり、悔しそうに歯噛みするフィオリア。


 そんなフィオリアを間近で見つつも、やはりシュルクは口を閉ざし、時には騒ぎ立てるフィオリアに代わって頭を下げた。


 しかし、それはフィオリアが望む対応ではないわけだ。


 シュルクが頭を下げるほど、フィオリアは機嫌を悪くしていく。


 数時間が経つ頃には、シュルクの隣から離れこそしないものの、意地を張ったように口をかなくなってしまった。


 仕方ない。
 自分がラミアを見過ごしているうちは、フィオリアとの関係修復は望めないと思おう。


 とはいえ、彼女に自分のような無茶を押しつけるのかと言えば、それはまた別問題。


 自分と同じように宿で出された食事を食べなかったフィオリアを気遣い、シュルクは自由時間に外へ出て、二人分の軽食を買ってから宿に戻った。


「シュルクさん。」


 部屋のドアをノックされたのは、部屋に軽食を置いてすぐのこと。


 自分が帰ってくるのを待ちわびていたのだろう。
 訪ねてきた従業員の男性は、自分を見ると明らかにほっとした顔を見せた。


「ちょっと、こちらに……」


 そう言われて連れていかれたのは、関係者以外立入禁止の従業員エリアだ。


「信じてください!」


 耳をつんざく甲高い声。
 事情を説明されるまでもなかった。


 通された部屋では、フィオリアがツアーの従業員に、ラミアのことについて訴えているところだったのだ。


「そうは言われましても……」
「あの気前のいいラミアさんが、ねぇ……」


 従業員たちも、相当困惑している様子。


「本当ですって! 私は直接聞いたんです! 今からでもツアーを中断して、リドーに戻ってください!!」


 対するフィオリアは必死だ。


 気持ちは分かる。
 それはもう、痛いほどに。


 しかし、その行為に意味はない。
 意味などないのだ。


 シュルクは歪みそうになる顔を無表情で飾り、フィオリアに近付いた。


「お嬢様、騒ぐのはそれくらいに。」


 控えめにフィオリアの肩を叩き、シュルクは彼女の前に一歩踏み出した。
 そして―――


「お嬢様がお騒がせしたようで、申し訳ありません。」


 困っている従業員たちに向かって、深く頭を下げる。


「シュルク!」


 途端にフィオリアが非難めいた声をあげるが、シュルクはそれをひと睨みで黙らせる。


「……ですが、不穏な噂は俺も聞いています。」


 再度従業員たちに視線を戻し、シュルクはフィオリアから話の主導権を取り上げた。


「なんでも、ネラみさき周辺を根城にしている奴隷商がいるらしいとか。別に、ツアーをやめろとは言いません。ただ、万全を期すなら、護衛を増員した方がいいでしょう。何かあったとしても、俺はお嬢様をお守りするので手がいっぱいですので。」


「え、ええ…。そのくらいなら……」


「ありがとうございます。お嬢様、これでご満足なさってください。部屋に戻りますよ。」


 無理やり背中を押し、フィオリアの体を部屋の外に出す。
 次の瞬間、フィオリアは黙ったままその場から駆け出してしまった。


「あらあら…。あのかわい子ちゃん、すっかりねちゃったわねぇ。」


 当然のように割り込んでくる声。


「誰のせいだと思ってんだよ……」


 部屋の奥から姿を現して隣に並んできたラミアに、シュルクは思わず額を押さえて溜め息をついた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

処理中です...