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第20歩目 静観
非情な現実
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フィオリアは木陰に隠れ、ラミアを注意深く観察していた。
今のところ、怪しい挙動はない。
入れ替わり立ち代わり、色んな人との会話を楽しんでいるようだ。
そんな中、何人かのツアー客がラミアに声をかけて上の方を指差した。
どうやら、上に行かないかと誘われているようだ。
ラミアはその誘いに応じ、彼らと共に上に繋がる階段へと向かう。
それを追いかけて階段に近寄ると、ラミアたちが賑やかに話しながら階段を上っていくところ。
息を殺して様子を窺っていると、彼女たちは階段の途中で脇道に入っていった。
見失う前に距離を詰めなければ。
急いで階段を駆け上がると、ラミアたちが曲がったと思われる場所の茂みが不自然に分かれていた。
その先には、細くもくっきりとした獣道が続いている。
誰かが定期的に通っているのだろう。
しかし、この島を管理する関係者ならともかく、客として訪ねてきただけの彼女たちが、こんな山の深くになんの用があるというのか。
ますます広がる猜疑心。
フィオリアはぐっと唇を引き結び、なるべく音を立てないように茂みを掻き分けた。
歩いてほどなく、木々の向こうに大きく開けた場所があるのが見えてくる。
おそらく、何かの作業場なのだろう。
地面に積まれた丸太がいくつかの山を作っていて、シャベルや鍬などが雑然と置かれている。
ラミアたちは、その近くで円を描くように集まっていた。
男性の一人がラミアに煙管を渡す。
彼女がそれを受け取ると、彼が当然のようにそこへ火をつけた。
煙管を大きく吸って、細い煙と共に息を吐くラミア。
そこに、先ほどまでの気さくな彼女はいなかった。
「―――で? 今回はどう?」
「上々です。逆らう奴はいません。」
さっきまで軽そうな雰囲気だった男性も、今はラミアに付き従う下僕のような態度だ。
「呪術班、作業の進捗は?」
「問題ありません。明日までには、一通りの作業を終えるかと。」
ラミアの問いに、下ではおっとりとした天然キャラだったはずの女性客が、淡々とした冷静な口調で答えた。
「順調なら結構。今回は番になっている獲物も多いわ。運命石も高く売れるでしょう。石売りにも声をかけておいてちょうだい。」
「分かりました。」
「品評会はいつもの場所で、と。各所にも伝令を出してちょうだい。」
「はい。」
次々と交わされる、残酷な言の葉。
それを聞くフィオリアは、とっさに両手で口を覆った。
そうでもしなければ、情けなく叫び出してしまいそうだったのだ。
本当は、嘘であってほしかった。
ラミアたちはここで取り留めのないおしゃべりを楽しんでいただけで、戻ったらシュルクに散々怒られて、それでも笑って〝大丈夫だったよ〟って言って。
そんな未来を、心のどこかで期待していたのに……
悲しい。
奴隷商が目の前にいるという事実が。
悔しい。
ラミアの正体も知らずに、シュルクだけに全てを押しつけていたことが。
自分は、いつだってこうだ。
いつもいつも、後になってから現実を知るんだ。
でも……こんな現実、あってほしくなかった。
脳裏で揺れるのは、徹底した警戒ぶりを貫いていたシュルクの苦しそうな表情。
彼は、ダントリアンで何を見てきたのだろうか。
「そういや、ラミアさんのお気に入りはどうするんです?」
「………っ」
悔恨の渦に飲み込まれていたフィオリアは、そこで現実に戻る。
ラミアのお気に入り。
絶対にシュルクのことだ。
「あー…。あの子ね……」
問われたラミアは、ほうと溜め息を一つ。
「狙ってるんだけど、隙が全然ないのよ。下処理をしておくのは難しいかもね。」
「そうですか…。でも、諦めるつもりはないんでしょう?」
「当たり前じゃない。」
にやりと吊り上がる、紅を引いた唇。
それに、ぞくりと寒気がした。
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