Fairy Song

時雨青葉

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第19歩目 闇は、確実に忍び寄って―――

突発の戯れ

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 無言で海を見つめるシュルクとフィオリア。


 雰囲気だけは恋人そのものといった二人の後ろで、微かに砂を踏む音がしたのはその時だった。


「この話は、ここで終わりだ。」
「きゃっ!?」


 口早に告げたシュルクは、次の瞬間フィオリアを抱いてその場を飛び退いた。
 それから一拍遅れて、さっきまでいた場所を水の線が通過していく。


「ちっ、けたわね……」


 どこか悔しそうな声。
 見れば、簡素な水鉄砲を持ったラミアが歯噛みしていた。


「何か?」


「いーえー? なーんかイチャついてるカップルが見えたから、文字どおり水を差そうかと思って?」


 悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべるラミアは、こちらに向けて再び水鉄砲を構えてくる。


「もう……ラミアさんったら、容赦なさすぎ。」
「こりゃ、着替えてこないとだめだなー。」


 彼女の後ろでは、すでに被害にったらしい客たちがずぶ濡れになっている。
 これも旅の思い出と思っているのか、彼らは笑うだけで不快そうではなかった。


「ほらほらほら! 研究だかなんだか知らないけど、ちゃっかりやることはやってるんじゃないのよ。正直に言って、うらやましいったらないわ!」


 立て続けに襲い来る三連発。
 それらを、シュルクはフィオリアを抱きながら華麗にけていく。


 たまたま目についたので、通りがけのテーブルに差さっていたパラソルを拝借し、四発目と五発目もやり過ごす。


「あーっ! 道具を使うなんてずるい!」
「道具を使ってる人に言われたくないです。」


「くーっ、余裕なのが余計に腹立つ! こうなったら、何が何でも当ててやる。」
「単なるひがみなら、お帰りいただいてもよろしいでしょうか?」


「うっわ、一番やなとこを突いてきた!! あんた、結構性格が悪いわね!?」
「お褒めにあずかり恐縮です。」


「やな奴ーっ!!」


 言葉こそ刺々とげとげしくはあったものの、ラミアはどこか楽しそうに次の水鉄砲を構えた。


 ……これは、長くなりそうだ。


 そう思ったシュルクは、一旦フィオリアと共にコテージに戻る。


「これ、よろしく。」


 テラス席にフィオリアを座らせ、畳んだパラソルを渡す。


「一応、気をつけとけよ?」


 小声でそうとだけ耳打ちし、シュルクは改めてラミアの前へと立った。


「さて、気が済むまでどうぞ?」
「言ったわね?」


 ラミアはすっかりやる気満々だ。


「あたしの射撃テク、なめるんじゃないわよ?」
「そちらこそ、俺の護衛としての腕をなめないでいただきたいですね。」


「なになに? なんか面白そう!」
「シュルクさーん! オレたちの仇は頼みましたよー!!」


 ギャラリーもギャラリーで、煽りに入ってくる始末。


 まあ、いいだろう。
 こちらに注目を集めておけば、フィオリアに変なちょっかいを出されずに済む。


「じゃあ、よーい始め!」


 気をよくした誰かの合図で、しょうもない戦いが幕を開ける。
 そしてそれは、馬車の出発時間ギリギリまで続くことになった。

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