Fairy Song

時雨青葉

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第18歩目 観光ツアー

突貫設定

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「いやぁ~、これは驚いた。想像以上の美男美女で。」


 待ち合わせ場所に現れた若い男性は、シュルクとフィオリアの容姿を見るなり高い口笛を吹いた。


「急な特別追加だってんで、どんな上客だと思ってましたけど、これなら納得ですね~。お嬢さん、いいとこ育ちでしょう? 立ち居振舞い見てりゃ、すぐに分かりますよ。」


 前を先導して歩く男性は、とても気さくに語りかけてくる。


 ほら見ろ。
 やはり、誰の目から見たってフィオリアの育ちがいいのは明らかだ。


「だから言ったろ。滲み出てるって。」
「はい……」


 こっそり言ってやると、フィオリアはなんとも言えないような複雑な顔をした。


「それにしても、こんな所にどんなご用で? ここで商売をしてるくせに何言ってんだって感じですけど、治安はよくないですよ?」


「彼女は霊子学を学んでいて、その学術研究の一環なんですよ。今度の発表のために、どうしてもネラみさきに行く必要があって。」


 男性の問いかけに、シュルクがいち早く答える。


「はぁ~、お若いのに学者さんなんですねぇ。お兄さんは?」


「俺は、彼女の助手兼護衛だと思ってもらえれば。」


「なるほど。そりゃ、いいとこのお嬢さんともなれば、護衛の一人や二人はつきますよねぇ。」


「そういうことです。なので、今回のツアー参加にあたって何かあれば、俺に言ってもらえると。」


「承知です。他の者にも伝えときますね。」


 フィオリアのお嬢様オーラのおかげで、話がトントン拍子に進んでくれて非常に助かる。


 ひとまず話を都合のいい方向に持っていったシュルクは、最後にフィオリアの脇を小突いた。


「……ってなわけで、そういう設定でいくからよろしく。」 


 極限までひそめた声で一言。


 それまで話についていけずにわたわたとしていたフィオリアは、それを聞くと余計に慌て出した。


「設定って……設定って何!? 学者なんて、そんな…っ。私、何を話せばいいの!?」


「落ち着け。学者がいつでも小難しい話をしてるわけないだろ。普通にしてればいいんだよ。」


「でも、もし何か訊かれたら……」


「その時は、テキトーになんか言っとけ。」


「えええっ!?」


 早くも眉をハの字にするフィオリア。
 思わず、溜め息が漏れた。


「お前な、少しは柔軟になれよ。これから先、こんなことは腐るほどあるぞ。」


 本当に、彼女がどうしてここまで馬鹿正直なのか分からない。


 お偉いさんたちがつどう社交界など、笑顔で嘘を吐き合っては腹の探り合いばかりしている世界じゃないか。


 なんだかんだ、彼女は今までずっと、リリアの憎悪以外からは守られてきたのではないだろうか。


 城の人々にか、ヨルにか、あるいはリリアに。
 だとしたら―――


「………」


 この時よぎった思い。
 シュルクはそっと瞳を閉じ、それにふたをした。


「あとな、お前は物事を自分に都合よくとらえようとしてみろ。」


 すっかり弱気モードのフィオリアに、シュルクはそう告げる。


「俺は助手兼護衛って言ったろ? 困ったら〝シュルク、代わりにご説明してあげて〟って、俺に話を丸投げすればいいんだって。俺を都合よくこき使え。」


「待って! シュルクのお嬢様像って、そんな感じなの!? 私、かなり高慢じゃない!」


 シュルクの認識に驚くフィオリア。
 対するシュルクの表情は、どこか不思議そう。


「お嬢様って、そんなもんじゃないのか?」
「全員が全員、そうじゃないよ!」


「じゃあ、上手く猫を被れ。フォローは全部俺がするから。」
「そんなぁ……」


 急な無理難題だったのか、フィオリアは早くも涙目になっている。
 それをさっと流して前を見ると、案内役の男性が物珍しそうにこちらを見ていた。


「随分と仲がよろしいようで。」
「まあ、いつもこんな感じです。頼りない主人でお騒がせします。」
「あはは、大丈夫ですよ。うちには、色んなお客様が来るんで。」


 おおらかに笑う彼には、こちらを怪しんでいる雰囲気はない。


 よかった。
 先ほどまでのこそこそ話は、特に聞かれていないようだ。


「じゃあ、移動がてら今回のツアーのご説明をしますね。」


 慣れた様子で、彼が口を開く。


「まずは、この先にある集会所にご案内します。ツアーは明日からなんで、今日はその集会所にお泊まりください。それから三日かけて、ネラみさきを目指しつつ、うちがおすすめする観光名所を回ります。自由度の高いツアーなんで、もしお気に入りの場所を見つけたら、そこでツアーを離脱することも可能です。その際は、きちんと帰り道まで護衛をつけますんでご安心を。」


「なるほど。お嬢様、見所満載だからって、勝手に俺から離れないでくださいよー?」


「もう! また子供扱いする!」


「ははは!」


 こちらのやり取りに、男性は豪快に笑うだけ。


 とりあえず、怪しまれることなくツアーに潜り込むことはできそうだ。
 そう確信できたシュルクは安堵するのではなく、腹に力を入れ直すのだった。

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