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第18歩目 観光ツアー
思わぬ贈り物
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それから、シュルクはいくつかの店に立ち寄っては、持ちきれるだけの食料と飲料を買い漁った。
いくつか持とうかと提案したのだが、そこまで重いものを持てないくせに無理を言うなと一蹴されてしまった。
そして、彼が最後に寄ったのは服飾店。
「ちょっと、ここで待ってろ。」
そう言われたので、店の入り口で待つこと十分ほど。
「悪い。待たせたな。」
シュルクの声がして、条件反射でそちらを振り返る。
すると、ふわりと何かが肩にかけられた。
羽まですっぽりと覆い隠す外套だ。
薄いベージュ色の生地は軽くて、手触りもかなり心地よい。
目立ちはしないが、袖口やポケットにフリルがあしらわれていて、シンプルながらも可愛いデザインだ。
「……まあ、こんなもんか。変ではないな。」
外套のボタンを留めた後、フィオリアの姿を上から下まで眺めたシュルクは、そう言うと肩から力を抜いた。
「窮屈かもしれないけど、寝る時以外はそれで羽を隠しとけ。羽を傷つけられると厄介だからな。」
言いながら、シュルクは自身も外套を羽織る。
「…………えっ!? ちょっと待って!!」
かなり遅れて声をあげるフィオリア。
「なんだよ。悪いけど、デザインにケチつけんなよ? こういう場所に女を連れて入ると長いって、ルルンできっちり学んでんだ。時間もなくなってきたから、俺が勝手に選んだ。事情を汲んでくれ。」
「それは全然問題ないんだけど! な、なんで……」
「なんでって、防衛目的だけど?」
「だったら、私のも安いやつでよかったよ! これ、そこそこいいものじゃない!!」
肌触りと見た目が語っている。
シュルクが着ているものと自分が着ているものとでは、値段が全然違うと。
「お前は育ちのよさが滲み出てるから、安いもんだと逆に浮くんだよ。ちゃんと似合うやつを選んできたんだから、文句を言わずに着ておけ。」
「………っ」
馬鹿みたいに真剣な表情で言われてしまえば、こちらはもう何も言えない。
どうしてこの人は、自分の予想を遥かに超えることばかりしてくれるのだろう。
(私に見立ててくれたんだよね、これ……)
シュルクにとっては、ただの必要経費だったのかもしれない。
でも、彼が自分のことを考えながらこれを選んでくれたことは事実。
なら、これを特別な贈り物だと思うのは、自分の自由じゃないだろうか。
「……ふふ、ありがとう。」
いい香りがする外套の袖口に顔をうずめ、フィオリアは心底幸せそうに笑う。
(宝物が、どんどん増えてくな……)
何も手に入れられないと思って、全てを諦めてきたこれまで。
でも、勇気を出してルルーシェという檻を飛び出した今、この手の中は大切で暖かな特別でいっぱいだ。
そして、それを幸せだと思えるのは、他でもない彼がフィオリアとして生きる道を示してくれたから。
これから、もっともっと強くなろう。
自分は自分だと。
幸せな自分を、正々堂々と誇れるように。
そして、まぶしい道を突き進む彼の隣に、恥じることなく並べるように。
「じゃ、行こっか!」
明るく笑い、フィオリアはシュルクの手に自分の手を絡めた。
いくつか持とうかと提案したのだが、そこまで重いものを持てないくせに無理を言うなと一蹴されてしまった。
そして、彼が最後に寄ったのは服飾店。
「ちょっと、ここで待ってろ。」
そう言われたので、店の入り口で待つこと十分ほど。
「悪い。待たせたな。」
シュルクの声がして、条件反射でそちらを振り返る。
すると、ふわりと何かが肩にかけられた。
羽まですっぽりと覆い隠す外套だ。
薄いベージュ色の生地は軽くて、手触りもかなり心地よい。
目立ちはしないが、袖口やポケットにフリルがあしらわれていて、シンプルながらも可愛いデザインだ。
「……まあ、こんなもんか。変ではないな。」
外套のボタンを留めた後、フィオリアの姿を上から下まで眺めたシュルクは、そう言うと肩から力を抜いた。
「窮屈かもしれないけど、寝る時以外はそれで羽を隠しとけ。羽を傷つけられると厄介だからな。」
言いながら、シュルクは自身も外套を羽織る。
「…………えっ!? ちょっと待って!!」
かなり遅れて声をあげるフィオリア。
「なんだよ。悪いけど、デザインにケチつけんなよ? こういう場所に女を連れて入ると長いって、ルルンできっちり学んでんだ。時間もなくなってきたから、俺が勝手に選んだ。事情を汲んでくれ。」
「それは全然問題ないんだけど! な、なんで……」
「なんでって、防衛目的だけど?」
「だったら、私のも安いやつでよかったよ! これ、そこそこいいものじゃない!!」
肌触りと見た目が語っている。
シュルクが着ているものと自分が着ているものとでは、値段が全然違うと。
「お前は育ちのよさが滲み出てるから、安いもんだと逆に浮くんだよ。ちゃんと似合うやつを選んできたんだから、文句を言わずに着ておけ。」
「………っ」
馬鹿みたいに真剣な表情で言われてしまえば、こちらはもう何も言えない。
どうしてこの人は、自分の予想を遥かに超えることばかりしてくれるのだろう。
(私に見立ててくれたんだよね、これ……)
シュルクにとっては、ただの必要経費だったのかもしれない。
でも、彼が自分のことを考えながらこれを選んでくれたことは事実。
なら、これを特別な贈り物だと思うのは、自分の自由じゃないだろうか。
「……ふふ、ありがとう。」
いい香りがする外套の袖口に顔をうずめ、フィオリアは心底幸せそうに笑う。
(宝物が、どんどん増えてくな……)
何も手に入れられないと思って、全てを諦めてきたこれまで。
でも、勇気を出してルルーシェという檻を飛び出した今、この手の中は大切で暖かな特別でいっぱいだ。
そして、それを幸せだと思えるのは、他でもない彼がフィオリアとして生きる道を示してくれたから。
これから、もっともっと強くなろう。
自分は自分だと。
幸せな自分を、正々堂々と誇れるように。
そして、まぶしい道を突き進む彼の隣に、恥じることなく並べるように。
「じゃ、行こっか!」
明るく笑い、フィオリアはシュルクの手に自分の手を絡めた。
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