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第17歩目 奴隷の町
こんな物一つに―――
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あれだけ脅しておけば、間違っても自分を取っ捕まえに来ようとはしないだろう。
試しにしばらく隙だらけで歩いてみたが、あの石売りが追いかけてくる気配はなかった。
「……とりあえず、一件落着か。」
十分に他人の気配が遠退いて完全に一人になれたところで、シュルクはようやく一息つく。
いやはや。
こんなところで、あの時のライトマイトが役に立つとは。
自分用にと、少しばかり持っておいてよかった。
それに、あの石売りの変装が簡単に暴ける程度のものだったことも幸運だった。
知っている奴に変装のプロが一人いるのだが、あのレベルで正体を隠されていたら、自分も太刀打ちできなかった。
「相手の油断を誘うなら、あえて隙を見せろ……か。なんか、この町に入ってからあいつの助言が活きてばっかだな。」
ふと呟き、思った以上に複雑になった。
別に、彼のことは嫌いなわけじゃないのだけど、なんとなくこう……苦手なのである。
(……やめよ。)
くだらない回想を早々に断ち切り、シュルクは深く考え込む。
「運命石にかける呪術、か……」
石売りの話を聞き、バーティスが告げたヒントの意味は分かった。
この呪術の存在を知っているか否かで、この先の展望はかなり変わる。
それについては、入念に対策を練っておこう。
自分がはたと気になったのは、別のことだ。
(そういや、運命石を集めた先のことは、まだ考えてなかったな。)
まさか、運命石を全て集めれば万事解決というわけではあるまい。
その先に待ち構える、セイラが運命石にかけたという呪いを解くことが重要だ。
とはいえ霊神召喚と違い、まじないや占いは口述で技術を伝えることがほとんど。
調べようにも、資料が手に入らないだろうことは容易に想像がつく。
―――仕方ない。
手間と時間はかかるし、苦手意識をこらえる必要があるけれど、あいつにコンタクトを取るしかなさそうだ。
この後にやるべきことをざっと頭の中に並べ、その多さと手間に思わず辟易としてしまった。
「俺たちは、こんな物一つにどんだけ振り回されるんだろうな……」
ずっと外套の内ポケットに隠していた運命石を取り出し、それを眺める。
心境は複雑だ。
色んな人に関われば関わるほど、この小さな石に皆が囚われていると知る。
自分たちは運命石と共に生を受け、運命石が導いた相手と添い遂げ、そして運命石と共に命を終える。
だから、この運命石には文字通り自分の運命が宿っていて、運命石に働きかけることは、その持ち主に働きかけるも同義。
そういう考えから、運命石への呪いが生まれたのだろう。
自分の力では運命を変えられなくとも、運命石をどうにかすれば運命を変えられるはずだと、誰かがそう思ったのかもしれない。
取り替えの呪いなんか、まさにそんな願望から生まれたものっぽいじゃないか。
自分が気に入った運命石に、自分の運命を入れ替える。
石売りはそう語った。
つまり、自らの運命は変えないまま、運命石だけを取り替えるわけだ。
ならば逆に―――運命石は変えずに、運命だけを取り替えることもできるはず。
だから問うたのだ。
取り替えの呪いを注文する奴が気に入らないのは、本当に運命石なのかと。
答えはあのとおり。
やはり、少なからずいるのだ。
運命の相手が気に入らないから、他の運命石が導く運命の相手と取り替えに来たという奴らが。
運命を取り替える術の真髄はここにある。
これを理解できたなら、この術の恐ろしさを痛感するはずだ。
だってこの呪いは、運命石という〝物〟だけじゃなくて、運命の相手という〝人〟をも取り替えることができてしまうのだから。
―――でも、運命とは本当にそんな単純なものなのか?
取り替えの呪いの存在に嫌悪しながら、そんな疑問も頭に浮かぶ。
そんな術の一つで運命石も運命の相手もどうにかできてしまうなら、皆はきっと運命の相手を求めて旅なんかしない。
取り替えの術だってもっとポピュラーなものになっていたはずだし、そもそも運命石の存在を重要視する必要だってなくなっていたはずだ。
だけどもし、そんな簡単に運命の相手を取り替えることができるなら―――
(セイラたちは、運命の相手を取り替えた方が幸せだったのかもな……)
その呟きは音になることもなく、胸の奥にひっそりと消えていった。
試しにしばらく隙だらけで歩いてみたが、あの石売りが追いかけてくる気配はなかった。
「……とりあえず、一件落着か。」
十分に他人の気配が遠退いて完全に一人になれたところで、シュルクはようやく一息つく。
いやはや。
こんなところで、あの時のライトマイトが役に立つとは。
自分用にと、少しばかり持っておいてよかった。
それに、あの石売りの変装が簡単に暴ける程度のものだったことも幸運だった。
知っている奴に変装のプロが一人いるのだが、あのレベルで正体を隠されていたら、自分も太刀打ちできなかった。
「相手の油断を誘うなら、あえて隙を見せろ……か。なんか、この町に入ってからあいつの助言が活きてばっかだな。」
ふと呟き、思った以上に複雑になった。
別に、彼のことは嫌いなわけじゃないのだけど、なんとなくこう……苦手なのである。
(……やめよ。)
くだらない回想を早々に断ち切り、シュルクは深く考え込む。
「運命石にかける呪術、か……」
石売りの話を聞き、バーティスが告げたヒントの意味は分かった。
この呪術の存在を知っているか否かで、この先の展望はかなり変わる。
それについては、入念に対策を練っておこう。
自分がはたと気になったのは、別のことだ。
(そういや、運命石を集めた先のことは、まだ考えてなかったな。)
まさか、運命石を全て集めれば万事解決というわけではあるまい。
その先に待ち構える、セイラが運命石にかけたという呪いを解くことが重要だ。
とはいえ霊神召喚と違い、まじないや占いは口述で技術を伝えることがほとんど。
調べようにも、資料が手に入らないだろうことは容易に想像がつく。
―――仕方ない。
手間と時間はかかるし、苦手意識をこらえる必要があるけれど、あいつにコンタクトを取るしかなさそうだ。
この後にやるべきことをざっと頭の中に並べ、その多さと手間に思わず辟易としてしまった。
「俺たちは、こんな物一つにどんだけ振り回されるんだろうな……」
ずっと外套の内ポケットに隠していた運命石を取り出し、それを眺める。
心境は複雑だ。
色んな人に関われば関わるほど、この小さな石に皆が囚われていると知る。
自分たちは運命石と共に生を受け、運命石が導いた相手と添い遂げ、そして運命石と共に命を終える。
だから、この運命石には文字通り自分の運命が宿っていて、運命石に働きかけることは、その持ち主に働きかけるも同義。
そういう考えから、運命石への呪いが生まれたのだろう。
自分の力では運命を変えられなくとも、運命石をどうにかすれば運命を変えられるはずだと、誰かがそう思ったのかもしれない。
取り替えの呪いなんか、まさにそんな願望から生まれたものっぽいじゃないか。
自分が気に入った運命石に、自分の運命を入れ替える。
石売りはそう語った。
つまり、自らの運命は変えないまま、運命石だけを取り替えるわけだ。
ならば逆に―――運命石は変えずに、運命だけを取り替えることもできるはず。
だから問うたのだ。
取り替えの呪いを注文する奴が気に入らないのは、本当に運命石なのかと。
答えはあのとおり。
やはり、少なからずいるのだ。
運命の相手が気に入らないから、他の運命石が導く運命の相手と取り替えに来たという奴らが。
運命を取り替える術の真髄はここにある。
これを理解できたなら、この術の恐ろしさを痛感するはずだ。
だってこの呪いは、運命石という〝物〟だけじゃなくて、運命の相手という〝人〟をも取り替えることができてしまうのだから。
―――でも、運命とは本当にそんな単純なものなのか?
取り替えの呪いの存在に嫌悪しながら、そんな疑問も頭に浮かぶ。
そんな術の一つで運命石も運命の相手もどうにかできてしまうなら、皆はきっと運命の相手を求めて旅なんかしない。
取り替えの術だってもっとポピュラーなものになっていたはずだし、そもそも運命石の存在を重要視する必要だってなくなっていたはずだ。
だけどもし、そんな簡単に運命の相手を取り替えることができるなら―――
(セイラたちは、運命の相手を取り替えた方が幸せだったのかもな……)
その呟きは音になることもなく、胸の奥にひっそりと消えていった。
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