Fairy Song

時雨青葉

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第17歩目 奴隷の町

超過分の情報

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 超過分は、これからもらう。


 そう告げたシュルクは、気配を読ませない動きで手を伸ばすと、石売りの体を壁際に追い込んだ。


 先に懐に入り込んできたのはあちらの方。


 こちらがちょっと体勢を変えるだけで、状況などいかようにも変えられる。
 あちらが動揺しているなら、なおのこと場を支配するのは簡単だ。


「へ…? ちょっ……」


 明らかに狼狽うろたえる石売りには構わず、シュルクは石売りが身にまとうローブの上から脇の下辺りに手を添えて、その手を体のラインに沿ってゆっくりと滑らせた。


「ちょっ……超過分って、そういう!?」


 焦っている石売りは、逃げる余裕もないらしい。
 まあ、簡単に逃げられないように、さりげなくローブのすそを踏んでいるのだけど。


 シュルクは、もう片方の手をそっとフードの中に入れる。


「……へぇ。言葉遣いに見合わず、案外綺麗な顔してんだな。もっと子供っぽいかと思ってたんだけど。」


「ふぇ…? え……あ……」


 あえてつやっぽく言ってやると、フードの中の顔が面白いくらいに百面相を見せる。


 シュルクはくすりと笑い、石売りのあごを捕らえていた手を耳元へと移動させた。
 そこから長い髪の束を一つすくい、自分の口元へと引き寄せる。


「相手の懐に入った時は、それと同時に自分の懐にも相手に入られてるんだと思っときな。俺の運命石を盗めなくて残念だったな。―――お姉さん?」


 口の端を吊り上げて笑みを深めれば、彼女がさっきまでとは別の意味で顔を赤くする。


 図星を突かれた顔だ。


 フードで隠れているからと油断していたのかもしれないが、自分と話す彼女がたまに運命石の在処ありかを探っていることくらい、とっくのとうに気付いていた。


 それを知っていて話に付き合ってやったのは、彼女の弱みを握る算段があったから。
 そして、彼女の話を聞くことがバーティスが言ったヒントだと察したからだ。


「じゃ、もらっとくな? お前の性別と、本当の顔と声の情報。」
「―――あああっ!!」


 かなり遅れて、石売りが大声をあげる。
 動揺のせいで霊神の効果が切れていたことに、ようやく気付いたのだろう。


「まっ、まさかあんた……最初から、それが目的で…っ」


「当たり前。俺だって、自分の立場を分かってんだ。ここを出た瞬間に狩られちゃたまらないよ。弱みの一つや二つくらいは握っとかねぇとな。」


「このっ……だましたのね!?」


「んん? 俺がいつ、お前をだますようなことを言った? 報酬を支払った上で、きっちりと超過分の情報をもらった。別に、嘘はついてないだろ? ……それとも、なーんか変なことでも想像したか?」


 意地悪で訊ねると、彼女は耳まで真っ赤にして口をつぐむ。


 別に、こちらはやましいことをしたつもりなどない。


 彼女の体に触れたのは、体のラインから男か女かを判別するため。
 壁際に追い込んだのは、彼女に逃げられないようにするためだ。


 ……まあ、彼女にそう思い込ませる仕掛け方をしたのは事実だけど。


「俺、記憶力には結構自信があるんだよね。お前も自分の立場が分かってんなら、この意味は分かるな?」


 大きなローブで身を隠し、霊神を使って声まで変えているくらいだ。
 本人も言っていたが、容姿が知られると下手すれば殺されるおそれがあるのだろう。


 運命石―――引いては運命そのものに作用する術を扱うなら、それだけの恨みを買っていてもおかしくはあるまい。


 そうでなくとも、こんな珍しい術を使えるともなれば、卑劣な手段を使ってでも彼女を手に入れようとする強欲たちも多いはずだ。


 石売りはシュルクの言葉に体を震わせ、何度も小さく頷いた。


 ちょうどいい。
 この場で、もう一人に釘を刺しておくとするか。


「安心しろよ。お前が俺に手を出さないなら、俺も口を滑らすことはしない。もし不安なら、後ろにいる奴に助けてもらえばいいんじゃないか? その時は受けて立ってやるよ。ただしその場合、町ごと潰されても文句は言うなよ? コネにも自信があるんでね。じゃあな。」


 掴んでいた髪を離し、シュルクはあっさりと石売りから離れた。

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