Fairy Song

時雨青葉

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第16歩目 迷夢へ

夢と現実を繋ぐ橋で

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「…………あれは……」


 橋の欄干らんかんに背を預けてヒンスたちの帰りを待っていたシュルクは、ヒンスが消えていった先に見えた景色に眉をひそめた。


「……やっぱり、俺がここに来るのは必然だったってことかな。」


 ここに来て、思わぬ収穫を得るとは。
 次の目的地を決める、いい手がかりになるかもしれない。


 とはいえ、本来の目的であるルルーシェの運命石が、まだ手に入っていないのだけど……


「……ふぅ。」


 頭を上げているのが億劫おっくうになってきて、シュルクは視線を下げて眉間みけんを押さえる。


 ルルーシェの運命石はさておき、今は自分がいつまでこの状態を維持できるかが肝だ。


 ブリッグレーを召喚してみて分かったが、この霊神の効果を持続し続けるには相当の霊子を使うのと同時に、強く現実に固執する気持ちが必要になる。


 ―――このまま、夢の中で穏やかに眠ってしまってもいいんじゃないか……


 少しでも気を抜くと、どうしようもなくそう思ってしまうのだ。


 迷夢の方へと誘われそうになる意識と戦いながら、ブリッグレーを保つために全力で霊子を呼び続けているものの、これがいつまで保てるかは分からない。


 頭も痛いし、体も重たい。
 本当に、とんだ災難だ。


 ルルーシェの運命石が迷夢の中にあるとして、それを探すために誰を送り出せというのだ。


 ブリッグレーの中から動けない自分でさえ、こんなにも迷夢に引きずり込まれそうだというのに。


(あいつ、大丈夫だろうな……)


 絶対にミシェリアを連れて帰ってくると約束はさせたが、自分の状態を考えると、さすがに心配になった。


 これだけ脳内を激しく揺さぶってくる衝動に、ヒンスが耐えられるといいのだが……


「ん…?」


 ふと迷夢の方向に視線を向け、シュルクは軽く目をみはった。


 橋の入り口に、ドリオンがいたのだ。


 犬のようにそこに座っていたドリオンは、こちらがその存在に気付くと腰を上げた。
 そして、うろうろと右往左往しては弱々しい鳴き声をあげ、また右往左往しては鳴く。


 まるで、こちらに何かを訴えているようだ。


(もしかして……)


 なんとなく察した。


「いいよ。入ってこい。」


 声をかけてやると、ピクリと耳を震わせたドリオンが弾かれたようにこちらに駆けてきた。


 自分の前で足を止めて座ったドリオンがなんだか忠犬みたいで、シュルクはくすりと笑みを零して、そのたてがみを優しくなでる。


「!!」


 頭をすり寄せてくるドリオンをなでていたシュルクは、思わず手を止めた。
 自分の手がドリオンの口元に触れた瞬間、固いものが手に落ちてきたのだ。


 手のひらを見ると、そこには淡い薔薇ばら色の石が一つ。


「……そっか。お前が持ってたんだな。」


 シュルクは微笑み、いたわるようにあかつき色の背中に手を滑らせた。


「長い間預けてて、悪かったな。ありがとう。」


 自分が傷を受けた時、ドリオンが何かを訴えるような目で迷夢側にいたのは、これを渡したかったからなのだろう。


 そういえば、あの時に感じたどうしようもなく引き込まれるような感覚は、運命石の近くに溜まっている霊子に呼ばれたようなものに似ていた気がする。


 ドリオンは心地よさそうに喉を鳴らし、自分の足元に伏せて地面に頭を置く。


 長年預かっていたものから、ようやく解放されたのだ。
 そりゃあ、寝たくもなるだろう。


「お疲れさん。」


 ドリオンにそう言ってやり、シュルクは迷夢の向こうを仰いだ。

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