158 / 257
第16歩目 迷夢へ
夢と現実を繋ぐ橋で
しおりを挟む「…………あれは……」
橋の欄干に背を預けてヒンスたちの帰りを待っていたシュルクは、ヒンスが消えていった先に見えた景色に眉をひそめた。
「……やっぱり、俺がここに来るのは必然だったってことかな。」
ここに来て、思わぬ収穫を得るとは。
次の目的地を決める、いい手がかりになるかもしれない。
とはいえ、本来の目的であるルルーシェの運命石が、まだ手に入っていないのだけど……
「……ふぅ。」
頭を上げているのが億劫になってきて、シュルクは視線を下げて眉間を押さえる。
ルルーシェの運命石はさておき、今は自分がいつまでこの状態を維持できるかが肝だ。
ブリッグレーを召喚してみて分かったが、この霊神の効果を持続し続けるには相当の霊子を使うのと同時に、強く現実に固執する気持ちが必要になる。
―――このまま、夢の中で穏やかに眠ってしまってもいいんじゃないか……
少しでも気を抜くと、どうしようもなくそう思ってしまうのだ。
迷夢の方へと誘われそうになる意識と戦いながら、ブリッグレーを保つために全力で霊子を呼び続けているものの、これがいつまで保てるかは分からない。
頭も痛いし、体も重たい。
本当に、とんだ災難だ。
ルルーシェの運命石が迷夢の中にあるとして、それを探すために誰を送り出せというのだ。
ブリッグレーの中から動けない自分でさえ、こんなにも迷夢に引きずり込まれそうだというのに。
(あいつ、大丈夫だろうな……)
絶対にミシェリアを連れて帰ってくると約束はさせたが、自分の状態を考えると、さすがに心配になった。
これだけ脳内を激しく揺さぶってくる衝動に、ヒンスが耐えられるといいのだが……
「ん…?」
ふと迷夢の方向に視線を向け、シュルクは軽く目を瞠った。
橋の入り口に、ドリオンがいたのだ。
犬のようにそこに座っていたドリオンは、こちらがその存在に気付くと腰を上げた。
そして、うろうろと右往左往しては弱々しい鳴き声をあげ、また右往左往しては鳴く。
まるで、こちらに何かを訴えているようだ。
(もしかして……)
なんとなく察した。
「いいよ。入ってこい。」
声をかけてやると、ピクリと耳を震わせたドリオンが弾かれたようにこちらに駆けてきた。
自分の前で足を止めて座ったドリオンがなんだか忠犬みたいで、シュルクはくすりと笑みを零して、そのたてがみを優しくなでる。
「!!」
頭をすり寄せてくるドリオンをなでていたシュルクは、思わず手を止めた。
自分の手がドリオンの口元に触れた瞬間、固いものが手に落ちてきたのだ。
手のひらを見ると、そこには淡い薔薇色の石が一つ。
「……そっか。お前が持ってたんだな。」
シュルクは微笑み、労るように暁色の背中に手を滑らせた。
「長い間預けてて、悪かったな。ありがとう。」
自分が傷を受けた時、ドリオンが何かを訴えるような目で迷夢側にいたのは、これを渡したかったからなのだろう。
そういえば、あの時に感じたどうしようもなく引き込まれるような感覚は、運命石の近くに溜まっている霊子に呼ばれたようなものに似ていた気がする。
ドリオンは心地よさそうに喉を鳴らし、自分の足元に伏せて地面に頭を置く。
長年預かっていたものから、ようやく解放されたのだ。
そりゃあ、寝たくもなるだろう。
「お疲れさん。」
ドリオンにそう言ってやり、シュルクは迷夢の向こうを仰いだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※
両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。
多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。
大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。
そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……?
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転生しか勝たん
shiyushiyu
ファンタジー
JK…通称自宅警備員であった私は売れないラノベ作家として、売れる日をいつしか夢見ていた。
決してニートではない。
バイトは作家活動が忙しいからしてないけれど、ラノベ書いてるからニートじゃないし。
確かに冗談で異世界転生してみたいとか思ったけどさ、本当に叶うなんて思わないじゃん?
しかも何の冗談?転生した先が自分が書いてたラノベの世界ってそりゃないでしょー!
どうせ転生するならもっとちゃんと転生したかったよ!
先の展開が丸わかりの、ドキドキもハラハラもない異世界転生!
――――――――――――
アヤメ…主人公のデブスニート
転生先の小説:#自発ください#いいねで気になった人お迎え~お別れはブロ解で~←これのせいで異世界転生しましたw
登場人物:カラアゲ…大男の戦士
ナポリタン…イケメンチャラ男タンク
アヤメ…勇者(男)に転生した主人公のデブスニート(転生した姿はハンサムな男)
世界を支配しようとする魔王に3人のパーティーで挑む!
基本は勇者の魔法で一発
転生先の小説:バンパイアくんとフェアリーちゃん
登場人物:パセリ…主人公(アヤメが転生した姿)
バジル…口の悪いフェアリー
ルッコラ…泣き虫バンパイア

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~
裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】
宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。
異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。
元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。
そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。
大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。
持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。
※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる