Fairy Song

時雨青葉

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第15歩目 掴めない手

静かな霊子たち

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 迷夢の存在がこの地域に根付いたのは、今からおよそ五百年ばかり前のことだという。


 それまでも何者かに襲われた者が目覚めなくなることはたまにあったらしいが、それが霊神のせいだとは誰も思っていなかったようだ。


 読んだ本の中では、ドリオンが頻繁に現れるようになった原因には触れていなかった。


 召喚もしていないのに、勝手に現れるのだ。
 原因が分からなかったのだろう。


 ドリオンの目撃者とその被害者は五~六百年前くらいがピークで、それからは徐々に減少している。


 ニコラに話を聞いてみたところ、今ではほとんど見られなくなっているとのことだ。


 また、ドリオンを従えるとされるサフィロスや、迷夢と現実を繋ぐブリッグレーに関しては、その存在すら疑われているのが実情らしい。


 まあ、ドリオンを抑えるサフィロスで第九霊神だ。


 迷夢への道を開きつつ現実への帰り道を確保するブリッグレーなんて、少なくともサフィロスと同じ第九霊神。


 その効力を加味するなら、第十霊神や第十一霊神が妥当な線だろう。


 どのみち、気軽に召喚できる霊神じゃないのは確か。


 ドリオンと違って自然に現れる霊神じゃないだろうことは想像にかたくないし、そりゃ確かに存在も疑われるわけだ。


 それでもこうして書物にその名が残っているのは、過去にそれらの霊神を召喚した人物がいたから。


 だとすれば、それらを召喚した人物は十中八九めぐだったのだろう。


 恵み子が比較的多く見られた時期は七百年前。
 五~六百年前なら、自分のように能力を持った恵み子はまだ少なくなかったはずだ。


 ならば、自分ならサフィロスやブリッグレーを召喚できるんじゃないかと思ったのだが、そのためには情報が到底足りなかった。


 当たり前だが、ミシェリアから渡された数冊の本をさらうくらいでは、迷夢にまつわる霊神とその背景を理解しきれない。


 そんな中途半端な知識で高位の霊神を召喚するのは、かなり危険である。


 結局、情報は自分の足で探しにいかないといけないわけで……


「……はぁ。」


 とう水晶の前に立ち、シュルクは肩を落とす。


「やっぱり、しっくりこない感じ?」


 隣から、フィオリアが訊ねてくる。


「まあな。昼間っていうのもあるかもしれないけど、霊子のざわめきが少ないな。ここが当たりなのは、確かだと思うんだけど……」


 全身を包む霊子の感覚。
 それは間違いなく、この近くに運命石があることを示している。


 なのに、運命石がどこにあるのかが全く分からない。


 ウェースティーンの洞窟にあった運命石のように光っているわけでもないし、リューリュー山の運命石のように、霊子が集まってその場所を示してくれるわけでもない。


 ここの霊子たちは、やけに静かだ。


 運命石の一歩手前で、手詰まり状態。
 さてさて、どうするべきか。


「……あえて、騒がせてみるか。」


 周囲に自分とフィオリアしかいないことを確認し、シュルクは首のチョーカーに手をかけた。


 普段つけているかせを外すと、それまで存在感を放っていなかった霊子が、途端に輝いて周囲に集まってくる。


「相変わらず、すごいね。」
「まあな。」


 複雑そうに頬をひきつらせるフィオリアに軽く相づちを打ち、シュルクは霊子たちの動きに意識を傾ける。


 自分に群がるように集まってきた霊子たち。


 それらには周囲の四方八方から寄ってくるものの他に、とある一点から寄ってくるものもあった。


「………」


 シュルクは黙したまま、その方向を見つめる。
 そこにあるのは、銅像の手に握られたとう水晶だ。


 チョーカーを首に戻して霊子を弾くように意識してみると、寄り場をなくした霊子たちは、まっすぐに橙水晶へと引き寄せられていった。


「もしかして……こいつ、周りの霊子を吸い取ってるのか…?」


 そうとしか思えない現象だった。
 試しに、とう水晶に手を伸ばしてみたが……


「取れない…?」


 ピッタリと銅像の手に収まっているとう水晶は、そこから一ミリも動かなかった。


「どういうこと…?」
「さあ……」


 困惑するフィオリアの傍で、シュルクは思案げに眉を寄せる。


 仮にこの水晶が霊子を吸収しているとして、その理由はなんだ?


(あれ…?)


 数日前のことをよくよく思い返し、パッとひらめいた。

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