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第14歩目 ぶつかり合う感情
初めての嫉妬
しおりを挟む(もう、シュルクの馬鹿!!)
フィオリアはずんずんと廊下を歩く。
何が自分のためにしか動けない、だ。
十分すぎるほど、他人のために動けているではないか。
(確かに、私の時はおかしな態度だったって言ってたけど……言ってたけど!)
頭で分かっていても、感情がついていかない。
なんでシュルクは、ミシェリアに対してあんなに甘いのだ。
ミシェリアが貴族夫人だから?
いや、そんなはずない。
そこを念頭に置けるなら、ヒンスに喧嘩など売らなかったはずだ。
じゃあ、どうして?
出会ってすぐに軽口を言い合えるほどに打ち解けて、さっきは自分のことをそっちのけで筆談に夢中になって。
ああすることが、シュルク自身のためになるというのか。
シュルクはヒンスからの敵意をいらぬ嫉妬だと言っていたけど、あれでは自業自得じゃないか。
自分だって勘違いしそうになる。
(―――違う。)
フィオリアは、そこで思わず立ち止まってしまった。
勘違いしそうになる、なんて。
そんな生易しいレベルじゃない。
(私、ミシェリアさんに嫉妬してるんだ……)
きっとそれは、ミシェリアたちと会った日の夜中。
シュルクがミシェリアの話を聞き終えるまで、彼女の寝室から出てこなかった時から。
自分には、あんなにストレートな優しさを見せてくれなかったくせに。
あの後シュルクの愚痴を散々聞かされて、あの行動が取り返しのつかない間違いを犯さないためのものだったと知った。
自分の時は、出会いのせいで素直になれなかったのだということも聞いた。
それでも、胸にちょっとしたもやもやはあった。
そして次の朝、そのもやもやはさらに大きくなった。
当然のように近寄ってきたミシェリアを、シュルクは拒絶しなかった。
それどころか、彼女をからかって遊ぶ始末。
先ほどだって、ミシェリアに勉強を教えることを承諾した意図が分からない。
シュルクにとっては、あれが普通なの?
そっちじゃなくて、こっちを見てよ。
ずっと我慢してきたもやもやは、シュルクがどこか心配そうにミシェリアを見ているのに気付いたのをきっかけに、勢いよく爆発してしまった。
これ以上、シュルクにミシェリアを見てほしくなかった。
そう感じるような場面を見たくなかった。
どうにかして、彼の意識をこちらに向けたかった。
これを嫉妬と呼ばずして、なんと呼ぶのか。
(私、どんだけシュルクのことが大好きなんだろ……)
自分の状況を自覚した後には、猛烈な勢いで気まずさが頭を埋め尽くす。
大人げない態度だっただろうか。
いやでも、あれはシュルクだって悪いと思う。
シュルクがああいう態度を取ることがあるとして、それは受け入れよう。
でも、シュルクは自分のものだ。
誰にも譲りたくない。
だから一度だけ……
せめて、一度だけでもいいから―――
「フィオリア様! お待ちになってくださいませ!」
後ろから自分を呼ぶ声。
振り返ると、ミシェリアが自分を追いかけてくるのが見えた。
「あ、あの……フィオリア様……わたくし……」
何かを言おうとしたミシェリアだったが、何があったのか、急に表情を強張らせてしまう。
「ミシェリア。」
何かと問う前に、その答えは反対側からやってきた。
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