Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
135 / 236
第14歩目 ぶつかり合う感情

初めての嫉妬

しおりを挟む

(もう、シュルクの馬鹿!!)


 フィオリアはずんずんと廊下を歩く。


 何が自分のためにしか動けない、だ。
 十分すぎるほど、他人のために動けているではないか。


(確かに、私の時はおかしな態度だったって言ってたけど……言ってたけど!)


 頭で分かっていても、感情がついていかない。


 なんでシュルクは、ミシェリアに対してあんなに甘いのだ。


 ミシェリアが貴族夫人だから?


 いや、そんなはずない。
 そこを念頭に置けるなら、ヒンスに喧嘩など売らなかったはずだ。


 じゃあ、どうして?


 出会ってすぐに軽口を言い合えるほどに打ち解けて、さっきは自分のことをそっちのけで筆談に夢中になって。


 ああすることが、シュルク自身のためになるというのか。


 シュルクはヒンスからの敵意をいらぬ嫉妬しっとだと言っていたけど、あれでは自業自得じゃないか。


 自分だって勘違いしそうになる。


(―――違う。)


 フィオリアは、そこで思わず立ち止まってしまった。


 勘違いしそうになる、なんて。
 そんな生易しいレベルじゃない。


(私、ミシェリアさんに嫉妬しっとしてるんだ……)


 きっとそれは、ミシェリアたちと会った日の夜中。
 シュルクがミシェリアの話を聞き終えるまで、彼女の寝室から出てこなかった時から。


 自分には、あんなにストレートな優しさを見せてくれなかったくせに。


 あの後シュルクの愚痴を散々聞かされて、あの行動が取り返しのつかない間違いを犯さないためのものだったと知った。


 自分の時は、出会いのせいで素直になれなかったのだということも聞いた。


 それでも、胸にちょっとしたもやもやはあった。
 そして次の朝、そのもやもやはさらに大きくなった。


 当然のように近寄ってきたミシェリアを、シュルクは拒絶しなかった。
 それどころか、彼女をからかって遊ぶ始末。


 先ほどだって、ミシェリアに勉強を教えることを承諾した意図が分からない。


 シュルクにとっては、あれが普通なの?
 そっちじゃなくて、こっちを見てよ。


 ずっと我慢してきたもやもやは、シュルクがどこか心配そうにミシェリアを見ているのに気付いたのをきっかけに、勢いよく爆発してしまった。


 これ以上、シュルクにミシェリアを見てほしくなかった。
 そう感じるような場面を見たくなかった。
 どうにかして、彼の意識をこちらに向けたかった。


 これを嫉妬しっとと呼ばずして、なんと呼ぶのか。


(私、どんだけシュルクのことが大好きなんだろ……)


 自分の状況を自覚した後には、猛烈な勢いで気まずさが頭を埋め尽くす。


 大人げない態度だっただろうか。
 いやでも、あれはシュルクだって悪いと思う。


 シュルクがああいう態度を取ることがあるとして、それは受け入れよう。


 でも、シュルクは自分のものだ。
 誰にも譲りたくない。


 だから一度だけ……
 せめて、一度だけでもいいから―――


「フィオリア様! お待ちになってくださいませ!」


 後ろから自分を呼ぶ声。
 振り返ると、ミシェリアが自分を追いかけてくるのが見えた。


「あ、あの……フィオリア様……わたくし……」


 何かを言おうとしたミシェリアだったが、何があったのか、急に表情を強張らせてしまう。


「ミシェリア。」


 何かと問う前に、その答えは反対側からやってきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。

風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。 噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。 そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。 生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし── 「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」 一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。 そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...