Fairy Song

時雨青葉

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第14歩目 ぶつかり合う感情

あの事件に対する考察

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「ここは、どうするんですの?」
「ここは……」


 一応フィオリアに許可を取り、彼女を含めて三人で机を囲むことになった。


 勉強は勉強。


 完全に頭を切り替えたシュルクは無駄なことを一切話さず、ミシェリアも真面目に本と向き合っていた。


 静かになった室内に、ペンを走らせる音がやたらと大きく響く。
 そんな時間がしばらく過ぎた頃。


「………」


 ふと、ミシェリアの手がこれまでと違う動きを見せた。


〈あなたは、昨日のことをどう思いますの?〉


 ノートのすみに、短い一行。
 シュルクはそれを見て、目を細めた。
 その翡翠ひすい色の瞳が、机の上に乗った物を一瞥いちべつする。


 なるほど。
 これの見返りは、そちらの質問に答えることか。


「ああ、そこは少し違いますよ。」


 状況に合う無難な言葉を口にしながら、シュルクは自らもペンを取る。


「ここはこれを使って、こうするんです。」


〈偶然が起こした事故ではないですね。〉


 ミシェリアが書いた文字の近くに、疑問に対する答えを書く。


〈何か、原因があるということですの?〉
〈そうですね。原因は多分、俺ですけど。〉


 その一言を書くと、ミシェリアの手がピタリと止まった。
 驚いた表情でこちらを見るミシェリアに、シュルクは口元で人差し指を立ててみせた。


〈詳しくは秘密です。俺がここを離れればあんなこともなくなると思うんで、そこは安心してください。〉


 ここであえて昨日の事件の原因が自分にあることを隠さなかったのは、こういう意図があってのこと。


 あれが偶発的に起こるものでなく、ある特定の条件下でしか起こらないと分かれば、またいつドリオンが現れたらと無駄に怯える必要もなくなるはずだ。


 ミシェリアが食い入るようにノートの文字を追うのを見ながら、シュルクは次の文章を書き始める。


〈それに、たとえあんな地震が起きたとしても、あのとう水晶を取らなければ、ドリオンは出てこないと思いますよ。〉


「………?」


 ミシェリアは、ぱちくりとまばたきをする。


〈どういうことですの?〉


 少なからず動揺しているようだったが、ミシェリアはペンを動かす手を止めなかった。


〈昨日は、フィオリアがとう水晶を取った後にドリオンが現れたでしょう? それに、フィオリアが橙水晶を落とした後、ドリオンは誰のことも襲わずに消えた。これはあくまでも推測ですけど、あそこに出るドリオンは、橙水晶に触れた奴を攻撃するんじゃないですかね。今日試しに一人で様子を見に行ってみましたけど、俺が橋に入らない限り地震は起きなかったし、ドリオンも出てきませんでした。〉


〈そうなのですね……〉


 口では勉強に関する話をしながら、シュルクとミシェリアは紙の上で別の話を進める。


 賢い人なんだな、と。
 真面目な表情で紙面に目を落とすミシェリアに対して、そんな感想を持った。


 ここに来てから五年でここまでの教養を身につけられたのは、血のにじむような努力だけではなく、それだけの素質が彼女にあったからだろう。


〈どうして、あんなものが作られたんでしょうか。〉


 次なる質問が記される。


〈さあ。それは、俺にも分かりません。気味が悪いですか?〉


「………」


 訊ねると、ミシェリアは答えることを渋るように表情を曇らせた。


 今までただのオブジェだと思っていたものが、とんでもなく危険なものを呼び出すと知ったのだ。


 気味悪がったり、嫌悪したりするのは仕方ない。


〈まあ、俺もあれを見てるのは複雑ですけどね。〉


 素直に感じたことをつづると、ミシェリアが視線だけで〝どうして?〟と続きをうながしてくる。


 シュルクは苦笑を浮かべながら、さらに手を動かした。


〈あの橋と銅像を、じっくりと見たことがありますか?〉


〈いいえ。〉


〈もし気が向いたら、見てみるといいですよ。あの銅像、南側にある四体には羽があるけど、北側にある四体には羽がないんです。〉


「え…」


 ミシェリアが思わず、文章ではなく声で反応を示す。
 シュルクは構わずに先を続けた。


〈多分、北の四体は迷夢にとらわれた人を表してるんでしょうね。目覚めることができないんだから、もう自分の意思で飛ぶことはできない。だから羽がない。最初は、こうなりたくなければドリオンに気をつけろって意味なのかと思ったんですけど……見た感じ、それも違うみたいです。〉


「えっと……」


〈違う、といいますと?〉


 また言葉に動揺を出しかけ、ミシェリアは慌ててノートに疑問をしたためた。


〈―――笑ってるんですよ。〉


 ミシェリアの疑問に対するシュルクの回答は、とてもシンプルだった。

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