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第14歩目 ぶつかり合う感情
フィオリア、膨れっ面。
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朝食を取った後、部屋に訪ねてきたエヴィーに傷の手当てをしてもらう。
(胸くそ悪いな、まったく……)
エヴィーにばれないように無表情を徹底しながら、シュルクは内心でそう毒づく。
ヒンスときたら、自分にあれだけのことを言わせておいて、朝食時に会った時には何事もなかったかのような態度だった。
かといって、ミシェリアとの交流を試みるわけでもない。
結局、朝食の間は基本的に女子二人が和やかに話すだけで終わった。
霊子が寄ってくるから感情を乱したくないのに、旅に出てからというもの、平静という言葉が遠い。
少しでも目をつむることを覚えろという話なのだが、自分の心とはそう上手く御しきれないものだ。
故郷であるウェースティーンにいた時は簡単にできたように思えることが、今はこんなにも難しく感じる。
それは、故郷が平和すぎただけなのか。
もしくは、故郷にいた時の自分が色々と諦めていたからなのか。
(両方、かもな……)
そんなことを思いながら、エヴィーが部屋を出ていくまでは気合いで表情に不機嫌さを出さないようにした。
「シュルク、訊いていい?」
エヴィーが去った直後、当然のように隣にいたフィオリアが口を開く。
「なんだよ。」
「朝から気になってたんだけど、なんでそんなに機嫌悪いの?」
「ああ。ちょっと、ここの旦那様と喧嘩してきた。」
特に隠す理由もなかったし、自分としても吐き出してしまいたいことだったので、シュルクは不機嫌の理由を簡潔に告げた。
すると、フィオリアは一瞬虚を突かれたように固まり、その次に焦りと驚愕がない交ぜになったような顔をした。
「えっ……ええっ!? ちょっと待って! いつのこと!?」
「今朝だよ、今朝。あの野郎、俺を追っかけて外に出てくるくらいなら、中にいるミシェリアさんのとこに行けっての。」
「もう! シュルク!!」
フィオリアはシュルクの正面に回って、その両肩を掴んで揺さぶる。
「ルーウェルさんの時もそうだったけど、なんでそうやってすぐに突っかかっていっちゃうの!? 怪我でもしたら危ないじゃない!」
「あいつが手を上げてくるような奴なら、まだよかったんだけどな。気に入らないもんを気に入らないって言って、何が悪いんだよ。仕事相手じゃあるまいし。」
「今はお世話になってる身だよね!?」
「はっ。そんなん、今朝のことでチャラだ。面倒に巻き込まれていらん嫉妬を買ってるのに、わざわざこっちが空気読む必要ない。」
「いらん嫉妬って……どういうこと?」
「ようは、ひねくれ曲がってても結局は両思いってことだよ。」
そう結論だけを述べたところで、フィオリアにはこちらが置かれている立場の複雑さは伝わらないのだろうが。
案の定理解に苦しむような顔をしたフィオリアに、仕方なくこれまでの経緯を説明してやる。
その結果―――
「………」
フィオリアは、怒りオーラを滲ませて頬を膨らませた。
「なんで怒ってんだよ。」
彼女の怒りの矛先が自分に向いていることを感じ取り、シュルクは眉を寄せた。
「シュルク、一人であそこに行ったの?」
「…………ああ。そこ?」
何がフィオリアの怒りに触れたのかと思えば、そんなことだったのか。
「悪いか?」
特に動じることもなく認めたシュルクに、フィオリアは膨らませた頬をさらに大きくした。
「なんでそんな危ない所に、一人で行っちゃったの!? 昨日の今日だよ!? まだ怪我も治ってないのに!」
「危ないって分かってるから一人で行ったんだよ。お前を連れていけるわけないだろ。」
「何よ。どうせ、私がいたら足手まといだって言うんでしょ。確かに頼りないかもしれないけど、霊神召喚でサポートすることはできるもん。少しは、私を信用してくれてもいいじゃないの!」
「そういう意味で置いていったんじゃねぇよ。ちょっと落ち着け。」
シュルクは軽く息をつき、フィオリアの頭に手を置く。
そして―――
「お前に怪我されるのは、俺が困るんだよ。」
そう、自分の素直な心境を伝えた。
(胸くそ悪いな、まったく……)
エヴィーにばれないように無表情を徹底しながら、シュルクは内心でそう毒づく。
ヒンスときたら、自分にあれだけのことを言わせておいて、朝食時に会った時には何事もなかったかのような態度だった。
かといって、ミシェリアとの交流を試みるわけでもない。
結局、朝食の間は基本的に女子二人が和やかに話すだけで終わった。
霊子が寄ってくるから感情を乱したくないのに、旅に出てからというもの、平静という言葉が遠い。
少しでも目をつむることを覚えろという話なのだが、自分の心とはそう上手く御しきれないものだ。
故郷であるウェースティーンにいた時は簡単にできたように思えることが、今はこんなにも難しく感じる。
それは、故郷が平和すぎただけなのか。
もしくは、故郷にいた時の自分が色々と諦めていたからなのか。
(両方、かもな……)
そんなことを思いながら、エヴィーが部屋を出ていくまでは気合いで表情に不機嫌さを出さないようにした。
「シュルク、訊いていい?」
エヴィーが去った直後、当然のように隣にいたフィオリアが口を開く。
「なんだよ。」
「朝から気になってたんだけど、なんでそんなに機嫌悪いの?」
「ああ。ちょっと、ここの旦那様と喧嘩してきた。」
特に隠す理由もなかったし、自分としても吐き出してしまいたいことだったので、シュルクは不機嫌の理由を簡潔に告げた。
すると、フィオリアは一瞬虚を突かれたように固まり、その次に焦りと驚愕がない交ぜになったような顔をした。
「えっ……ええっ!? ちょっと待って! いつのこと!?」
「今朝だよ、今朝。あの野郎、俺を追っかけて外に出てくるくらいなら、中にいるミシェリアさんのとこに行けっての。」
「もう! シュルク!!」
フィオリアはシュルクの正面に回って、その両肩を掴んで揺さぶる。
「ルーウェルさんの時もそうだったけど、なんでそうやってすぐに突っかかっていっちゃうの!? 怪我でもしたら危ないじゃない!」
「あいつが手を上げてくるような奴なら、まだよかったんだけどな。気に入らないもんを気に入らないって言って、何が悪いんだよ。仕事相手じゃあるまいし。」
「今はお世話になってる身だよね!?」
「はっ。そんなん、今朝のことでチャラだ。面倒に巻き込まれていらん嫉妬を買ってるのに、わざわざこっちが空気読む必要ない。」
「いらん嫉妬って……どういうこと?」
「ようは、ひねくれ曲がってても結局は両思いってことだよ。」
そう結論だけを述べたところで、フィオリアにはこちらが置かれている立場の複雑さは伝わらないのだろうが。
案の定理解に苦しむような顔をしたフィオリアに、仕方なくこれまでの経緯を説明してやる。
その結果―――
「………」
フィオリアは、怒りオーラを滲ませて頬を膨らませた。
「なんで怒ってんだよ。」
彼女の怒りの矛先が自分に向いていることを感じ取り、シュルクは眉を寄せた。
「シュルク、一人であそこに行ったの?」
「…………ああ。そこ?」
何がフィオリアの怒りに触れたのかと思えば、そんなことだったのか。
「悪いか?」
特に動じることもなく認めたシュルクに、フィオリアは膨らませた頬をさらに大きくした。
「なんでそんな危ない所に、一人で行っちゃったの!? 昨日の今日だよ!? まだ怪我も治ってないのに!」
「危ないって分かってるから一人で行ったんだよ。お前を連れていけるわけないだろ。」
「何よ。どうせ、私がいたら足手まといだって言うんでしょ。確かに頼りないかもしれないけど、霊神召喚でサポートすることはできるもん。少しは、私を信用してくれてもいいじゃないの!」
「そういう意味で置いていったんじゃねぇよ。ちょっと落ち着け。」
シュルクは軽く息をつき、フィオリアの頭に手を置く。
そして―――
「お前に怪我されるのは、俺が困るんだよ。」
そう、自分の素直な心境を伝えた。
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