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第12歩目 海を臨む街
仲がよろしくない夫婦
しおりを挟む「―――――へ?」
ミシェリアに腕をしっかりと掴まれ、シュルクはぱちくりと目をまたたいた。
待ってくれ。
一体、何がどうなったらこんなことになるのだ。
頭の中は軽くパニック状態。
これは、丁重にお断りするべきだろうか。
しかし、今までの話を鑑みると、自分がフィオリアの運命の相手であることは彼女たちに伝わっていないようだ。
仮に自分がフィオリアの従者的な立ち位置として認識されているのだとしたら、ここで下手にミシェリアを拒んでしまうと、主人であるフィオリアの顔に泥を塗りかねない。
(おい、どうにかしてくれ!)
そんな気持ちを込めてフィオリアを見るが、フィオリアはフィオリアで想定外の展開に放心状態となっていた。
(おいこら! 今は、お前だけが頼りなのに!!)
自分からは一言も発せられない状況に、シュルクは心の中で叫び声をあげる。
その時―――
「ミシェリア、何をしている。」
背後から、低い男性の声が聞こえてきた。
振り返ると、庭の奥に見える大きな扉から、数人の使用人を引き連れた男性が現れたところだった。
きっと、彼がローム家の当主であるヒンスなのだろう。
(意外に若いな……)
最初に浮かんだ感想はそれだった。
偏屈屋の人嫌いと聞いていたのでどんな頑固親父かと思っていたのだか、あの外見だと、自分と十歳も離れていないと思う。
ヒンスは堂々とした足取りでシュルクたちに近付き、藍色の双眸を険しく細めた。
「客人を中にも通さず立たせたままとは、何を考えているんだ。」
「た、たまたま花の手入れをしている時にいらっしゃったのです。ちょうどよかったので、ここで〈夢と現の狭間〉のご紹介をしていましたのよ。」
ヒンスの厳しい視線を受け、ミシェリアが気まずそうに狼狽えながらそう答える。
「君は奥にいるように、と。そう言ってあったはずだが?」
ヒンスは片眉すら動かさずに、冷たく思えるような言葉をミシェリアに投げつけた。
さすがに、自分の嫁にまでそんな口の利き方をしなくてもいいだろうに。
確かに人付き合いが嫌いだとは聞いていたが、これはミシェリアも苦労が多いことだろう。
別に彼女に無礼なことをされたわけでもないので、叱られるミシェリアの方が気の毒に思えてしまうシュルクだった。
とりあえず、今は助かったと言うべきか。
この様子なら、自分を貸してくれというミシェリアの提案はうやむやになって終わってくれそうだ。
そう思ってちょっと気を抜いた瞬間……何故か、こちらの腕を掴むミシェリアの力が強くなった。
「あら。わたくしに、あなたの言うことを聞く義務なんてなくてよ。」
キッとヒンスを睨み、ミシェリアは強気な態度でそんな反抗的なことを言い放ったのだ。
(はあっ!?)
一度は去ったかと思えたピンチがまた舞い戻ってきて、シュルクは目を白黒させる。
(もしかしなくてもこの二人、仲がよくないのか!?)
ものの数秒で状況を理解。
しかし、シュルクが何かを言う前に、ミシェリアはシュルクの腕を引っ張って屋敷の外に向かって歩き始めてしまう。
「さあ。旦那様は放っておいて、参りましょう。」
「ええっ!? ちょ、ちょっと……」
「下の街に、わたくしお気に入りのレストランがありますの。そこでゆっくりと、旅のお話でも聞かせてくださいな。」
「え、えっと……」
「そうですわ! いつも馬車ではつまらないし、今日は空を飛んでいきませんこと? ちょうど体を動かしたかったので、気晴らしにもなりますわ。」
「奥方様、お待ちください! お二人では危のうございます!!」
後ろから老年の執事が慌ててミシェリアを追いかけるが、彼女はそんなことを歯牙にもかけず、断れないシュルクを引きずってどんどん屋敷を離れていく。
「………え?」
ようやく我に返ったフィオリアは、そんな間抜けな一言を零して、その場に立ち尽くすしかなかった。
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