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第11歩目 嘘はつけない
一つの約束
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受け入れてしまえば、こんなに簡単なことはない。
呪いがどうなろうと、切っても切れない縁で結ばれている以上、互いの存在からはもう逃げられないのだ。
腹をくくった今なら、自分が貫くべき道がはっきりと見える。
「お互い、もう遠慮はなしだ。何がなんでも、呪いを解くぞ。」
シュルクは、高らかにそう宣言した。
「シュルク……」
「なんだ、不安か?」
眉をハの字にするフィオリアに、シュルクは首元から取り出した小瓶を掲げてみせる。
「こんな偶然が、二度も続くと思うか? 次に目指す場所にも、すでに見当がついてるんだ。絶対に大丈夫だよ。それでも不安なら、その不安ごと俺に全部任せとけ。絶対に呪いを解いてやる。」
「でも、それじゃあ……きっと、お母様は余計にあなたを殺そうとするわ。」
フィオリアは顔を伏せる。
「私、あの時……自分が死んでシュルクが自由になるなら、本当にそれでいいって思ったの。でも……でもね……」
シュルクの服の裾を掴んだフィオリアは、その裾をぎゅっと握り締めて拳を震わせた。
「あなたには、幸せになってもらいたい。そう思うのに、私……あなたに助けてもらえたことが嬉しいの。シュルクは、お母様よりも私を優先してくれたんだって……それが幸せで仕方なくて…。でも、そのせいでシュルクが命を狙われ続けるって思うと、私……どうしたらいいのか、分からなくて……」
なるほど。
山頂での一件からやけに沈んでいるなと思ってはいたが、それが理由だったのか。
フィオリアが告げる言葉の一音一音を胸の中で噛み締め、シュルクはふと表情を和らげた。
「ばーか。」
第一声で言ってやったのは、そんな一言。
「なあ、一つ訊くけど……自由って、一体何なんだ?」
「…………え?」
思わず顔を上げて目を丸くしたフィオリア見下ろすシュルクは、腰に手を当てて軽く肩をすくめた。
「俺は自分で決めて、自分のためにお前を助けたんだ。呪いを解いてやるって決めたのも俺だし、これからの未来を選ぶのも俺だろう。俺の気持ちは、誰に縛られたもんでもないんだ。―――それは、自由ってことじゃないのか?」
自由に飛んでいきたいという気持ちをくすぶらせたまま、故郷で穏やかに過ごしていた自分。
命を狙われながらも、自分の気持ちで全てを決めて、今ここに立っている自分。
どちらが清々しく前を向いていられるのかは明白。
だから大丈夫。
今もこれからも、自分の心は強く、そして自由に、どこまでも飛んでいける。
「確かに、お前の母さんからすれば、俺は煙たいだろうな。さっさと始末したいって、そう思われても仕方ない。でも、大したことないから心配すんな。」
フィオリアの髪の毛をぐじゃぐじゃと掻き回し、シュルクは自信に満ちた顔で笑った。
「約束する。俺はお前より先に死なないし、お前のことも俺より先に死なせなんかしない。今まで散々失敗してきたんだ。今度こそちゃんと、二人揃って生き残ろう。」
対の運命石を持つ二人は、同じ瞬間に生まれ落ちるとも言われている。
それが真実だとするならば、どうせなら朽ち果てる時も同じ瞬間で。
不安に揺れるフィオリアへ贈ったのは、ちょっとばかり大袈裟な約束。
でもきっと、自分たちにはこれくらいの約束がちょうどいい。
この約束に乗せた想いが、果てしない輪廻転生を超えてまで彼女たちを包む闇を切り裂く、一条の光となるように。
望みは高く。
願いは強く。
そうやって、がむしゃらに進んでいこう。
「―――……」
茫然とこちらを見上げてくるフィオリア。
そんな彼女の双眸から、透明な雫が落ちていった。
「……シュルク、ひどいよ…っ」
口元を両手で覆ったフィオリアは、そんなことを言って大きく顔を歪めた。
「あなたがそんなことを言うから……思い出しちゃったじゃない。もう、ずっと忘れてたことだったのに…。そんなこと言ってもらえたら、我慢できないよ。私、どんどんわがままになっちゃう。だって本当は……本当は、ずっと………ずっと昔から……」
内側で荒れ狂う感情を必死にこらえているのが分かる。
おそらくこれが、彼女の心を縛る最後の鎖だ。
「言えよ。」
シュルクは優しく語りかける。
「全部吐き出しとけ。お前の心も、ルルーシェの心も、全部受け止めるから。」
「―――っ!!」
その言葉が放たれた瞬間、フィオリアはベッドから立ち上がって、シュルクにきつく抱きついた。
「…………行かないで。」
ぽつり、ぽつりと。
フィオリア本人も忘れていた想いの欠片が零れ落ちていく。
「お願い……行かないで。一人にしないで。もう……孤独なのは嫌。我慢して……あなたを手放したくないの。私の……私の運命の人だもん。セイラお嬢様のものじゃない。私のだもん!!」
血を吐くような叫びが、室内に大きく響いた。
「もう嫌なの! 奪われたくないの!! お願い…っ。もう、私を一人にしないで。私を守って! 私と一緒に生きてよ!! 呪いなんて怖くないって言って。呪いなんかより私が大事だって言って、私を安心させて。あなたは私のものだって、私はあなたのものだって、セイラお嬢様にそれを見せつけてよ!! お願い……お願いだから……もう、置いていかないで…っ」
シュルクの体を掻き抱き、フィオリアは壊れた機械のように、ひたすらに言葉を連ねる。
それはきっと、フィオリアの想いであると同時に、自分の心を守るために押し殺して忘れてきたルルーシェの想いでもあるのだろう。
「………」
シュルクは黙って、フィオリアの言葉を聞き続けた。
言葉を返す代わりに、フィオリアの背中と腰に回した腕に力を込める。
〝全部受け止めるから〟
そんな気持ちを伝えるように、華奢な体を強く抱き締めた。
彼女がいつか、自分の全てを受け入れられるように。
そして、今までの自分を許して心の底から笑えるように。
そんなことを、切に願いながら―――
呪いがどうなろうと、切っても切れない縁で結ばれている以上、互いの存在からはもう逃げられないのだ。
腹をくくった今なら、自分が貫くべき道がはっきりと見える。
「お互い、もう遠慮はなしだ。何がなんでも、呪いを解くぞ。」
シュルクは、高らかにそう宣言した。
「シュルク……」
「なんだ、不安か?」
眉をハの字にするフィオリアに、シュルクは首元から取り出した小瓶を掲げてみせる。
「こんな偶然が、二度も続くと思うか? 次に目指す場所にも、すでに見当がついてるんだ。絶対に大丈夫だよ。それでも不安なら、その不安ごと俺に全部任せとけ。絶対に呪いを解いてやる。」
「でも、それじゃあ……きっと、お母様は余計にあなたを殺そうとするわ。」
フィオリアは顔を伏せる。
「私、あの時……自分が死んでシュルクが自由になるなら、本当にそれでいいって思ったの。でも……でもね……」
シュルクの服の裾を掴んだフィオリアは、その裾をぎゅっと握り締めて拳を震わせた。
「あなたには、幸せになってもらいたい。そう思うのに、私……あなたに助けてもらえたことが嬉しいの。シュルクは、お母様よりも私を優先してくれたんだって……それが幸せで仕方なくて…。でも、そのせいでシュルクが命を狙われ続けるって思うと、私……どうしたらいいのか、分からなくて……」
なるほど。
山頂での一件からやけに沈んでいるなと思ってはいたが、それが理由だったのか。
フィオリアが告げる言葉の一音一音を胸の中で噛み締め、シュルクはふと表情を和らげた。
「ばーか。」
第一声で言ってやったのは、そんな一言。
「なあ、一つ訊くけど……自由って、一体何なんだ?」
「…………え?」
思わず顔を上げて目を丸くしたフィオリア見下ろすシュルクは、腰に手を当てて軽く肩をすくめた。
「俺は自分で決めて、自分のためにお前を助けたんだ。呪いを解いてやるって決めたのも俺だし、これからの未来を選ぶのも俺だろう。俺の気持ちは、誰に縛られたもんでもないんだ。―――それは、自由ってことじゃないのか?」
自由に飛んでいきたいという気持ちをくすぶらせたまま、故郷で穏やかに過ごしていた自分。
命を狙われながらも、自分の気持ちで全てを決めて、今ここに立っている自分。
どちらが清々しく前を向いていられるのかは明白。
だから大丈夫。
今もこれからも、自分の心は強く、そして自由に、どこまでも飛んでいける。
「確かに、お前の母さんからすれば、俺は煙たいだろうな。さっさと始末したいって、そう思われても仕方ない。でも、大したことないから心配すんな。」
フィオリアの髪の毛をぐじゃぐじゃと掻き回し、シュルクは自信に満ちた顔で笑った。
「約束する。俺はお前より先に死なないし、お前のことも俺より先に死なせなんかしない。今まで散々失敗してきたんだ。今度こそちゃんと、二人揃って生き残ろう。」
対の運命石を持つ二人は、同じ瞬間に生まれ落ちるとも言われている。
それが真実だとするならば、どうせなら朽ち果てる時も同じ瞬間で。
不安に揺れるフィオリアへ贈ったのは、ちょっとばかり大袈裟な約束。
でもきっと、自分たちにはこれくらいの約束がちょうどいい。
この約束に乗せた想いが、果てしない輪廻転生を超えてまで彼女たちを包む闇を切り裂く、一条の光となるように。
望みは高く。
願いは強く。
そうやって、がむしゃらに進んでいこう。
「―――……」
茫然とこちらを見上げてくるフィオリア。
そんな彼女の双眸から、透明な雫が落ちていった。
「……シュルク、ひどいよ…っ」
口元を両手で覆ったフィオリアは、そんなことを言って大きく顔を歪めた。
「あなたがそんなことを言うから……思い出しちゃったじゃない。もう、ずっと忘れてたことだったのに…。そんなこと言ってもらえたら、我慢できないよ。私、どんどんわがままになっちゃう。だって本当は……本当は、ずっと………ずっと昔から……」
内側で荒れ狂う感情を必死にこらえているのが分かる。
おそらくこれが、彼女の心を縛る最後の鎖だ。
「言えよ。」
シュルクは優しく語りかける。
「全部吐き出しとけ。お前の心も、ルルーシェの心も、全部受け止めるから。」
「―――っ!!」
その言葉が放たれた瞬間、フィオリアはベッドから立ち上がって、シュルクにきつく抱きついた。
「…………行かないで。」
ぽつり、ぽつりと。
フィオリア本人も忘れていた想いの欠片が零れ落ちていく。
「お願い……行かないで。一人にしないで。もう……孤独なのは嫌。我慢して……あなたを手放したくないの。私の……私の運命の人だもん。セイラお嬢様のものじゃない。私のだもん!!」
血を吐くような叫びが、室内に大きく響いた。
「もう嫌なの! 奪われたくないの!! お願い…っ。もう、私を一人にしないで。私を守って! 私と一緒に生きてよ!! 呪いなんて怖くないって言って。呪いなんかより私が大事だって言って、私を安心させて。あなたは私のものだって、私はあなたのものだって、セイラお嬢様にそれを見せつけてよ!! お願い……お願いだから……もう、置いていかないで…っ」
シュルクの体を掻き抱き、フィオリアは壊れた機械のように、ひたすらに言葉を連ねる。
それはきっと、フィオリアの想いであると同時に、自分の心を守るために押し殺して忘れてきたルルーシェの想いでもあるのだろう。
「………」
シュルクは黙って、フィオリアの言葉を聞き続けた。
言葉を返す代わりに、フィオリアの背中と腰に回した腕に力を込める。
〝全部受け止めるから〟
そんな気持ちを伝えるように、華奢な体を強く抱き締めた。
彼女がいつか、自分の全てを受け入れられるように。
そして、今までの自分を許して心の底から笑えるように。
そんなことを、切に願いながら―――
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