Fairy Song

時雨青葉

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第11歩目 嘘はつけない

〝あなたのせい〟

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「……へ?」


 数秒固まった後に、間の抜けた声を出して顔を上げるフィオリア。
 シュルクはそんなフィオリアの耳元に手をやり、すぐにその手を離した。


 しゃら、と。
 フィオリアの耳元で、微かな音が揺れる。


「へ……え……えっ!?」


 フィオリアは自分の髪に手を触れ、そこに固い感触があることに気付く。


 何が起こったのか分からないままそれを取り、手のひらに転がったそれを見たフィオリアは大きく目を見開いた。


 それは、蝶を象ったデザインのヘアピンだった。


 銀色を基調としたヘアピンには、エメラルドと水晶が細やかな模様を描くように散りばめられ、羽の下部から繋がった細く短い鎖の先では赤い石が揺れている。


「これ……」
「色々と世話になったお礼だってさ。」


 やはり面と向かっては話せなくて、シュルクは適当な床を見つめて口を動かす。


「今日、やっとできたんだとよ。俺にはいらないもんだから、お前にやる。」


「もしかして……セルカさんが待っててって言ってたのって、これのこと?」
「まあ……」


「これのために、わざわざ一週間も待ってたの…?」
「……とっ、とにかく渡したからな!」


 そんな風に一つ一つ確認するように訊ねられると、自分の行動の恥ずかしさが際立つように思えてならない。


 火照ほてる顔を見られたくなくて、瞬時にきびすを返したシュルクだったが……


「待って!」


 そんなシュルクの腕を、フィオリアが掴んだ。


「お願い。行かないで。」


 潤んだ瞳で見つめられ、シュルクはうっと言葉につまった。


「な……なんで泣くんだよ……」


 苦しまぎれにそう言うと、フィオリアがぶんぶんと首を振る。


「だって……嬉しくて……」
「……まったく。」


 仕方あるまい。
 どうやら、逃げるタイミングはいっしてしまったようだ。


 シュルクは観念して息をつき、フィオリアに向き直ると、その頭をぽんぽんと叩いた。


「お前は、本当にすぐ泣くよな。涙腺どうなってんだよ。」


「ごめんなさい……」


「だから、すぐに謝るなって。俺が口悪いってのは、十分知ってんだろ。いちいち俺の言葉に謝ってないで、この前みたいに言い返してこいよ。そのくらいじゃねぇと、多分お前がしんどいぞ。」


 そっと涙を拭ってやる。
 すると―――


「うう…っ」


 何故か、顔を歪めたフィオリアの目尻から余計に涙があふれてきた。


「はあ!? なんでそうなる!?」


 ぎょっとするシュルクに対し、フィオリアはぽろぽろと涙を流すだけ。


「ううう……だって、だってぇ……」
「なんだよ!? 俺のせいか!?」


「そうだよ! シュルクのせいだもん!!」
「どういう意味―――わっ!?」


 突然腹に衝撃が走り、シュルクは思わず声を引っ込めた。


 目をまんまるにするシュルクの腹部に抱きついたフィオリアは、すがりつくように両腕に力を込める。


「だって……シュルクが、嬉しいことばっか言ってくれるから…っ」
「は、はあ…?」
「私ね……」


 涙声で語り始めるフィオリア。


「シュルクに、たくさんのことを教えてもらった。それでね、ルルーシェじゃなくて、当然のように私を見てくれるシュルクを好きになったの。嫌われてるかもしれなくても、傍にいられるだけで幸せだったの。」


 まあ、それは誰の目にも明らかだったと思うけど。


 そんな突っ込みはさておき、シュルクは黙してフィオリアの話を聞く。


「でも……シュルクって、いつも私のことを優先してくれるから……心のどこかで期待しちゃう自分もいて…。だから、わがままにならないようにって……シュルクに嫌われてるんだって言い聞かせて、勝手な期待を持たないようにって一生懸命だったの。だから、今こうやって話せるのが夢みたいで、嬉しくてたまらないの。幸せすぎて、涙が止まらないの。全部……全部、シュルクのせいだもん。」


「………」


 シュルクは何も答えられず、ただフィオリアを見下ろすだけだった。


 自分に負けず劣らず複雑な環境で育ったくせに、自分以上にまっすぐで素直な奴だ。
 こんな風に純な気持ちでぶつかられたら、言い訳なんかできないじゃないか。


(あーあ……完全に負けだな。)


 そんなことを思い、シュルクは眉を下げて微笑んだ。


「……そうだな。全部、俺のせいだな。」


 いたわるように優しく、フィオリアの頭をなでてやる。


 すっと。
 心がいでいくような気分だ。


 馬鹿正直に自分の気持ちを言うなんて、今さらすぎて恥ずかしいからできないと思っていたけれど。


 そんな意地も羞恥しゅうちも、目の前の愛しさが相手ではかたなしで―――


「ごめん。」


 するりと、飾らない言の葉が口から零れていった。

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