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第9歩目 拒絶ではなくて―――
これは誰の心か
しおりを挟む許さない。
逃がさない。
脳裏でずっと、恐ろしい声が木霊している。
「………っ」
フィオリアは、頭から被っていた毛布を強く握り締めた。
今日もまた、あの夢を見た。
逃げても逃げてもセイラに追いかけられて、そして追いつかれてしまう夢。
逃げたくても逃げられない。
どんなに拒絶しても、あの夢は夜毎自分に襲いかかってくる。
これも、呪いの力なのだろうか?
それとも、結局は自分が罪悪感から抜け出せないだけ?
ああ。
こんなこと、考えたくないのに……
いやいやと頭を振っても、一度深みにはまりこんでしまった思考は、勝手に嫌な想像を膨らませてしまう。
そうか。
自分はきっと、ルルーシェであることからまだ逃れられていないのだ。
だって、夢の中で追いかけてくるのはいつもセイラだ。
フィオリアとしての自分が憂いている母親じゃない。
それはつまり、自分が罪悪感を持っている相手は、あくまでもセイラでしかないのでは?
そして、そう思ってしまう自分は、やっぱりルルーシェの心から逃げられていないのでは?
ならば自分は、一体どうすればいいのだろう。
(怖い……怖いよ……)
ぎゅっと目をつぶる。
こんなことを考え始めたら、何もかもが分からなくなってしまう。
記憶がごちゃ混ぜになっているわけではない。
でも、心までは分からない。
どこまでがルルーシェの心?
どこからがフィオリアとしての心?
今までの運命から外れたいと。
母を悲しい呪いから解放してあげたいと。
そう意気込みながら……自分は一体何を捨てて、何を得ようとしているのだろう。
(もう、分からないよ……)
無性に泣きたくなって、毛布の中にさらに潜り込もうとした時―――ふと、隣の部屋から物音がした。
(シュルク、まだ起きてるの…?)
半ば無意識に起き上がり、壁の向こうに意識を向ける。
自分は、ルルーシェから逃げられない。
だから、シュルクは今でも自分を避けているのだろうか。
シュルクが自分に対して一番怒った時は、自分がルルーシェとしての責任を持ち出して謝った時だった。
そして、その後の生活でなんとなく察してはいる。
シュルクが本当に嫌なのは、自分がいつまでも過去に囚われていることなんだって。
だから、せめてシュルクの前ではルルーシェっぽくならないようにと、一生懸命笑って明るくしてきた。
そうすればきっと、彼は自分を拒絶だけはしないだろうって思ったから。
多分、それは間違ってはないと思う。
自分がくよくよとしたままだったら、シュルクは一人で先を行ってしまっただろう。
分かってる。
側に置いてもらえるだけで奇跡だって。
でも……
でも………
「うっ…」
涙がまたあふれてきてしまう。
怖くて怖くて―――寂しくてたまらない。
自分は弱いままだ。
シュルクのようにはなれない。
ルルーシェとしての心を捨てられない。
だから、彼の側に置いてはもらえても、彼の中に受け入れてはもらえない。
そういうことなのだろうか。
分からない。
分からない。
分からない。
頭の中で暴れ回る感情がパニックを起こして、理性ではどうにもできない衝動を大きく育てていく。
そんな衝動をどう消化すればいいのか分からず、自分が何をしたいのかも分からなくなって、フィオリアは無我夢中で部屋を飛び出した。
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