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第9歩目 拒絶ではなくて―――
意外な彼の行動
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どさり、と。
たっぷりの重量感を持った鞄が、机に置かれる。
「……何これ?」
シュルクは、ぱちくりと瞼を叩いた。
「結構手こずりそうですよ、まったく。」
机に手をついたヨルは、重たい溜め息を一つ。
「あの詩について色々と調べてみましたが、まるで手がかりがありません。作者も詩が巡ってきたルーツも不明です。どうも、詩の中身以外の情報は、必要最低限の人にしか分からないように操作されてるみたいですね。」
「えっと……」
「一応、調べられるだけ調べた資料がこれです。もしよろしければ、ご一読ください。」
「あ、ああ……」
分厚い紙の束を渡され、状況についていけないシュルクは、戸惑ったままそれを受け取るしかなかった。
ぱらりと中身をめくると、最初にあったのは何かの名前がリスト状に並べられたページ。
よくよく見ると、いくつもの本のタイトルとその作者を羅列したもののようだということが分かった。
次のページ以降には、リストに書かれている本の一冊一冊について、とあるページの写し、作者のプロフィール、この本が書かれた経緯までが事細かに記してあった。
一番後ろのページには大陸全土の地図があり、地図の至るところに赤い点が打たれている。
「これ……」
ページをめくるにつれて、シュルクの表情が険しくなっていく。
各本の、とあるページの写し。
そこに共通して記された、見覚えのあるフレーズ。
「思いつく限りのところに連絡して、あの詩が載っている本の情報を片っ端から集めてみたんですが……本の種類も作者もバラバラ、作者の出身地にも共通点が見当たりません。この詩の解釈も、諸説ありとしかまとめようがないくらい多種多様でして。第一に、資料の数が少なすぎて話になりませんでしたよ。」
「お前……たった三日で、これだけ調べてきたのか?」
この前ヨルと話したのが三日前。
その短い時間でこれだけの情報を集められたなら、大したものだろう。
自分がセニアで調べて得た情報量の十倍はある。
旅に行き詰まったとしても、これらの本が書かれた地を巡ることで、何かしらの進展があるかもしれない。
そう期待させるには、十分な情報量だった。
「まあ、そっちの情報はおまけみたいなものだからいいんです。」
「おまけって……」
頬をひきつらせるシュルクに、ヨルは次の資料を手渡す。
「この詩に何かしらの意味がある。あなたの意見を信じて、ひとまずは第三節の〝暁集まる橙水晶〟に当てはまりそうな場所や逸話をさらってみました。ただ、これもこれで厄介ですね。暁という情景が神秘として形容されることはよくありますし、橙水晶というのも、大陸の東側では珍しくない産出物ですから……」
「別に、俺はこの資料の場所をしらみ潰しに回るでも事足りると思うけど。とりあえずそこに行ってみれば、当たりか外れかは分かるだろうし、外れならそのまま通りすぎればいいだろ。」
ヨルは厄介だと言うものの、受け取った資料では、有力だと思われる箇所が十ヶ所ほどに絞られていた。
多少時間はかかるだろうが、確証のない噂話を探すことから始めるよりは何倍も効率がいい。
そう楽観的に思っていたのだが、対するヨルは首を横に振った。
「いいえ。一刻も無駄にはできません。呪いがいつあなたに影響を及ぼすかも分からないんですよ?」
「そりゃ、そうかもしんないけど……」
シュルクは、困ったように頬を掻く。
自分は、どうしてヨルにこんな説教まがいのことを言われているのだろう。
さっきから戸惑いばかりが膨らんで、調子が狂いそうだ。
「でも実際のところ、どうやってこれ以下に絞り込めっていうんだよ。」
「大丈夫です。あてはあります。」
ふとそこで、ヨルの目がシュルクを捉える。
「―――あとはもう、あなたの能力次第です。」
たっぷりの重量感を持った鞄が、机に置かれる。
「……何これ?」
シュルクは、ぱちくりと瞼を叩いた。
「結構手こずりそうですよ、まったく。」
机に手をついたヨルは、重たい溜め息を一つ。
「あの詩について色々と調べてみましたが、まるで手がかりがありません。作者も詩が巡ってきたルーツも不明です。どうも、詩の中身以外の情報は、必要最低限の人にしか分からないように操作されてるみたいですね。」
「えっと……」
「一応、調べられるだけ調べた資料がこれです。もしよろしければ、ご一読ください。」
「あ、ああ……」
分厚い紙の束を渡され、状況についていけないシュルクは、戸惑ったままそれを受け取るしかなかった。
ぱらりと中身をめくると、最初にあったのは何かの名前がリスト状に並べられたページ。
よくよく見ると、いくつもの本のタイトルとその作者を羅列したもののようだということが分かった。
次のページ以降には、リストに書かれている本の一冊一冊について、とあるページの写し、作者のプロフィール、この本が書かれた経緯までが事細かに記してあった。
一番後ろのページには大陸全土の地図があり、地図の至るところに赤い点が打たれている。
「これ……」
ページをめくるにつれて、シュルクの表情が険しくなっていく。
各本の、とあるページの写し。
そこに共通して記された、見覚えのあるフレーズ。
「思いつく限りのところに連絡して、あの詩が載っている本の情報を片っ端から集めてみたんですが……本の種類も作者もバラバラ、作者の出身地にも共通点が見当たりません。この詩の解釈も、諸説ありとしかまとめようがないくらい多種多様でして。第一に、資料の数が少なすぎて話になりませんでしたよ。」
「お前……たった三日で、これだけ調べてきたのか?」
この前ヨルと話したのが三日前。
その短い時間でこれだけの情報を集められたなら、大したものだろう。
自分がセニアで調べて得た情報量の十倍はある。
旅に行き詰まったとしても、これらの本が書かれた地を巡ることで、何かしらの進展があるかもしれない。
そう期待させるには、十分な情報量だった。
「まあ、そっちの情報はおまけみたいなものだからいいんです。」
「おまけって……」
頬をひきつらせるシュルクに、ヨルは次の資料を手渡す。
「この詩に何かしらの意味がある。あなたの意見を信じて、ひとまずは第三節の〝暁集まる橙水晶〟に当てはまりそうな場所や逸話をさらってみました。ただ、これもこれで厄介ですね。暁という情景が神秘として形容されることはよくありますし、橙水晶というのも、大陸の東側では珍しくない産出物ですから……」
「別に、俺はこの資料の場所をしらみ潰しに回るでも事足りると思うけど。とりあえずそこに行ってみれば、当たりか外れかは分かるだろうし、外れならそのまま通りすぎればいいだろ。」
ヨルは厄介だと言うものの、受け取った資料では、有力だと思われる箇所が十ヶ所ほどに絞られていた。
多少時間はかかるだろうが、確証のない噂話を探すことから始めるよりは何倍も効率がいい。
そう楽観的に思っていたのだが、対するヨルは首を横に振った。
「いいえ。一刻も無駄にはできません。呪いがいつあなたに影響を及ぼすかも分からないんですよ?」
「そりゃ、そうかもしんないけど……」
シュルクは、困ったように頬を掻く。
自分は、どうしてヨルにこんな説教まがいのことを言われているのだろう。
さっきから戸惑いばかりが膨らんで、調子が狂いそうだ。
「でも実際のところ、どうやってこれ以下に絞り込めっていうんだよ。」
「大丈夫です。あてはあります。」
ふとそこで、ヨルの目がシュルクを捉える。
「―――あとはもう、あなたの能力次第です。」
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