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第9歩目 拒絶ではなくて―――
セルカの経歴
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セルカが向かったのは、店の奥から階段を上った三階部分。
彼女たちの生活スペースになっている階だった。
「あれ? 何か、お手伝いとかじゃないんですか?」
「ああ、違う違う。ちょっと、見てほしいものがあるのよ。」
「見てほしいもの?」
「そうそう。今は仕事の話は抜きよ。こっちにいらっしゃい。」
一つのドアを開き、セルカはにこにこと微笑んでフィオリアを招いた。
「わあ…っ」
部屋に入ったフィオリアは、思わず感嘆の息を漏らす。
そこはクローゼットやドレッサーが置かれた、小さな部屋だった。
テーブルの上に置いてあるいくつものアクセサリーが、窓から差す太陽光を反射してキラキラと光っている。
「シュルクちゃんから聞いたわよ。フィオリアちゃん、旅支度のために手持ちの物を色々と売り払ったんだって? もしよかったら、気に入ったものを持っていってちょうだい。」
「……えっ!?」
すっかりアクセサリーのきらめきに目を奪われていたフィオリアは、セルカの申し出に反応するのが少しばかり遅れてしまった。
「そ、そんな! こんな高価なもの……」
「いいのよ。全部、私が現役時代に使ってた物のお古だし。こんなとこにしまい込むよりも、使ってくれる人が使ってくれた方がいいでしょ。もしお金に困ったら、その時は売ってくれればいいんだし。」
「そ、そんなもったいないことしません!!」
「あはは! じゃあなおさら、ぜひともこの子たちの次のご主人になってあげてよ。んー、どれが似合うかねぇ……」
セルカは一つ一つのアクセサリーを手に取り、フィオリアの体に当ててはテーブルの上に戻すを繰り返す。
「……ふふ。なんだかんだ、嬉しそうだね?」
「へっ!? あっ……」
セルカに指摘され、自分の頬が緩んでいることに気付くフィオリア。
「す、すみません……なんだかこういうのって久しぶりで、勝手に気持ちが舞い上がっちゃって。」
「分かるわぁ、その気持ち。昔から、こういうの好きなの?」
「はい!」
フィオリアは無邪気に笑い、数あるアクセサリーの中から、色とりどりの鉱石が連なった飾りが特徴のバレッタを取った。
「特に、こういう髪留めが大好きで…。自分が動くと、一緒にシャラシャラってなるのが好きだったんですよね。今はちょっと邪魔くさくなっちゃうから、つけられないけど。」
フィオリアはくすくすと笑う。
「昔は夢中になって動き回りすぎて、はしたないって怒られたなぁ。でも、私の髪の色にはなんでも似合うって、職人さんも楽しそうにデザインとかを決めてくれて、私も一緒になってデザインのおしゃべりとかをしたりして。怒られるのなんてへっちゃらって思うくらい、楽しかったな。」
「家に職人さんを呼べるなんて……フィオリアちゃんって、もしかしてお嬢様なの?」
「………ああっ!!」
フィオリアはそこで、さっと顔を青くする。
やってしまった。
自分が王族だってばれたら色々と騒ぎになるから、そういうことを匂わせる発言は控えろと、常日頃からシュルクに口酸っぱく言われていたのに。
「えっと……あああああのっ……」
思考がパニックを起こして、何をどうごまかせばいいのか分からない。
そんなフィオリアに、セルカは淡く微笑を浮かべると……
「大丈夫よ。秘密、ね?」
人差し指を口元で立てて、そう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます……」
本当に、セルカたちがいい人でよかった。
フィオリアは、ほっとして肩の力を抜いた。
「あ、あの……そういえばさっき、これはお古だって言ってましたけど……」
これ以上は、ぼろを出さないように。
そう思って、セルカに話を振ってみた。
「ええ、そうよ。私こう見えて、ここに来る前はロアヌの大きな劇団にいたの。これはその時に使ってたもの。」
「へぇ…。なんて劇団ですか?」
「ノンドルン歌劇団ってところよ。知ってるかしら?」
「―――っ!! し、知ってます!!」
フィオリアは、ぱっと表情を明るくする。
「昔、ティーンに巡回で小劇団が来てましたよね! 在りし日のカルシューラ! あれ、思わず三回くらい観に行きました!! あの短い時間で、喜怒哀楽の全部が豊かに表現されてるのが素敵で…。舞台のセットも細やかで、音楽と踊りもとても洗練されていて、もう見ているだけで幸せっていうか……」
「あらあら、本当に好きなのね。知っててくれて嬉しいわ。」
興奮して語るフィオリアに、セルカは笑みを深めた。
「懐かしいわね。あの人と出会うまでは小劇団の団長もやってたりして、毎日が忙しかったわ。」
「えっ!? ノンドルンの団長って、かなり競争率が高いですよね!?」
「そうよ~。現役時代の私は、人気順位が片手に入るくらいの実力者だったんだから。」
「そんなに!? じゃあ、ロアヌから全然出られなかったんじゃ……」
「ほんとそう。基本的にはロアヌ各地の巡回か、本部に缶詰めだったから……あの人に出会えたのは、奇跡だったと思うわ。」
話すセルカの表情に、愛しさがこもる。
ちょっとだけ興味が湧いた。
「あの……ランディアさんとの馴れ初めって、聞いちゃだめですか?」
思いきって、そう訊ねてみる。
「そうねぇ…。じゃ、ちょっとだけね。」
セルカは特に嫌な顔をせずに、頷いてくれた。
彼女たちの生活スペースになっている階だった。
「あれ? 何か、お手伝いとかじゃないんですか?」
「ああ、違う違う。ちょっと、見てほしいものがあるのよ。」
「見てほしいもの?」
「そうそう。今は仕事の話は抜きよ。こっちにいらっしゃい。」
一つのドアを開き、セルカはにこにこと微笑んでフィオリアを招いた。
「わあ…っ」
部屋に入ったフィオリアは、思わず感嘆の息を漏らす。
そこはクローゼットやドレッサーが置かれた、小さな部屋だった。
テーブルの上に置いてあるいくつものアクセサリーが、窓から差す太陽光を反射してキラキラと光っている。
「シュルクちゃんから聞いたわよ。フィオリアちゃん、旅支度のために手持ちの物を色々と売り払ったんだって? もしよかったら、気に入ったものを持っていってちょうだい。」
「……えっ!?」
すっかりアクセサリーのきらめきに目を奪われていたフィオリアは、セルカの申し出に反応するのが少しばかり遅れてしまった。
「そ、そんな! こんな高価なもの……」
「いいのよ。全部、私が現役時代に使ってた物のお古だし。こんなとこにしまい込むよりも、使ってくれる人が使ってくれた方がいいでしょ。もしお金に困ったら、その時は売ってくれればいいんだし。」
「そ、そんなもったいないことしません!!」
「あはは! じゃあなおさら、ぜひともこの子たちの次のご主人になってあげてよ。んー、どれが似合うかねぇ……」
セルカは一つ一つのアクセサリーを手に取り、フィオリアの体に当ててはテーブルの上に戻すを繰り返す。
「……ふふ。なんだかんだ、嬉しそうだね?」
「へっ!? あっ……」
セルカに指摘され、自分の頬が緩んでいることに気付くフィオリア。
「す、すみません……なんだかこういうのって久しぶりで、勝手に気持ちが舞い上がっちゃって。」
「分かるわぁ、その気持ち。昔から、こういうの好きなの?」
「はい!」
フィオリアは無邪気に笑い、数あるアクセサリーの中から、色とりどりの鉱石が連なった飾りが特徴のバレッタを取った。
「特に、こういう髪留めが大好きで…。自分が動くと、一緒にシャラシャラってなるのが好きだったんですよね。今はちょっと邪魔くさくなっちゃうから、つけられないけど。」
フィオリアはくすくすと笑う。
「昔は夢中になって動き回りすぎて、はしたないって怒られたなぁ。でも、私の髪の色にはなんでも似合うって、職人さんも楽しそうにデザインとかを決めてくれて、私も一緒になってデザインのおしゃべりとかをしたりして。怒られるのなんてへっちゃらって思うくらい、楽しかったな。」
「家に職人さんを呼べるなんて……フィオリアちゃんって、もしかしてお嬢様なの?」
「………ああっ!!」
フィオリアはそこで、さっと顔を青くする。
やってしまった。
自分が王族だってばれたら色々と騒ぎになるから、そういうことを匂わせる発言は控えろと、常日頃からシュルクに口酸っぱく言われていたのに。
「えっと……あああああのっ……」
思考がパニックを起こして、何をどうごまかせばいいのか分からない。
そんなフィオリアに、セルカは淡く微笑を浮かべると……
「大丈夫よ。秘密、ね?」
人差し指を口元で立てて、そう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます……」
本当に、セルカたちがいい人でよかった。
フィオリアは、ほっとして肩の力を抜いた。
「あ、あの……そういえばさっき、これはお古だって言ってましたけど……」
これ以上は、ぼろを出さないように。
そう思って、セルカに話を振ってみた。
「ええ、そうよ。私こう見えて、ここに来る前はロアヌの大きな劇団にいたの。これはその時に使ってたもの。」
「へぇ…。なんて劇団ですか?」
「ノンドルン歌劇団ってところよ。知ってるかしら?」
「―――っ!! し、知ってます!!」
フィオリアは、ぱっと表情を明るくする。
「昔、ティーンに巡回で小劇団が来てましたよね! 在りし日のカルシューラ! あれ、思わず三回くらい観に行きました!! あの短い時間で、喜怒哀楽の全部が豊かに表現されてるのが素敵で…。舞台のセットも細やかで、音楽と踊りもとても洗練されていて、もう見ているだけで幸せっていうか……」
「あらあら、本当に好きなのね。知っててくれて嬉しいわ。」
興奮して語るフィオリアに、セルカは笑みを深めた。
「懐かしいわね。あの人と出会うまでは小劇団の団長もやってたりして、毎日が忙しかったわ。」
「えっ!? ノンドルンの団長って、かなり競争率が高いですよね!?」
「そうよ~。現役時代の私は、人気順位が片手に入るくらいの実力者だったんだから。」
「そんなに!? じゃあ、ロアヌから全然出られなかったんじゃ……」
「ほんとそう。基本的にはロアヌ各地の巡回か、本部に缶詰めだったから……あの人に出会えたのは、奇跡だったと思うわ。」
話すセルカの表情に、愛しさがこもる。
ちょっとだけ興味が湧いた。
「あの……ランディアさんとの馴れ初めって、聞いちゃだめですか?」
思いきって、そう訊ねてみる。
「そうねぇ…。じゃ、ちょっとだけね。」
セルカは特に嫌な顔をせずに、頷いてくれた。
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