Fairy Song

時雨青葉

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第8歩目 山中にて待つ者

あふれそうになる気持ち

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「お前、ただでさえちゃんと寝れてないんだろ?」


 先ほどまでとは違う、気遣わしげな声と言葉。
 それに顔を上げると同時に、シュルクの細い手が頭に置かれる。


 シュルクの顔は、いつもと同じく不機嫌そう。
 だけどなんとなく、今の彼は表情どおりの気分じゃないように見えた。


「何度も言ってるけど、肝心な時になって倒れられても迷惑なんだから、ちゃんとここで休んでろ。お前が勝手に動いてたから何も言わなかったけど、そもそもここの手伝いだって、俺はお前にまで働かせるつもりはなかったんだからな。分かったら、とっとと寝ろ。この話は終わりだ。」


 まるで子供にそうするようにぽんぽんと頭を叩いて、シュルクは一人で食堂を出ていってしまった。


「………ずるいよ。」


 しん、と静まり返った食堂の中。
 しばしその場で立ち尽くしていたフィオリアは、長い沈黙の果てにそう呟いた。


 どうして?
 どうしてあなたには、そんなことまで分かってしまうの?


 それも、めぐの目がなせるわざ
 それとも、私が分かりやすいだけ?




 それとも―――それほどに、私のことを見ていてくれてるの?




「ふっ……うっ……」


 我慢したいのに、零れてくる涙を止められない。


 だめた。
 彼を好きになっていく気持ちが暴走しそうになる。


 どうしてあなたは、私にこんなに優しいの?
 あなたは、私のことなんて嫌いでしょう?
 なのにどうして、あなたはいつも私のことを大事にしてくれるの?


 分かっちゃうの。
 伝わっちゃうの。
 あなたがいつも、私を優先してくれているって。


 そんな風に接してもらえたら、期待しちゃうじゃない。
 あなたから、離れられなくなっちゃうよ。


「ううっ……」


 つらいよ。
 苦しいよ。


 お願い。
 お願いだから……


 あなたにとっては、人として当然の配慮なのかもしれない。
 あなたの正義感が、そんな行動を取らせるのかもしれない。
 でも、それがたまらなくつらいの。


 いずれ別れる運命さだめなら。




 お願い……―――優しくしないで。




 あなたから想いが返ってくることは絶対にないんだって。
 いっそのこと、私を心の底から絶望させてほしい。


 こんな生き埋めみたいな状態なんて、つらいよ……


「好き……誰よりも……好きなの……」




 私がこの気持ちをあなたに言ってしまう前に、どうか―――



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