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第2歩目 運命
楽なのはどっち…?
しおりを挟む「………」
しばしの間、シュルクはその場に立ち尽くす。
そして―――
「はあぁー…」
盛大な溜め息をついて、椅子に腰を落とした。
ようやく一人になれたことに、緊張の糸がプツリと切れてしまったのだ。
「もう無理……金なんてどうでもいいから、早く帰りたい…っ」
許されるなら、今すぐそこの窓から飛んで逃げ帰っている。
そんな自信があった。
「相手が見つかり次第結婚……かぁ。」
ぼんやりと呟く。
姫が引きこもりたくなる気持ちも分かる。
出会ってすぐに結婚なんて、自分だって願い下げだ。
互いのことを知りもしないうちに夫婦になったって、その後が上手くいくとは思えない。
自分だったら変に意識しすぎて、逆に自然な距離感が分からなくなる気がする。
それなのにそれを強要されるなんて、地位がある立場も大変だ。
「……って、他人事じゃねーよ。」
シュルクは頭を抱える。
考えたくはないが、姫の相手は自分かもしれないのだ。
仮にそうだった場合、結婚させられるのは自分。
暢気に〝金持ちは大変だー〟なんて思っている場合じゃない。
「くそ…」
ぼやく。
こんなにも運命の相手に会いたくないなんて。
ここまで追い込まれれば腹も据わるかと思っていたのに、あまりの往生際の悪さに自分でも少し驚いている。
別に、相手が悪いわけではない。
結局のところ、自分が自分の中の恐怖と向き合いたくないだけなのだ。
もし、彼女のことを好きになれなかったら?
自分はあまり我慢強い性格ではないから、きっとどこかで気持ちを爆発させてしまう。
そうなったら、傷つくのは自分じゃなくて彼女だ。
自分は周りのように運命に憧れを抱くことも、運命石の導きを信じることもできない。
今まで見てきた人々のように、出会った瞬間に固く抱き合うことなんて無理だ。
ならばいっそ、出会わなければいい。
出会った運命の相手に拒絶される苦しみと、運命の相手に出会えない苦しみ。
果たして、楽なのはどっち…?
「………、………」
その時ふと聴覚を刺激した、微かな空気の震え。
いつぞやの出来事を思い起こさせるその現象に、シュルクはがばりと机に伏していた頭を上げた。
「お願い……」
「―――っ!!」
頭に響く声で確信する。
間違いない。
この声は、あの少女のものだ。
「嘘、だろ……」
ここに来ての決定打。
無理だ。
さすがに、もう言い逃れはできない。
「お願い。」
少女の声は、無情に響き続ける。
「お願い―――逃げて!!」
「……へ?」
一際大きく脳内を揺さぶった叫びに、シュルクはきょとんと目をまたたいた。
今、なんと言いました…?
「呆けてる場合じゃないの! とにかく逃げて! 今すぐ!!」
どうやら、向こうにもこちらの声は聞こえているらしい。
「に、逃げてって……」
そりゃあ、逃げてもいいなら全力で逃げるが、ちょっと待ってくれ。
頭が状況についていけない。
「とにかく、その部屋を出て。今ならみんな、大広間か私の部屋の前にいるはずだから。」
「えっと……」
「お願い!!」
「わ、分かりました……」
顔を見ずとも、彼女が焦っていることは分かる。
その気迫に負けて、シュルクは椅子から立ち上がった。
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