竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント33 新たな共通点

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 これ以上は深入りするな、と。
 そういうことですか。


 ジョー先輩の笑顔に込められたメッセージを察して、オレは素直に身を引く。


 まあ、心の内に触れられたくないから隠すんですよね。
 それを打ち明けてもらうには、まだまだ付き合いが足りないってことは分かっている。


 あと、この人を怒らせるのがマジで怖い。


「それで? 君としては、いつ裏切るかも分からない自由人は、自分の懐に入れたくないって感じ?」


「いや?」


 即答した証拠に、オレは異動願のサイン欄に自分の名前を記して判をす。


「単純に、なんでここに来たんだろうって疑問に思っただけです。」


 ジョー先輩にサイン済みの書類を差し出し、オレはにやりと笑う。


「いいじゃないですか。大学で〝覇王〟と並び称されていた〝君子〟のジョー先輩が来てくれるだなんて。しかも、ミゲル先輩とセットでお迎えできるんですよ? オレは、それを知ったみんながどんな顔をするのか、今から楽しみで仕方ないです。」


 ジョー先輩が何かを抱えていることと、オレがジョー先輩を信用するか否かは全くの別問題。


 というか、いつ裏切るかも分からないなんて言うけど、あなたって敵と見なした人はとことん切り捨てるけど、味方についた人は絶対に裏切りませんよね?


 ミゲル先輩から散々聞いてますよ。
 オレにだって、今まで自分の実力を黙ってもらってた恩がありますし。


「一緒に、宮殿中を引っ掻き回してやりましょうよ。こういう楽しいこと、嫌いじゃないでしょう?」


 オレからの誘いに、ジョー先輩はひどく驚いたように目を丸くした。
 そして―――


「ぷっ……あははははっ!」


 次の瞬間、腹を抱えて大笑いし始める。


「あー、いいね! やっぱり、君って面白いや。見てて飽きなさそう。」


 ジョー先輩はオレの手から異動願を取り上げ、その顔にあやしい笑みをたたえる。


「いいよ? そのお誘い、乗ってあげる。僕の性格を理解してるってのも、話が早くて助かるしね。精々、僕を退屈させないように頑張ってね?」


「お、おう…っ」


 え…?
 この人が退屈しないレベルってどのくらい?


 経験がオレの何倍もディープそうだから、そもそもの〝普通〟って概念から異次元にありそうなんだけど……


 反射的にそう思ったところで、ハッとした。


 そうか。
 オレの話についていけないと冷や汗を掻いていた皆は、こんな気持ちだったのか。


 そして、ミゲル先輩がやたらとオレの対処に手慣れていたのは……


(この人が秀才じゃなくて、オレと同じ天才だからか……)


 なんてこったい。
 思いかけず、ジョー先輩との新たな共通点を発見だ。


(オレは、ミゲル先輩と一緒にとんでもない人を釣り上げちゃったみたい。)


 こうして、早くも三人目の隊員を迎えたドラゴン殲滅部隊であった。


 案の定、戦国世代の〝覇王〟と〝君子〟が二人揃ってドラゴン殲滅部隊に異動したことは、宮殿だけではなく、軍事大学にも大きなどよめきを生んだ。


 しかも、この二人が副隊長と参謀代表を務めるとあれば、それだけでこの部隊は最強である。


 しかも、オレといいミゲル先輩やジョー先輩といい、顔の広さは人一倍。


 裏ではもう、誰がオレたちの味方に回るかを判断できず、情報処理も追いつかなくてパンクしているのだという。


 いい気味だ。
 ざまあみろ。


 愉快に叫んでやったオレに、ミゲル先輩は無駄に敵を作るからやめろと怒鳴り、片やジョー先輩はもっと言えとはやし立てる。


 それを横目に、アイロス先輩は青い顔で胃薬を飲み干すばかり。


 悪くないスタートダッシュ。
 びっくりするくらいに、オレの足場は固まっている。




 ―――あとは、オレがオレの仕事を全うすればいいだけだ。



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