593 / 598
【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント32 まさかの三人目
しおりを挟むこれは……一体全体、何が起こったんだろう。
オレは渡された書類を半ば思考停止状態で眺め、次にそれを持ってきた張本人を見上げた。
「何、その珍獣でも見たような顔。」
「いや、その……意外で。」
オレは、自分の手に収まる異動願に再び目を落とす。
アイロス先輩の異動をきっかけに、オレは隊員の未来を預かろうと胸に決めた。
だから、アイロス先輩のように国防軍からドラゴン殲滅部隊へと来てくれる人がいるなら、快く迎え入れるつもりだ。
でもまさか、この人が来ちゃうなんて……
「意外って、失礼しちゃうな。」
特に怒ってもいない様子で、ジョー先輩は両手を腰に当てた。
「ミゲルの異動が決まったから、それに合わせて異動願を提出しに来ただけなんだけど、違和感ある?」
確かに、おっしゃるとおりです。
ドラゴン殲滅部隊の隊長に就任して、早くも数週間。
執務室の大掃除と状況整理から始まった任務の傍ら、オレは国防軍の奴らから手痛い歓迎を受けている。
ミゲル先輩はその最中でオレの味方につき、早くもドラゴン殲滅部隊に飛ばされることになってしまった。
本当は辞令の決定には時間がかかるのだが、ミゲル先輩を目の敵にしていた奴が政治家の息子だったらしく、総督部も下手に機嫌を損ねられなかったとのことだ。
軍事大学でも一際実力が高かった、戦国世代。
そのトップを走り続けていた〝覇王〟であるミゲル先輩をオレにやるなど、本当ならかなり嫌だっただろうに。
まあ、オレは割と初めからミゲル先輩を狙ってたんで、美味しい思いをさせてもらってますけど。
そんな事情を汲むなら、ミゲル先輩の親友であるジョー先輩がこうして異動願を持ってくるのは至極当然の流れ。
―――普通なら、ね。
「違和感ありありなんですけど。」
オレの答えはこれだった。
違和感だらけ。
もはや、違和感しかないのだ。
「えー? なんでそうなるかなぁ?」
「言っていいんですか?」
「どうぞ? 僕も、君の天才たる目に興味があるし。」
「じゃあ……」
オレはハンコを取り出すために机の中を探りながら、ジョー先輩に違和感の理由を述べた。
「気に障ったらすみません。でも、ジョー先輩は友情がどうのこうので動くような人じゃないですよね? オレはてっきり、ジョー先輩がそういう人だから、ミゲル先輩が安心してつるんでるんだと思ってましたけど。」
この人は、ちょっとオレと似ている。
興味が湧けば動くし、興味がなければあっさりと見捨てる。
オレはそこまで感情を割り切れないが、ジョー先輩はそこの辺りを徹底している節がある。
自分は自分。
友人であろうと、他人は他人。
そんな風に綺麗に割り切れる人だから、あのミゲル先輩が一緒にいられるのだろう。
自分しか信じないジョー先輩なら、重たい期待をかけてミゲル先輩に取り入ろうとしないから。
ミゲル先輩の家庭の事情に巻き込まれても、ミゲル先輩と彼の母親を他人と割り切って、ミゲル先輩本人とだけ向き合ってくれるから。
そんな理性的かつドライな人が、親友の左遷に影響されて道を共にするとは到底思えないのだ。
「…………ふぅん?」
しばらくきょとんとしていたジョー先輩が、ふいに口角を吊り上げる。
「よく分かってるじゃん。さすがはミゲルが肩入れしてただけあるよ。見抜いた……っていうよりは、同じ匂いでも感じた?」
「あはは。やっぱ、同類の匂いがします?」
「……どうだろうね。君は、僕と違って優しいから。」
「………?」
なんか、今のは引っ掛かった。
「……類は友を呼ぶってやつですかね。」
気付いた時には、そう言い放った後。
まあ、この人に突っ込んだ話ができる機会もそうそうないので、ちょうどいいか。
「急にどうしたの?」
「いやねぇ…。ミゲル先輩も大概矛盾してる人だなーとは思ってたんですけど、ジョー先輩もジョー先輩で、なんか引っ掛かる人なんですよね。」
「引っ掛かる、というと?」
「オレの目でも、先輩の本質が見えないんです。常に腹の内でいくつもの策略を巡らせてて、情報と損得で利己的に物事を判断する怖い人……の、はずなんですけど、なーんか納得いかない。」
オレは腕を組んで唸る。
「なんて言うんですかね。裏がありまくりだって見せつけるその姿こそ―――心の奥底にある何かの隠れ蓑なんじゃないかって気がするような…?」
この人は、自分に裏があることを隠さない。
それを武器にして鉄壁のガードを作り、情報と知略を網羅して他人を黙らせる。
それは、誰の目からも明らかな彼の本性のはずだけど―――彼という人間の本質からは、どこかずれている気がする。
だって、おかしいじゃん?
本当に偽りも無理もないなら……オレやミゲル先輩と接する時に、寂しさや羨ましさを滲ませる瞬間なんて生まれないでしょ?
傲慢不遜な物言いで敵を煽り、攻撃を逆手に取って敵を蹴落とすジョー先輩。
そうやって堂々と裏を探らせることで皆の注目を逸らしてまで、この人が本当に隠したいことは何なんだろう。
たまに、そんなことを思ったりもする。
だけど、どんなに注意してこの人を見ても、引っ掛かりの正体は見抜けないままで……
まさに、雲のように形が掴めない人だ。
こんな人はオレも初めてなもんで、ミゲル先輩の時みたいに自信を持って指摘できないんだけどね。
「……そう。君には、僕がそんな風に見えるんだね。」
薄く開いたジョー先輩の唇から、ひどく冷めた声が零れる。
それに突っ込むよりも先に、ジョー先輩は笑顔で何もかもを隠してしまった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

🕊 平和の子 、ミール 🕊 ~希望の夢~
光り輝く未来
現代文学
わたしはロシア人。
日本に住んでいるロシア人。
日本人の男性と結婚して、幸せに暮らしていたロシア人。
でも、プーチンと同じ血が流れているロシア人。
ロシアの軍人と同じ血が流れているロシア人。
それが許せない。
この体に流れている血が許せない。
ウクライナ侵攻が始まった日から平穏ではいられなくなった。
じっとしていることはできなくなった。
このままではダメだと思った。
だから、夫に黙って日本を出た。
向かったのはトルコだった。
でも、それが最終目的地ではなかった。
わたしは戦地に飛び込み、ウクライナ人を助けるための活動を始めた。
✧ ✧
トランプ大統領の登場でウクライナ問題が予断を許さない状況に陥っています。領土返還と恒久平和の実現に赤信号が灯っています。それでも希望を捨てたくありません。心は常にウクライナの人々に寄り添っていたいと思います。ウクライナに一日も早く平和な日々が訪れますように!

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー
MIRICO
恋愛
薬師のロンは剣士セウと共に山奥で静かに暮らしていた。
庭先で怪我をしていた白豹を助けると、白豹を探す王国の兵士と銀髪の美しい男リングが訪れてきた。
尋ねられても知らんぷりを決め込むが、実はその男は天才的な力を持つ薬師で、恐ろしい怪異を操る男だと知る。その男にロンは目をつけられてしまったのだ。
性別を偽り自分の素性を隠してきたロンは白豹に変身していたシェインと言う男と、王都エンリルへ行動を共にすることを決めた。しかし、王都の兵士から追われているシェインも、王都の大聖騎士団に所属する剣士だった。
シェインに巻き込まれて数々の追っ手に追われ、そうして再び美貌の男リングに出会い、ロンは隠されていた事実を知る…。
小説家になろう様に掲載済みです。
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。
※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。
※2020-01-16より執筆開始。

口枷のついたアルファ
松浦そのぎ
BL
〇Ωより先にαがラットに入る系カップル〇噛みたい噛みたいって半泣きの攻めと余裕綽綽の受けのオメガバースです。大丈夫そうな方だけお願いします。短いです!
他国の剣闘士であるルドゥロとリヴァーダ。
心躍る戦いを切望していた「最強の男」ルドゥロにリヴァーダは最高の試合をプレゼントする。

婚約者は他の女の子と遊びたいようなので、私は私の道を生きます!
皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけたらどうだ。正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
そして、チラチラと周囲や他の女子生徒を見る視線で察する。彼は他に想い人が居る、または作るつもりで、距離を取りたいのだと。邪魔になっているのだ、と。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる