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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント31 その生き様は―――
しおりを挟むくそ……
出鼻を挫かれるがごとく、こんなに恥ずかしい宣言をさせられるなんて。
だけど、言い切ったオレは偉い。
さすがに顔を赤くするしかないオレに対して、悪魔コンビは非常に満足そうだった。
「んー、若いねぇ。」
「ここまでの言質が取れれば、ひとまず足場は固まったと見て問題ないでしょう。」
「うん!」
……あれ?
オレ、もしかしてまた上手い感じに乗せられました?
「まだ五年の勝負が始まってもいないのに、えらく楽観的ですね。」
嫌な予感がするので、あえてそう言ってみた。
「君には、楽すぎる条件だったろう?」
ランドルフは眉一つ動かさず、当然のことのように答えた。
そんな風に言われると、オレの中に生まれた嫌な予感がどんどん膨らんでいくんですけど……
「何を根拠に?」
思い切って訊いてみる。
すると―――
「根拠も何も……私は、君の本当の剣を最前線で見たことがあるからね。」
予感的中であった。
「はあ!?」
オレは声を裏返してしまう。
「いつ!?」
「もう三年前の話だ。特待推薦枠実技試験と言えば、心当たりもあるのでは?」
「特……ああっ!!」
確かにあった。
名だたる方々に実力を見せなければならなかった機会が、たった一度だけ。
実技に長けているナイトリン高校の名を背負っている手前、あの時はどうしても手を抜けなかったのだ。
「まさか、あの時……」
「いたよ? 特別審査員として、一番前にね。対人試験で試験官を全員余裕で倒しておいて、面接ではそのことをネタに試験に落ちたことにしろと脅してきた子のことなんて、滅多なことがない限り忘れないよ。」
「ディア!? そんなことしてたの!?」
「いや、まあ、その……そこまでしないと、プライドが高いお偉いさんたちは黙らせられないって校長が言うからぁ~……」
素っ頓狂な声をあげて目を見開くアイロス先輩に、オレは言葉を濁すしかなかった。
「このこと、総督部にばれて……」
「そうだとしたら、総司令長があんなにぬるい条件を出すわけがないだろう?」
オレの一抹の不安を、ランドルフは首を横に振って否定。
「君の中学から高校までの成績と特待推薦枠実技験の成績、そして君が特待推薦枠実技験を受けた事実も、総司令長の命令で君のことを調べるついでに抹消して、別のものに置き換えさせてもらったよ。君の関係者が半端な脅しじゃ口を割らないと分かったから、後はデータさえどうにかすれば、君はただの学生だ。三年前に、試験のことをあえて伏せておいてよかったよ。君は絶対に、何か派手なことをやらかすと思っていたから。」
「………」
目の前にいるのは、悪魔じゃなくて魔王様かもしれない。
あのじじいも、序列第三位がこんな裏切り行為をしてると知ったら、泡でも吹いて倒れるんじゃないか?
オレとの面会に同行させて、こんなに重要な仕事を割り振るくらいだ。
あのじじいがこの人を右腕だと思っているのは、明らかだと思うんだけど。
「さて。長話がすぎてしまったようだ。そろそろ、私は戻るとしよう。」
「仕事かい?」
「ええ。ディアラント君絡みで口を封じなきゃいけない人間が、あと一人いるんですよ。それに、総司令長が手をこまねいて報告を待っているでしょうから。」
「そっか。その一人が片付けば、情報処理は完璧って感じ?」
「はい。」
「ありがとう。いつも悪いね。こんな汚れ役ばかり押しつけて。」
「いえ。これが、私の決めた道ですから。」
フールと物騒な会話を交わし、ランドルフは歩を進めた。
「先日まで学生だった君には刺激が強すぎたかもしれないが、これが現実だ。大きなことを成し遂げようとするなら、当然犠牲がつきものだ。君が飛び込んだ世界は、決して綺麗な世界じゃない。今のうちに、自分の手を汚す覚悟をしておきなさい。」
すれ違いざまに肩に手を置かれ、刹那にオレは悟った。
ランドルフとフールがここでオレを待っていた、本当の目的を。
「―――あなたは。」
後ろを振り返り、ドアノブに手をかけていた後ろ姿に問いかける。
「あなたは、何を胸にそこまでの覚悟を決めてるんですか?」
ランドルフはきっと、この世界の闇を知り尽くしている。
そして、何度も己の両手を血に染めているのだろう。
知りたかった。
何が彼をそんなに強くするのか。
―――彼の生き様は、オレが目指すべきものに近い気がしたから。
「約束、なんだよ。」
答えは、なんともシンプルだった。
「見届けてくれる相手は、もういないけども……―――私の人生の全てを捧げると、そう強く誓った約束だ。」
そう語ったランドルフは、この時初めて、人間らしい優しげな笑みをたたえたのだった。
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