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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント30 悪魔コンビの企み
しおりを挟む『それにしても……よくオレの隊長就任が認められましたね?』
ドラゴン殲滅部隊に関わる話を聞いてそんな感想を零したオレに、ターニャが言ったのだ。
ジェラルドはともかく、ランドルフの言葉にはさすがに泣かされそうになった、と。
「別に、悪意があることは言っていない。ただ、総司令長の機嫌を持ち上げつつ、ターニャ様に覚悟のほどを訊ねただけだよ。」
なんでもないことのように、ランドルフは次の言葉を続ける。
そして、オレはそれに返せる言葉を見つけられずに、固唾を飲むことになってしまった。
「彼の幸せを願うなら、ルルアに送り出すのが一番ではないのですか? ドラゴン殲滅部隊なんかに巻き込んで彼が命を落とせば、彼はあなたのせいで死んだことになるんですよ? 私たちは彼が死んでくれれば好都合ですが、あなたは彼を殺すことに抵抗はないのですね? ……と。そう言っただけだが?」
さすがにそれは、誰でも泣くわ。
ランドルフの容赦ない発言に、寒気がした。
大事な人を殺すのかと訊かれれば、誰だって選択を躊躇う。
それに加えて、その人が死ぬのが好都合だとまで言われてしまっては、受けたショックも相当なはずだ。
さっき、ターニャに深く訊ねなくてよかった。
ターニャ、よく泣かなかったな。
今度二人きりになれた時は、うんと甘やかしてやろう。
「ランドルフ……それは、言われた方としてはきついよ。」
オレの気持ちを代弁するように、フールが上ずった声でそう指摘する。
「中途半端な追い詰め方では疑われるでしょう? あの時はもう、ディアラント君との契約は済んでいたんでね。あとは、ターニャ様の意志と覚悟の固さが必要だったんです。それに、あそこでとことん追い詰めておいたからこそ、ディアラント君の隊長就任がするする決定に向かったんです。」
「否定できないところがもどかしいというか、なんというか……」
フールは困ったように頬を掻いた。
そしてふるふると首を回すと、一気に口調を変える。
「何はともあれ、ひとまずは隊長就任おめでとう。君たちを歓迎するよ。」
オレとアイロス先輩の周りをくるくると回り、フールは両手を広げた。
「……とりあえず、ありがとうって言うべきなのか?」
「ディアが望んだことなら、そうなんじゃないかな?」
「じゃ、どうもありがとう。」
笑ったオレに対し、フールも嬉しそうな声をあげる。
「むふふ…。それにしても、意外とここに来るのが遅かったなぁ。僕としては、ここまでこぎ着けるのは一ヶ月くらい前の予定だったんだけど。」
………………んん?
オレは、笑顔のまま静止した。
「今、なんつった?」
口だけが勝手に、事実確認を取ろうとする。
「お前、こうなることを狙ってたのか?」
ゆっくりと訊ねる。
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決定的な裏付けが取れた瞬間だった。
「お前……」
オレの口から、オレじゃない声が漏れていく。
ここに、ランドルフ以上の悪魔がいる。
うっかりとか言いながら、態度を見る限り、絶対にわざと暴露しやがった。
「やだ。この子ったら、察しがよすぎるよー。」
どこかのおばちゃんみたいな口調でふざけたことを抜かしながら、フールは慌ててランドルフの後ろに身を隠した。
「オレとターニャが、どんだけ苦労したと思って……」
「だ、だって……この子使えるって思ったんだもん。それに、ちゃんと言ったじゃない。君になら頼んでも大丈夫そうだって!」
「受け取れる意味が全然ちがーう!!」
オレは吼える。
あの時の言葉は前後の展開的に、単純に出かける時の護衛を頼まれたのだと思うじゃないか。
オレじゃなくても、そうとしか受け取りようがなかったはすだ。
絶対にそうだと賭けてもいい。
「じゃあ何か!? お前は初対面のあの時から、オレをここに引き込もうと画策してたわけか!?」
「あわわわわっ。白状するならそのとおりです!」
さらにランドルフの背に身を隠しながら、ぬいぐるみの姿をした悪魔が本性を見せる。
「だって、僕の目から見たら、あの時にはもう二人とも十分に好き合ってたもん! ターニャには悪いけど、逃がすわけにはいかなかったんだよ。堂々と竜使いに味方してくれる人材なんて、この先一生出るかどうか分かんないし。それに、ディアにだって責任あるからね!?」
「オレに?」
「そうだよ。君はターニャの立場を知ってたでしょ。ターニャと会うのを続けていれば、遅かれ早かれ総督部に目をつけられることは、当然のリスクとして分かってたはずだよ。それが頭になかったとしたら、それは明らかに君の認識ミスだ。」
「………」
オレは返事に窮した。
実を言うと、そんな想定は全く頭になかった。
ターニャが身を置く環境とオレがターニャに会うことは、オレの中で完全に別次元のことだったからだ。
「フール様。お言葉を挟んで恐縮ではありますが、ディアラント君にそれを想定するのは困難だったと思いますよ。」
そこで、ランドルフが口を開く。
「彼は総司令長と私の素性を知っても、首を捻っていたくらいですからね。それに、俗に言うではないですか。」
目を細めるランドルフ。
「―――恋は盲目、と。」
「アイロス先輩!!」
「はいい!?」
珍しくフォローしてくれたと油断したオレが馬鹿でした。
アイロス先輩がいなければ一発は殴ってたぞ、この悪魔コンビめ。
「ここで聞いた話は……言わなくても、分かってますよね?」
「―――っ!!」
低い声で訊ねたオレに、アイロス先輩は音にならない悲鳴をあげながら何度も頷いた。
「おおー。隊長さん、こわーい。」
「仕方ないですね。状況的に逃げられずにこんな結末になったんだと思ってたら、実はフール様と私に踊らされていただけだったんですから。面白くはないでしょう。」
「まあ、逃げられなかったのは事実じゃない? 二人ともベタ惚れだったしね。」
「そうですね。おかげで、転がしやすくて助かりましたよ。」
「ああああああ、もうーっ!!」
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無理だって分かってますけど、この二人に詐欺罪って適用されませんかね!?
「もういいです! どうせ、ターニャに惚れた時点でオレの負けなんですよ!! 認めりゃいいんでしょう!?」
浅はかだった頃の自分をぶん殴ってやりたい。
でも、彼女に惚れてしまったことは取り消しようがない。
そして、裏事情が分かってもこの選択を後悔はしていない。
全面的に、オレの負けだ。
「私利私欲で結構! 一生かけて、ターニャを支えます。隊長としても―――恋人としてもね。」
こうなりゃ自棄だ。
この悪魔コンビがここまで開き直るなら、オレだって開き直ってこの状況を利用してやる。
そもそも、オレには被害者面なんてできない。
だって、この場で一番の被害者は、強制的にとんでもない事実を聞かされ続けているアイロス先輩なのだから。
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