竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント29 ドラゴン殲滅部隊の裏事情

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「んー…。なんか、違和感だらけだよなぁ。」


 初めてそでを通した制服のえりを整え、率直な感想を述べる。


 今日からオレは、一介の大学生ではなく、ドラゴン殲滅せんめつ部隊の隊長として任にく。


 先ほど挨拶のためにターニャの執務室に向かい、その時に渡されたのがこの制服だった。


「いや、ばっちり似合ってると思うよ。……俺の胃は、早くも悲鳴をあげてるけどさ。」


 隣では、アイロス先輩が青い顔をして胃を両手で押さえている。


「いや、オレだって初めて聞いたことだらけだったんですよ? 別に、騙してたわけじゃないですからね?」


 妙な濡れ衣を着せられても困るので、オレはそのことを強調した。


 執務室でターニャから聞かされたのは、ドラゴン殲滅部隊がそもそもどういった部隊であるのかという話だった。


 この国は、ユアンの直系であるターニャたちが神官として治めてきた。


 それは、竜使いがドラゴンと言葉を交わしていた事実と、この国の至る場所にドラゴンが眠っているという言い伝えを背景にしているらしい。


 そして、いつか来るであろうドラゴンとの戦いが起こった時、ドラゴンとの繋がりが強い神官が直接指揮できる部隊があった方がいいのではないか。


 そういう意見から生まれたのが、ドラゴン殲滅部隊だという。


 しかし、その実情は不要な人材を特攻させるためだけの部隊。


 国防軍としては、ドラゴンが出てしまった時に、様子見で出撃して死んでくれる人間が欲しかっただけ。


 とはいえ、その責任は国防軍で負いたくない。


 だから神官直轄の特務部隊を作ることで、死に行く人々に対する責任を神官に押しつけたというわけだ。


 アイロス先輩も一緒だったというのに、ターニャはドラゴン殲滅部隊に関するどす黒い内情を隠さなかった。


 それはきっと、オレが受け入れた人なら大丈夫だろうという信頼の表れだと、勝手にそう思っている。


『ですが、これは逆に強い切り札となりえます。』


 ターニャは語った。


 面倒な責任を少しでも負いたくない。


 そんな総督部の意志が大きく働いているせいで、ドラゴン殲滅部隊は国防軍とは全く関わりのない軍として独立している。


 この部隊で起こった不始末の責任は、ターニャにしか向けられない。


 裏を返せば、ドラゴン殲滅部隊ではターニャが好きに権力を振るえるのだということ。


 そして、完全に独立しているドラゴン殲滅部隊は、国防軍の影響を一切受けない故に、神官の方針次第で総督部に匹敵した力を持てるとも言えるのだ。


『今までは、この部隊を任せたいと思えるほど信頼できる方がいませんでした。でも、あなたがいるなら、私は遠慮することなくこの部隊の強みを利用できます。』


 これは確かに、ジェラルドが面白くない顔をするわけだ。


 ドラゴンが出たら特攻せねばならないとしても、ターニャと隊長の意志一つで、ドラゴン殲滅部隊は左遷させん部隊などではなく、総督部に対抗できる最強部隊となれるのだ。


 隊長に就任するオレが絶対的にターニャの味方だと分かっているのだから、ジェラルドとしては、ターニャに力を与えかねないこの道を潰したかったに違いない。


 その話を聞き、隊員に連帯責任が課せられた意味と、オレに国家民間親善大会五連覇という難題をふっかけられた理由がすっきりと理解できた。


「おーい、ディアー。」


 ふと聞こえる、オレを呼ぶ声。


 そちらに顔を向けると、オレたちが向かっていたドラゴン殲滅部隊の執務室の前で、フールともう一人が待っていた。


「本当にもう……」


 オレは肩を落とす。


「また、あなたなんですね。今回はどういったご用件で?」


 フールには一切触れず、オレは彼の隣にいるランドルフへと半目を向けた。


「総司令長の命令で、ドラゴン殲滅部隊の引き継ぎをしに来ただけだが?」


「あなたが直接?」


「総督部の中で毛嫌いされる仕事は、大抵私の仕事になるからね。」


「部下にやらせりゃいいんじゃないですか?」


「総督部と君の間でされたやり取りは、全て闇に葬られる予定だ。だから、総督部の人間である私が来ている。」


「なるほど。ま、オレも声高々に騒ぐつもりはないですけど。」


「はい、ストーップ!」


 静かに睨み合うオレたちの間に、フールが割り込んでくる。


「僕を無視して話を進めないでよ。……ってか、何も知らない隊員一号君が真っ青になって硬直してるけど?」


「あ…」


 オレはその指摘を受けて、後ろを振り向く。
 そこでは、アイロス先輩が空気を求めてあえぐ魚のように口をパクパクさせていた。


「ディ…ディア…? これは、どういう…?」
「ほう…。君が、いきなり総督部の思惑をひっくり返してくれたアイロス君か。」


「ひっ…」
「やめてあげてください! ただでさえ、胃弱な人なんですから!」


 面白そうにアイロス先輩へ近寄りかけたランドルフを自分の体で遮りつつ、オレは執務室に繋がるドアを開けた。


「………」


 部屋の中を見て絶句。


 ……とりあえず、初めての仕事は大掃除かな。


 頭に浮かんだのは、それだけだった。


「わぁ…。ディア、ファイト!」


 このぬいぐるみめ。
 窓からぶん投げるぞ。


「俺、やってけるかなぁ……」


 アイロス先輩、心の底から同情します。


「そうそう。言い忘れていたが、私から引き継ぐことは特にないよ。」


 あんたは何を言ってんの!?


「引き継ぐことが特にないって、じゃあ何しに来たんですか!?」


 フールとアイロス先輩への返しはとりあえず置いておき、オレはランドルフに全力のツッコミを入れる。


「これも、総司令長からの命令だ。引き継ぎは手抜きで構わないから、君に総督部の恐ろしさを叩き込んでこいと言われている。」


「ちっさい人間だな! あのくそじじぃ!!」


「ディアーッ!?」


 叫んだのはアイロス先輩だ。


「何言っちゃってんの!? その方がどんな方か分かってる!?」


「国防軍参謀局第一部隊隊長、並びに国防軍総督部序列第三位のランドルフ上官ですけど? 忘れるわけないですよ。」


「態度が分かってなーい!」


「いいんです! どうせ最初から、国防軍にへこへこするつもりなんてないから!!」


「火に油を注いでどうすんの、馬鹿!!」


「馬鹿で構いません!!」


 きっぱりと言い切り、オレはアイロス先輩からランドルフへと視線を戻す。


「まあ、細かいことはいいです。オレもあなたに訊きたいことがあったから、都合いいんで。」


「訊きたいこと?」
「ええ。」


 小首を傾げるランドルフに、俺は大きく頷いて……




「あなた……オレの処遇を決める会議で、あの人に何を言ったんです?」




 鋭く問いかけた。

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