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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント27 傲慢な過大評価
しおりを挟む「はー、すっきりしたー!!」
宮殿から出て、オレはようやく全力で息を吐いて両腕を突き上げた。
それにしても、最後のジェラルドたちの顔はかなりの見物だったな。
天狗のように伸びきった鼻を少しでも曲げてやったと思うと、胸の内がスカッとする。
おかげで、殴られたことくらいは水に流してやれそうだ。
さてさて、ドラゴン殲滅部隊隊長への就任は二週間後。
引っ越しに申請書類の記入にと、やらなければならないことが山積みである。
「オレ、しばらく寝れるかなぁ。」
呟くオレの口調は軽い。
これも、ターニャの傍にいるための準備だと思えば全く苦にならない。
やっぱりオレは単純なんだろうな。
「ディア。」
そう声をかけられたのは、ちょうど宮殿の正門を抜けたところでのことだった。
「あっれー、アイロス先輩じゃないですか。お久しぶりですー♪」
門の前で仁王立ちになっていたアイロス先輩に、オレは大きく手を振った。
こうしてアイロス先輩と顔を合わせるのは、彼の卒業式以来のことだ。
彼が所属している部隊は地方での仕事が多いとのことで、今日まで会うことはおろか、メールすらもろくにできていなかった。
「本当に久しぶりだねー……―――って、言うと思ったかーっ!!」
「おおおっ!?」
笑顔で肩に手を置かれたかと思った瞬間に大きく揺さぶられて、オレは軽く目を回してしまった。
「久しぶりに帰ってきたと思ったら、なんなのコレ!? 何をやらかしたの!? どうしたらあんな無茶苦茶な辞令が下るのさーっ!?」
「せせせ、先輩! とりあえず落ち着きましょう!?」
狂った機械のように肩を揺さぶり続けるアイロス先輩に、オレはたまらず声を荒げる。
「……ってか、聞いてたんですか? さっきの話。」
相当数の野次馬が集まっているなと思ったけど、まさかその中にアイロス先輩が紛れていたとは思ってもいなかった。
「聞いてたも何も、最悪だよ。一ヶ月ぶりに宮殿に戻って、報告書を出して、明日からちょっと休みだーなんて考えながら歩いてたら、ランドルフ上官と歩いてるディアがいるんだよ!? しかも、わざわざスーツで! そんなん見たら、ついていくしかないでしょうが!! この馬鹿!!」
「ははは……馬鹿なのは否定できませんねぇ。」
「ほーら! ディアはすぐそうやって、あっけらかんとするーっ!! 何があったのさ!? 俺の胃を殺す気なの!?」
言うそばから、胃を押さえているアイロス先輩。
本当に、そんなんでよく国防軍勤めができてるよなぁ。
「何があったって言われても……」
オレは頭を掻く。
「出る杭は打たれるって言うじゃないですか。」
「今まで出ないように、あんなに隠れてたくせに?」
「まあ、そうなんですけど……」
まさか、セレニアを治める神官と恋人になりましたなんて言えるはずもなく、オレは言葉を濁すしかない。
「―――はぁ…」
オレをじっと見つめていたアイロス先輩が、ふいに重たい溜め息を吐いた。
そして、ふらりとオレの横を通り過ぎて、宮殿の方へと向かっていく。
「先輩?」
「……書類、もらってくる。」
「なんの?」
「この状況でもらってくる書類が、異動願の他に何があるの?」
「…………へっ!?」
その発言に、オレは面食らってしまった。
「せ、先輩…? 話、聞いてたんですよね?」
「聞いてたよ。」
「じゃあ、どうして…。先輩らしくないですよ?」
高校の時からの付き合いだから知っている。
アイロス先輩が平穏を大事にしていることも、そんな先輩が生活の安定を求めて国防軍に入ったことも。
それだけに、オレからするとアイロス先輩のこの発言は驚天動地なのだ。
「俺らしくない、か。確かにそうかもね。でも、ディアは何も悪いことはしてないんでしょ?」
「それはそうですけど……」
「なら、味方につくことを躊躇う必要がある?」
アイロス先輩は肩をすくめた。
「あのさ…。俺は高校の時からディアを知ってて、なんだかんだで頼られてた気もするし、ディアのことは他の人よりも理解してるつもりなんだ。断言させてもらうけど、少なくともこれから五年、ディアはドラゴン殲滅部隊に隊員を迎えるつもりないよね。」
「うっ…」
図星だった。
オレが頬をひきつらせると、アイロス先輩はやれやれと息をつく。
「知ってるよ。ディアはそういう人間だって。本当はなんでも自分でできちゃうから、他人に頼る時と頼らない時の分別は案外しっかりとつけてる。だから大学に入った後、実力隠しに俺を巻き込もうとしなかった。」
「………」
「でも、甘いんだよ。」
両手を腰に当てて、憤然とするアイロス先輩。
「お前は、本当の意味で自分の実力を理解してない。中途半端に頼られて、大事なところでは守られるだけで、どれだけ俺たちがやきもきしてると思ってんの? 自分がどれだけ魅力ある人間なのか、そろそろちゃんと分かってくれない? ディアが望めば、喜んでついてくる人はたくさんいるんだよ。みんな剣の腕なんて関係なく、ディアラントっていう人間に惚れ込んでるわけ。俺だってそうなんだよ。」
アイロス先輩はまっすぐにオレを見つめて、普段の頼りない姿からは想像もつかないような鋭い目つきをする。
「一人で戦わせてやるかよ。ディアが隊長に就任する日に間に合うように手続きしてくるから、覚悟を決めてよ? 俺が巻き込まれちゃえば、全部一人で背負おうなんて傲慢なことを考えずに済むでしょ?」
―――ああ、本当に馬鹿だ。
言葉以上に想いを訴えるアイロス先輩の瞳に、オレはそう思い知らされる。
オレがターニャに惹かれて一緒に戦いたいと願うように、アイロス先輩だって、オレの味方となって一緒に戦いたいと望んでくれている。
それなのに、オレはドラゴン殲滅部隊にかかる責任を一人で背負い込もうとしていた。
ターニャに向かっては、一緒に戦わせてほしいなんて言ったくせに。
確かにアイロス先輩の言うとおり、傲慢な過大評価だ。
たった一人の努力では、ジェラルドたちに対抗する巨大な力を生み出せないというのに。
「何か文句でもありますか、隊長?」
アイロス先輩が、微笑みを浮かべて訊いてくる。
その目と態度からは、相当強い覚悟が見て取れた。
「いいえ。先輩のこと、お待ちしています。」
オレは笑った。
そして。
「ありがとうございます。」
感謝の意を伝える。
「今の先輩の言葉がなかったら、オレは大事なことを履き違えるところでした。気付かせてくれて、本当にありがとうございます。感謝してもしきれないくらいです。だから、ちゃんとお願いさせてください。」
姿勢を正し、オレはアイロス先輩に頭を下げた。
「アイロス先輩、オレと一緒に戦ってもらえませんか?」
真剣な想いを、音に乗せる。
オレはまだまだ未熟で、自分の才能を過信して傲慢な思い込みをしている部分がたくさんあるだろう。
一人で戦っていては、きっとそのことに気付けない。
焦りばかりが空回って、自分の身を滅ぼすことになるかもしれない。
でも、そんな時に共に戦う仲間がいるのなら、こんなに心強いことはない。
今回みたいに至らない点を指摘してもらいながら、仲間の信頼に支えられながら、オレは今よりずっと強く立てるようになる。
そしてターニャが望むように、この国を守る一振りの剣になれるのだ。
「本当に、ディアの本気って怖いよね。まだ就任前だっていうのに、誰よりも隊長っぽいよ。」
アイロス先輩はそう言って、苦笑いを浮かべた。
「もちろんです。喜んで、ディアラント隊長と一緒に戦います。」
深く頷いてくれたアイロス先輩は宣言どおり、その日の内に異動願を提出した。
現ドラゴン殲滅部隊の解散。
並びに新ドラゴン殲滅部隊の発足と、若き隊長の就任と共に新任が一名。
その一大ニュースは、オレへの辞令が公表されると同時に、宮殿に大きな波紋を広げていった。
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