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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント24 生まれて初めて、本気で愛した人
しおりを挟む「オレは、ターニャの望みを叶えたい。もっともっとわがままを言ってほしい。そのせいで、権力や責任に縛られたって構わない。だからどうか、オレにあなたの望みを聞かせてくれないか?」
自分で決めてしまったら、オレはとことん貪欲なんだ。
納得するまで手を抜かないし、生半可な結果じゃ満足してやらない。
どんな不可能だって、立ち塞がる全てを屈服させて可能に変えてやる。
「……望んでも、いいのですか?」
オレの目に囚われたターニャの唇が、微かに震え出す。
「いいよ。―――言って?」
オレは優しく先を促す。
誰が我慢なんかさせてやるか。
彼女の望みもわがままも全部―――オレのものにする。
「ルルアに行ってほしくない。」
「うん。」
「離れたくない。」
「それで?」
「ずっと……傍にいてほしい。」
ターニャが、より一層目元を歪める。
「もう戻れない。戻りたくないんです。」
ぐっと力がこもる、ターニャの両手。
「だって、あなたのことが―――」
「―――っ!!」
その言葉は、オレがこらえていた衝動を爆発させる起爆剤。
言葉を最後まで聞き届けるより先に、オレはターニャの唇を自分のそれで塞いでいた。
「ディア……ん…っ」
戸惑って身を引きかけたターニャを強く抱き寄せ、オレは彼女の唇に再度蓋をする。
深く、深く、永遠に思えるほど長く―――
「それだけは、言わせない。」
ターニャの言葉も呼吸も奪ったオレは、互いの荒い呼吸が混じり合うほどの近距離から彼女を見つめる。
「あなたがオレを落としたんじゃない。オレが、あなたを落としたんだ。あなたからは言わせない。」
オレとターニャの中にあるこの言葉は、多くの人を巻き込むとんでもない嵐のきっかけになる。
その責任は彼女からではなく、オレから背負う。
「好きだよ。」
この気持ちを伝えることに、躊躇いはない。
「あなたは、生まれて初めてオレが本気で愛した人だ。だから、傍にいさせてくれ。一緒に戦わせてくれ。」
オレは彼女の傍にいる。
守られるためじゃなく、守るために。
「傍に……いてくれるんですか?」
「当たり前だ。離れろって言ったって、絶対に離れない。離さない。」
「本当に…? あなたは本当に、それでいいんです―――」
それ以上はターニャの言葉を聞きたくなくて、オレはまた彼女の唇を塞いでやった。
「言っただろ? オレがあなたを落としたんだって。」
なんだろう。
不思議な心地だ。
こんなに必死になって言葉を紡ぐなんて初めてだ。
否定されたくないと。
受け入れられたいと。
こんなにも強くそう思ったのは初めてなんだ。
「何度だって誓う。オレは、あなたの傍を絶対に離れない。」
「………っ」
ターニャの両目から、透明な雫がぽろぽろと落ちていく。
オレはその涙を拭ってやろうと、ターニャを抱き締める腕を少し緩めた。
すると、その隙を逃すまいとするように、今度はターニャの方がきつく抱きついてくる。
「好きでいて、いいんですか?」
「そうでいてくれると、オレは嬉しい。」
耳元で甘く囁いて、その頭をなでてやる。
オレの言葉を聞いたターニャは、オレの背に回す腕に一生懸命力を込めた。
「好きです。あなたのことが、この世界の誰よりも。」
「うん。」
「好きで好きで、たまらないんです。こんなにも誰かのことを欲しいって思ったのは、初めてなんです。もう、あなたがいないと生きていけない…っ」
「ターニャ。」
「好き……好き……離れたくない。」
「ターニャ!」
思わず、オレは叫んでいた。
そして、肩を痙攣させたターニャを思い切り抱き締める。
「悪い……それ以上言われると、色々と我慢できなくなりそう。」
「え…?」
「あなたは、オレの前でだけ可愛すぎるんだよ。そろそろ、本気で理性がぶっ飛びそうなんだって……」
すみません。
もっと望んでほしいとか大口を叩いたけど、望まれたら望まれたでやばいのはオレの方でした。
自分の中で荒れ狂う衝動を、ターニャを抱き締めることでなんとかやり過ごす。
すると―――
「……ふふ。」
今までとは明らかに違う雰囲気の声が鼓膜を叩く。
見ると、ターニャが涙を引っ込めてくすくすと笑っていた。
「わ、笑うの!?」
思わぬ反応に、オレはぎょっとする。
「笑いますよ。」
ターニャは言う。
「私には、わがままを言ってほしいって言ってくれたのに。」
「うっ…。それとこれとは、話が―――」
「同じです。」
ターニャはきっぱりと言って、オレの言葉を遮った。
「ディア。私の最初のわがままを聞いてください。」
両手を伸ばしたターニャが、オレの頬をそっと挟む。
「キスしてほしいです。」
そのおねだりは強烈。
まったく、この人はもう!
好きでいてくれるのは嬉しいんだけど、男の危険性を知らないんだから!!
「……どうなっても知らないよ?」
内心の絶叫を押し隠し、オレはターニャに問う。
彼女は何も言わず、ただにっこりと笑みを深めた。
それに、オレは息を飲むしかない。
その笑顔はだめだ。
勝ち目なんてない。
「……負けました。本当に、あなたには勝てる気がしないよ。」
オレは眉を下げて微笑み、顔を上げるターニャにゆっくりと口づけた。
長いキスの合間に見た、ターニャの幸せそうな笑顔。
後にも先にもないだろうその特別な笑顔を、オレは一生忘れられないと確信した。
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