竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント17 〝もうやめます〟

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 ターニャから電話がかかってきたのは、翌日の夜のことだった。


「ディア……留学の話が上がっているっていうのは、本当ですか?」
「………っ」


 単刀直入に言われ、オレはとっさに返事をすることができなかった。


「今日ランドルフさんが来て、ジェラルドさんがディアに、ルルアへの留学を勧めたと聞いたのです。」


「………」


 余計なことを。
 オレは、内心で舌を打っていた。


 大学内に、この話は広がっていない。


 それでてっきりこれは内密な話だと思っていたのに、しっかりとターニャにだけは情報を流していたらしい。


 オレとターニャしか知らない留学の話。
 目的は、火を見るより明らかだ。
 その証拠に。


「……ごめんなさい。」


 ターニャは、今にも泣き出してしまいそうな声で謝ってきた。


「私のせいです。よりにもよって、ルルアだなんて…。フールが言っていました。ディアがルルアに行ったら、きっともうセレニアには戻れないって。それだけのものを、あの子は持ってるからって……」


 揺れるターニャの声。




「私……あそこへ行くの、もうやめます。」




 その発言に、オレは息を飲んだ。


「ちょっ…」


「私が甘えていたのがいけないのです。私たちが夜中に会っていたことは、まだ総督部の耳に入っていません。今ならまだ、引き返せます。」


 違う。
 奴らはそんな甘くない。
 それに、ターニャが悪いんじゃない。


 声を大にしてそう言いたい。


 本当なら、泣くのをこらえて震えているだろうターニャを、今すぐに支えにいってやりたい。


 なのに……なんで、オレの喉も体も全く動かないんだ―――……




「ディア、今までありがとうございました。あなたと剣を学んだこの三ヶ月……自分でも驚くくらい楽しかった。幸せだったんです。この思い出があるなら、私はどんな苦境でも立っていられる。本当に、本当にありがとう。…………さようなら。」




 消え入るような別れの言葉。
 切れる電話。
 ただ静寂ばかりを強調する、通話が切れたことを示す無機質な音。


 オレは何もできないまま、茫然とその場に立ち尽くしていた。




 何分も、何時間も、ずっと……



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