竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント16 悩むことさえできない選択肢

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「ルルア国立剣術研究所?」


 オレの問いかけに、久しぶりに連絡を取ったナイトリン高校校長であるローレシア先生は、素っ頓狂な声をあげた。


「急に電話をかけてきたと思ったら、一体どうしたんだい?」
「……実は、ルルアに留学しないかって言われて。」


 オレはあえて、その事実を隠さなかった。


「はい!?」


 電話の向こうで、ローレシア校長はさらに声を跳ね上げる。


「ディア、何したの!? とうとう猫被りがばれたのかい!?」


「それだけは、断じて違います。なんか、部活で好き勝手やってた剣術教室がお偉いさんの目に止まっちゃってー。もー、オレが一番びっくりですよー。」


「……あーあ。そういや、私もそんな話を小耳に挟んだよ。校長仲間たちが必死にディアを取り合ってるから、上手くやるもんだなーって感心してたけど……そっち方面で目をつけられちゃったんだ?」


 オレがいつもの口調で経緯を話すと、ローレシア校長はすっかり納得した様子だった。


「そうなんですよー。困っちゃいますよねー。」


「でも、どうせ断るんだろう?」


「もちろん。だから、ルルアについて教えてください。」


「まーた君は楽をしようとする。自分で調べなさいよ。」


「そんな、サイトやパンフにってるような内容で作った理由で、向こうが納得するわけないじゃないですか。そこそこ込み入った話まで知っとかないと、交渉にもつれ込まれた時に不利ってもんでしょう。ってなわけで、情報をください。校長、昔交流試合でルルアに行ったことがあるんでしょう?」


「やれやれ、そういう余計なことばかり覚えてるんだから……」


 ローレシア校長はふう、と重たげな溜め息をつく。




「自由でありたい、と思うなら……おすすめはしないね。」




 第一声は、そんな言葉。


「自由、ですか。」
「そう。」


 ローレシア校長は、静かに語り出した。


「あの国の統率力は異常だよ。ルルアに少しでも関わって、現地の人に気に入られてごらん。母国には戻れないと思った方がいいね。祖国の人間だろうが他国の人間だろうが、これはと思った人材を逃がさないのがルルアだ。とりわけ、今年に入って新しい大統領が就任してからは、カリスマ性に磨きがかかってるそうだよ。」


「カリスマ性、ねぇ……」
「うむ。」


 オレの呟きに、ローレシア校長もうなる。


「その大統領は、欲しい人材の心を落とすそうだ。無理に引き留めるのではなく、自らルルアに属したいと思うようにね。そのせいか、他国の留学生でも大統領に心酔してる子が多いらしい。多分その方は、ディアと同類の才能を持ってるんだろう。」


「………」
「ディア。」


 黙りこくったオレの耳に、トーンを下げたローレシア校長の声。


「忠告しておくよ。ルルアでは、君の猫被りは通用しない。頑張って隠しても、すぐにその天の才は暴かれてしまう。そして十中八九、ルルアは君を離さないだろう。もう一度言うけど、自由でありたいと思うなら、意地でも辞退しなさい。」


「……分かりました。ありがとうございます。」


 電話を切り、オレは細く息を吐く。


 校長の話を聞いて、全てがすっきりとした。


 ジェラルドたちはいかにもいい話のように話していたが、実際は世間体だけが立派な国外追放というわけですか。


 国内初の推薦留学生だというのも納得だ。


 ルルアに引き抜かれると分かっていて優秀な人材を差し出すほど、国防軍も馬鹿ではないということらしい。


 どんな形であれ、ターニャに味方がついては困る。
 ジェラルドの言葉を思い返し、気分が沈む。


 理解できない。
 ここまで手を回してターニャを孤立させることに、一体どんな意味があるというのか。


 だって彼女は、真剣に国を背負う覚悟を決めているじゃないか。


 いつか身に覚えのない罪で宮殿を去る日が来ても、その時に胸を張って責任を負える国にしておきたいと、あんなに純粋な気持ちで理不尽さと向き合っていたのに。


 竜使いだから。


 ただ、それだけで……


「……まずいな。」


 オレはくしゃりと髪を掻き上げた。


 分かっている。
 オレには、なんの力もない。
 下手に力を持たないようにしてきた。


 それが、オレの夢を叶えるための最短で最善の選択だったから。


 総督部を相手にして、オレにできることなんてない。


 自分の夢を叶えるなら、大人しくターニャから手を引くか、ルルアに留学するかの二択。
 しかし、オレはその二つの選択肢で迷うことすらできないでいる。


 この二つから未来を選んだって、絶対にオレは納得しないし後悔すると分かっていたから。


 オレはただ、権力とか地位が関係ないところで、ただ一人の人間としてターニャを支えてやりたいだけなのだ。


 ただ、それだけなのに……




「オレは……どうするべきなんだろうな……」




 この時はまだ、オレは自分の中に結論を見出だせないでいた。

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