竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント10 ちょっとした悪戯心

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 オレはパチパチとまばたきを繰り返して、ターニャを凝視した。


 あれ…?
 なんかよく分からないけど、もしかしなくても怒ってる?


「ご、ごめんターニャ。ちょっとはしゃぎすぎた。」


 狼狽ろうばいするオレは放置で、フールが空笑いをしながら大慌てでターニャをなだめにかかった。


 ということは、やっぱりターニャはこの状況に怒っているようだ。


「ディア!」


 何かをこらえるように眉根を寄せてオレのそでを握っていたターニャは、キッと顔を上げてオレに詰め寄ってきた。


「私にも、フールみたいに敬語なしで普通に話してください!」
「ちょっ……ターニャ!?」


 オレより先に、フールが裏返った声でオレたちの間に割り込んでくる。


「お、落ち着いてよ。僕が悪かったって! さすがにそれは、ハードル高いんじゃないかな!?」


「だって、なんだかフールばかりずるいです。」


「いや、僕の場合は単純に舐められてるだけだから。神官に対して敬語を使うなって、それは……」


「別にいいけど。」


「ほら、やっぱりいいって……ええぇっ!?」


 ぽつりと答えたオレに、ターニャの期待するような眼差まなざしと、驚愕したフールの顔が向けられる。


「い、いいの!?」


「いや、だって……そもそもの出会いが出会いだし、何もかもが今さらって感じでしょ?」


 ターニャに初めて出会ったあの日、敬語うんぬんの前に、オレは彼女に怒鳴り口調でまくし立てていた。


 初めから、遠慮する領域など飛び出しているのだ。


「本当にいいんですか…?」
「あれ? 無理だって言ってほしいの?」


 意地悪く訊くと、ターニャはぶんぶんと首を横に振った。
 そんな彼女の反応に、オレの中のささやかな悪戯いたずら心がくすぐられる。


「じゃ、ターニャも敬語はなしね?」
「えっ…」


 まさか自分にまでお鉢が回ってくるとは思っていなかったのか、ターニャはポカンとした表情で固まってしまった。


「えっと……敬語じゃない話し方って、どうすればいいんですか?」


 思考が停止したらしいターニャの口から、オレからすればものすごく間抜けな質問が飛ばされる。


「どうって、とりあえず語尾に〝です〟とか〝ます〟とかをつけないこと。ってか、オレが普通に話してるのを真似すればいいだけだよ?」


 なんとか笑いをこらえながら答える。


「あう……えっと……あれ…?」


 口をぱくぱくとさせ、ターニャは必死に言葉を探しているようだ。


 目を白黒させながら、結局何も思い浮かばずに首を傾げるターニャに、オレの我慢は早くも限界を迎えた。


「……ぷっ」


 思わず噴き出してしまった。


 それが臨界点突破のきっかけで、オレは込み上げてくる笑いをこらえきれずに腹を抱えた。


「あははははっ! ご、ごめ……ちょっとからかっただけ、のつもりだったんだけど……ま、まさかそこまでテンパると思ってなくて…っ」


「ちょっと、ディア! 笑わないでよ!! 必死に我慢してた僕が馬鹿みたいじゃない…っ」


「笑ってる時点でお前も同罪だろうが! あははははっ!!」


 オレが笑い出したことに触発されて笑い転げているフールに、オレを責められる権利はない。


「……ひ、ひどいです。」


 遠慮なしに笑うオレとフールを見て、ようやく遊ばれたことに気付いたのか、ターニャは顔をほのかに赤くしてうつむいた。


 それでも握ったオレの服を離さないところが、可愛いというかなんというか。


「ごめんごめん。」


 ターニャが年上であることも忘れて、オレはキリハにそうするように彼女の頭をなでた。


「お互い、話しやすい話し方でいこうか。ね?」


 そう言って笑いかけてやると、ターニャはぐっと言葉をつまらせて、次にこくりと頷いた。


「さ、じゃあ切り替えて、今日の授業といきますか。」
「あ、はい!」


 オレがパンと両手を叩くと、ターニャも気持ちを切り替えて剣のつかに手をかけた。

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