竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント6 宮殿見学会

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「……ディア」
「………」


「ディア!」
「………ん?」


 何度も脇腹をつつかれ、オレは心地よい微睡まどろみから現実へと帰る。


「……なんだ、まだ説明会終わってないじゃん。」


 涙目で欠伸あくびを噛み殺すオレに、隣に座っていたフェリオルは苦い顔をした。


「お前さ……国防管理部に来てまで寝るって、すげぇ精神だよな。せっかく入軍試験を受けられるチャンスをもらえてるっていうのに、真剣に話を聞く気がないのかよ。」


「だって、オレは国防軍に入る気ないもん。」


 正直な気持ちを言う。


 実技は並みを超えないように調整しているオレでも、教師志望である以上、筆記試験は手を抜けない。


 それが裏目に出てしまい、今日は筆記試験成績優秀者限定の宮殿見学会に参加することになってしまった。


 強制参加なのが憎い。
 これさえなければ、今頃久々の休みを謳歌おうかできたのに。


 今は国防管理部の会議室で、来年の入軍試験に関する説明を受けているところ。


 心底興味がないので、オレのノートはまっさらだ。
 対するフェリオルのノートは、細かな話のことまでびっしりと書き込まれている。


「じゃあお前、なんのためにここに来たんだよ。」
「だって、強制じゃ仕方ないじゃん。」


「違う違う。それ以前の話。」
「それ以前?」


 聞き返すと、フェリオルはオレのことを理解できないと言わんばかりの目つきで見つめてきた。


「そもそも、なんでこの大学に入ったんだってこと。」
「だから、教師としてより上質な知見を身につけるためだって言ってるじゃん。」


「は…? お前、それ本気だったわけ?」
「本気も何も……オレはこれまで、自分の発言を曲げた記憶はないんだけど。」


 ぎょっとするフェリオルに、オレの方が溜め息をつきたくなった。


 この大学に入ってくる人々は少しばかり頭が固いようで、オレの言葉はいつも純粋な意味で受け取ってもらえない。


 教師志望と偽って皆の目を自分から逸らしておいて、美味しいところを持っていく気なんだ、とか。


 本当は国防軍にいくつものコネを持っていて、入軍が秘密裏に決まっているのだ、とか。


 そういう妙な噂が、まことしやかに囁かれているのだ。


 オレの言葉を最初からそのままの意味としてとらえてくれたのは、この大学に入ってからだとミゲル先輩とジョー先輩くらいか。


 まあ、オレと関わることが増えれば大抵の誤解は解消するし、部活の中じゃ、オレの教師志望は揺るぎようがない共通認識になっている。


 人間、誰にでも理解されるなんて無理な話だ。
 ちゃんと理解して協力してくれる人がいるのだから、オレとしては不満も怒りもない。


 いて不満を挙げるとすれば、こういう世間体に付き合わなきゃいけないことがとにかく面倒なだけだ。


「……ま、オレのことは置いといて。フェリオル、いいのか? オレとくっちゃべってる間に、スライドが三枚くらい進んでたけど。」


 前方の大型モニターを示して指摘してやると、フェリオルはざっと顔を青くした。


「ばっか! 先にそれを言え!」


 フェリオルは前のモニターに顔を向け、また忙しそうにノートを取り始める。


「くそー、油断した。他の奴らがノートを見せてくれるわけないしなぁ……」


 悔しそうなフェリオル。


 実際、筆記試験の成績優秀者として集められたとはいえ、入軍試験ではやはり実技にけている人間の方が有利だ。


 ここにいる人間から国防軍に入れるのは、精々二人といったところだろう。


 ジョー先輩のように、もはや恐怖レベルに至るほど頭脳が秀でていれば話は別だが、あの人はあの人で剣の腕前もずば抜けているので、引き合いに出すのもおかしいか。


 つまるところ、ここにいるのはそれぞれにとって、残り少ない国防軍への切符を奪い合う敵なのである。


 確かにフェリオルの言うとおり、ノートを見せてくれるとは思えない。


(意地悪な言い方をしたかな……)


 ほんのちょっぴり後悔。


「別に、ノートを見せてもらう必要はないと思うぞ? フェリオルが流した部分、これまでの試験成績と軍事成績の相関についてだったし。あれって確か、一般公開されてる情報だっただろ?」


 一応、視界の端に映るモニターの内容は確認しておいたので、どことなく追い詰められた様子のフェリオルに教えてやった。


 オレは別に、性格がひねくれているわけじゃない。
 試験に重要そうな話だったなら、もっと早くフェリオルに指摘していた。
 流しても問題ない内容だと思ったから、あえて何も言わなかっただけである。


「お前なぁ……そんなんだから、未だに教師志望だってことを疑われるんだよ!」
「……はあ?」


 ごめん。
 なんのことを言われているのか、さっぱり分からない。


 そんな気持ちを目だけで訴えると、フェリオルはぐっと唇を噛んだ。


「裏も表もなさそうなのに抜け目ないっていうか、なんていうか……ああもう! 話はあとあと! 今は集中させてくれ。」


 集中させてくれって言うけど、そもそもオレの睡眠を邪魔したのはお前じゃん。


 喉元までその言葉が出かかったが、これ以上フェリオルの大事な時間を奪うわけにもいかず。


 オレは仕方なくまた軽くうつむいて、現実と夢の狭間はざまへと落ちることにしたのだった。

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