567 / 598
【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント6 宮殿見学会
しおりを挟む「……ディア」
「………」
「ディア!」
「………ん?」
何度も脇腹をつつかれ、オレは心地よい微睡みから現実へと帰る。
「……なんだ、まだ説明会終わってないじゃん。」
涙目で欠伸を噛み殺すオレに、隣に座っていたフェリオルは苦い顔をした。
「お前さ……国防管理部に来てまで寝るって、すげぇ精神だよな。せっかく入軍試験を受けられるチャンスをもらえてるっていうのに、真剣に話を聞く気がないのかよ。」
「だって、オレは国防軍に入る気ないもん。」
正直な気持ちを言う。
実技は並みを超えないように調整しているオレでも、教師志望である以上、筆記試験は手を抜けない。
それが裏目に出てしまい、今日は筆記試験成績優秀者限定の宮殿見学会に参加することになってしまった。
強制参加なのが憎い。
これさえなければ、今頃久々の休みを謳歌できたのに。
今は国防管理部の会議室で、来年の入軍試験に関する説明を受けているところ。
心底興味がないので、オレのノートはまっさらだ。
対するフェリオルのノートは、細かな話のことまでびっしりと書き込まれている。
「じゃあお前、なんのためにここに来たんだよ。」
「だって、強制じゃ仕方ないじゃん。」
「違う違う。それ以前の話。」
「それ以前?」
聞き返すと、フェリオルはオレのことを理解できないと言わんばかりの目つきで見つめてきた。
「そもそも、なんでこの大学に入ったんだってこと。」
「だから、教師としてより上質な知見を身につけるためだって言ってるじゃん。」
「は…? お前、それ本気だったわけ?」
「本気も何も……オレはこれまで、自分の発言を曲げた記憶はないんだけど。」
ぎょっとするフェリオルに、オレの方が溜め息をつきたくなった。
この大学に入ってくる人々は少しばかり頭が固いようで、オレの言葉はいつも純粋な意味で受け取ってもらえない。
教師志望と偽って皆の目を自分から逸らしておいて、美味しいところを持っていく気なんだ、とか。
本当は国防軍にいくつものコネを持っていて、入軍が秘密裏に決まっているのだ、とか。
そういう妙な噂が、まことしやかに囁かれているのだ。
オレの言葉を最初からそのままの意味として捉えてくれたのは、この大学に入ってからだとミゲル先輩とジョー先輩くらいか。
まあ、オレと関わることが増えれば大抵の誤解は解消するし、部活の中じゃ、オレの教師志望は揺るぎようがない共通認識になっている。
人間、誰にでも理解されるなんて無理な話だ。
ちゃんと理解して協力してくれる人がいるのだから、オレとしては不満も怒りもない。
強いて不満を挙げるとすれば、こういう世間体に付き合わなきゃいけないことがとにかく面倒なだけだ。
「……ま、オレのことは置いといて。フェリオル、いいのか? オレとくっちゃべってる間に、スライドが三枚くらい進んでたけど。」
前方の大型モニターを示して指摘してやると、フェリオルはざっと顔を青くした。
「ばっか! 先にそれを言え!」
フェリオルは前のモニターに顔を向け、また忙しそうにノートを取り始める。
「くそー、油断した。他の奴らがノートを見せてくれるわけないしなぁ……」
悔しそうなフェリオル。
実際、筆記試験の成績優秀者として集められたとはいえ、入軍試験ではやはり実技に長けている人間の方が有利だ。
ここにいる人間から国防軍に入れるのは、精々二人といったところだろう。
ジョー先輩のように、もはや恐怖レベルに至るほど頭脳が秀でていれば話は別だが、あの人はあの人で剣の腕前もずば抜けているので、引き合いに出すのもおかしいか。
つまるところ、ここにいるのはそれぞれにとって、残り少ない国防軍への切符を奪い合う敵なのである。
確かにフェリオルの言うとおり、ノートを見せてくれるとは思えない。
(意地悪な言い方をしたかな……)
ほんのちょっぴり後悔。
「別に、ノートを見せてもらう必要はないと思うぞ? フェリオルが流した部分、これまでの試験成績と軍事成績の相関についてだったし。あれって確か、一般公開されてる情報だっただろ?」
一応、視界の端に映るモニターの内容は確認しておいたので、どことなく追い詰められた様子のフェリオルに教えてやった。
オレは別に、性格がひねくれているわけじゃない。
試験に重要そうな話だったなら、もっと早くフェリオルに指摘していた。
流しても問題ない内容だと思ったから、あえて何も言わなかっただけである。
「お前なぁ……そんなんだから、未だに教師志望だってことを疑われるんだよ!」
「……はあ?」
ごめん。
なんのことを言われているのか、さっぱり分からない。
そんな気持ちを目だけで訴えると、フェリオルはぐっと唇を噛んだ。
「裏も表もなさそうなのに抜け目ないっていうか、なんていうか……ああもう! 話はあとあと! 今は集中させてくれ。」
集中させてくれって言うけど、そもそもオレの睡眠を邪魔したのはお前じゃん。
喉元までその言葉が出かかったが、これ以上フェリオルの大事な時間を奪うわけにもいかず。
オレは仕方なくまた軽くうつむいて、現実と夢の狭間へと落ちることにしたのだった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる