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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント3 何事ですか!?
しおりを挟む「うっへー……最悪。」
歩き始めて数秒で、オレはめげそうになった。
思っていた以上に足元の環境が悪い。
これは、本気で誰も手入れしていないようだ。
靴紐によく絡んでくる下草に四苦八苦しながら、オレは少しずつ雑木林の中を進む。
これは、素直に正門に回った方が早かったかもしれない。
半ば本気で後悔しそうになった、その時だ。
視界の端で、ゆらゆらと揺れる何かの影を捉えたのは。
「………ん?」
さて。
信じていないとはいえ、そんなものを見ては嫌な汗をかいてしまうのが人間だと思いたい。
無意識にそちらから目を逸らし、オレは先に進むことを忘れてその場で立ち止まる。
オレの中にある可能性は三つ。
その一。
単純に、誰かが雑木林の中にいる可能性。
こんな時間に?
なんのために?
いや、ないない。
その二。
影の正体が野生動物だった可能性。
見た限り、確認できた影は人間ほどの大きさがあったと思う。
熊にしろなんにしろ、あんな大きさの動物がこんな都会にいたら大事件だ。
その三。
実は、噂が真実だった可能性。
……まさかね?
実のところ、単なるオレの見間違いだったという第四の可能性があるのだが、それは悲しくも一番ありえない。
だって、影の見えた方向からガサゴソと物音が聞こえるんだもの。
(くそ……毒を食らわば皿まで!)
こんなにも中途半端でもやもやした気分のまま逃げるのはいただけない。
対処できないものに出くわしたら、その時は全力で逃げればいい。
オレは腹をくくって、物音のする方向へ足を向けた。
あえて大きく物音を立てて、影が見える場所へと近付いていく。
「―――……」
下草を掻き分けて飛び出した先で、オレは絶句した。
そこにいたのは、一人の女性だった。
すらりと細い体。
風にさらりとなびくプラチナブロンドの髪に、どこか神秘的な碧色と赤色のオッドアイ。
そして……その両手には、一本の剣。
(―――何事ですか!?)
オレは心の中だけで、全力で叫んでいた。
何も言えずに立ち尽くしているオレだが、頭の中は大パニックだ。
正直、生身の人間でよかったとか、そんなことはもうどうでもいい。
何が!
どうなれば!
この国で一番偉い人が、真夜中に剣を持って徘徊する場面に居合わせるんですか!?
ある意味、幽霊を見るよりも怖い光景。
夢に出そう。
ぱちくりと瞼を叩くオレに、この国の神官ことターニャ・アエリアルは仄かに頬を赤らめた。
「…………見ましたね?」
いやいやいやいや!
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「あなた、ここの学生さんですか?」
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「そうですか。このことは、他言無用でお願いしますね。」
いや、誰かに言ったところで、絶対に信じてもらえないと思いますよ?
正気を疑われるのはオレの方です。
百パーセント。
神に誓って。
ターニャはくるりとオレに背を向けると、両手の剣をかなり危ない体勢で構えた。
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ようやく言葉にできたのは、それだけだった。
オレなんかが気安く声をかけていいようなお方ではないと十分に承知してますけど、こんなもの見せられたら、事情くらい知りたくなるわけで。
無視されることを覚悟していたが、意外にも彼女はオレの質問に答えてくれた。
「剣の練習をしているのです。宮殿じゃ誰も教えてはくれませんし、そもそも剣を握ることさえ止められてしまいますから。」
そりゃあね。
一国の長ともなれば、守ってくれる人はたくさんいるって。
わざわざ自分も猛者になる必要はないし、そもそもあなたは女性なんだから、守ってもらうことに甘んじてもいいと思いますよ?
ああ、突っ込みたい。
突っ込みどころがありすぎる。
でも。
でも…っ
はらはらとしていたオレの精神は、剣の重さに負けてよろめいたターニャの姿を見た瞬間に限界を超えてしまった。
「―――ああ、もう!!」
オレはとっさに駆け出し、よろけたターニャの体を後ろから支えて、自分の方へと引き寄せていた。
「ちゃんと踏ん張って! 脇をしっかり締めなきゃ!」
「は、はい……」
「大体、なんでこんな重たいやつを持ってきたの!?」
「これしかなくて……」
「だめだって! ちゃんと体格に合ったやつを使わないと怪我するから! これじゃあ、剣に振り回されるだけになるでしょ!?」
「す、すみません……」
「ああ、もういいや! 今日は仕方ないから、とりあえず基本の構えからやろう。剣を大きく振り回すのは、危ないからなし!! 分かった!?」
「……はい、分かりました。」
「じゃあ……」
オレは戸惑ったような表情のターニャから剣をさっと取り上げ、彼女の背中に手を添えた。
「んー…。姿勢はすごく綺麗だから、ちょっと慣れれば、基本はすぐにマスターできそうだね。まずは足を肩幅に開いて、まっすぐ立ってみて。それから……」
オレの指示に、ターニャは文句の一つも言わずに従った。
そして、彼女があんまりにも素直にオレの言うとおりに動くものだから、オレも普通に剣の指南を始めてしまっていたんです……
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