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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント1 何故か、部長やってます。
しおりを挟む「おーい、しっかりしろー。」
「ふみまへーん……」
オレの肩に寄りかかり、剣術指南研究部の後輩は呂律の回っていない口調でそう謝ってきた。
「えへへー…。部長と話をするのが楽しくてー。ついつい飲みすぎちゃいましたぁ。」
「はいはい、ありがとな。」
「それにー、剣術指南研究部がこんなに楽しいとも思ってなくてー。剣を教えるって考えたこともなかったけど、それもいいなーなんて思ったんですよねー。」
「うんうん。」
上機嫌でひたすらに話しまくる後輩の声を耳半分で聞き流しながら、オレは静まり返った夜の道を歩く。
根暗集団だと有名だった剣術指南研究部は、今やオレのせいで全く正反対の部活になりつつある。
一年生の頃は比較的大人しくしていたが、二年生に上がってから遠慮することをやめた結果、部活の方針をガラリと変えてしまったのだ。
剣術指南と名付けているのに、映像ばかりと睨み合って何になるのか。
ミゲル先輩のその意見にはオレも心底同感で、常日頃から機会を窺ってきた。
そして、剣術指南研究部に入った同級生がいなかったこともあり、進級と同時に半ば強制的に部活の運営に携わることになったオレは、それをきっかけに勝手に動くことを決めた。
部長たちに部活の名前を使う許可をもらい、周辺の小中学校へとアポイントを取って、ちょっとした剣術指南の教室を企画したのだ。
初めての試みだしどうなることかと思ったが、国立の軍事大学の名前は伊達じゃなく、二つ返事で了承された。
先輩や後輩には奇異の目を向けられたが、教師志望のオレが個人的にやりたかっただけなので、特に参加を強制はせずに一人で会場へと向かった。
結果は、自分で言うのもなんだが大成功。
その日の内に、校長から定期的な教室の開催を求められたくらいだ。
評判はいつの間にか口コミで広がっていき、気付いた頃には、オレの土日のスケジュールは朝から夕方までパンパンという事態に陥っていた。
やっぱり他人に剣を教えるのは楽しかったので、それでテンションが上がっちゃって、ほいほいと依頼に頷くからこうなる。
そして回数を重ねていくごとに、他の部員もちらほらと剣術教室に参加するようになった。
果てには、部費の増額を狙った部長が、ちゃっかりと活動成果として剣術教室のことを報告書に書いてしまったのだからさあ大変。
オレが自己満足のためにしていた活動は、剣術指南研究部のメインとなったのである。
そんな剣術教室だが、活動を始めたのがオレだったのでそのまま窓口の役を担っていたら、今年になって部長の任を押しつけられるという予想外の展開になってしまった。
先輩たちは今頃、暢気に隠居中といったところだ。
部長のオレがこんなんなもんで、部活に集まる人間の種類も大きく変わり、今年の新入生は気さくで明るい人間ばかりだ。
雰囲気の変化についていけずに辞めていく部員もいるかと思ったが、意外と今の雰囲気も居心地がいいのか、誰も辞めることなく部活動に参加してくれている。
まあ実際には、オレが剣との向き合い方や、剣を教える楽しさをそれとなく教えたんですけどね。
剣を教えるといっても子供相手なので、周囲と比べられて劣等感を抱く必要がないというのも、純粋に剣を楽しめる要因なのかもしれない。
「あ…。あのマンションれすー。」
角を曲がった先で、後輩が前方に見える茶色いマンションを指す。
かなり大きなマンションだ。
これは、親がそこそこの金持ちだと見える。
「部屋まで一人で……行けるわけないね。」
完全にオレに体重をかけている後輩は、一人で歩ける気配が全くない。
今だって、オレが半ば引きずっている状態だ。
仕方なく、オレは後輩を引きずったままマンションへと入り、彼の部屋があるという八階へと向かった。
「よっと。」
柔らかそうなベッドに後輩を放り込み、オレはやっと一息をつく。
まったく。
はしゃぎすぎるからこうなるのだ。
この後輩以外も、今日の飲み会に参加した奴らの多くがまともに歩けないほど酔い潰れていた。
ほとんどが学校の寮住まいなので、比較的酔っていない先輩に保護者役を頼んでまとめてタクシーに突っ込んだが、彼だけは学外暮らしということで、こうして送り届けに来たのだ。
「部長、すみまへん。もしよかったら、このまま泊まってってくらさい。」
「いや、明日もあるし帰るよ。ありがとな。」
「でも、もう遅いれふよー?」
現在の時刻は、午前二時。
確かに電車もバスも動いていない時間だが、大学の寮までは十分徒歩圏内だ。
「大丈夫。酔い覚ましがてら、歩いて帰るよ。」
オレは答えながら、帰り道で買っておいたミネラルウォーターのペットボトルを後輩の枕元に置いた。
「しんどかったら、これを飲めよ……って、もう寝てる。」
すでに深い寝息を立てている後輩に、オレは苦笑する。
さて、と。
責任を持ってきちんと家まで送り届けたことだし、オレも帰りますか。
マンションの入り口も部屋の入り口もオートロックだったし、鍵の心配も必要ないだろう。
そう判断したオレはすぐにマンションを後にし、夜風に当たりながらのんびりと家路についたのだった。
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