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【番外編2】嵐との出会い
第17の嵐 事件における考察
しおりを挟む「……ったく。楽観主義も、あそこまで行くと病気だな。」
あれから数日後、おれはようやく時間の都合が合ったジョーと共に駅近くの居酒屋にいた。
一介の学生が特例でドラゴン殲滅部隊の隊長に就任したという話は、国防軍内を驚異的なスピードで駆け抜けていた。
その事実は人々の間を右往左往する中で様々な背鰭や尾鰭がくっつき、今では吐き気すらするような妄想話に育ってしまっている。
ディアラントが主な活動拠点とするのは、国防軍が仕切る国防管理部ではなく、神官が直接管理する宮殿本部。
だが、拠点が違うとはいえ、しばらくはどんな誹謗中傷を受けることか。
その現状を分かっていてもなお、ディアラントはへらへらとした笑顔で「なんとかなりますよー」などとほざいていた。
その屈強な精神に脱帽している反面、やっぱりこいつはただの馬鹿なんじゃないかとも思ってしまう。
「本当に、ディアラント君らしいというかなんというか…。ここまで楽観的ってことは、大会五連覇を達成する気満々なんだね。」
居酒屋に入ってからひたすらに酒を呷って一人ごちるおれに対し、ちびちびと酒を飲んでいたジョーが苦笑する。
「あいつなら、余裕で勝ち抜けるだろうよ。おれだって、五分も繋げなかったからな。……で、その後どうなんだ?」
鋭い目でジョーに訊ねる。
元々今日こうして外に出てきているのも、大きな目的はこれだ。
「それが、できるだけの手は尽くしたんだけどねぇ……」
ジョーは大きく息をつく。
「軍とディアラント君の間に何があったのかは、トップシークレットみたい。僕の情報網を使い尽くしても、なんにも情報が引っかからないんだよ。ここまで綺麗に何も出ないと、逆に不自然。どうやら、ディアラント君の処遇にあの人たちが一枚噛んでるって情報は、ただのデマってわけではなさそうだ。」
おれはジョーの報告を聞き、じっと考えにふける。
確かに、国防軍総督部ならどんな情報をも遮断できるだろう。
ジョーの情報網を持ってしても、何一つとして手がかりが得られないという事実。
だが逆に、手がかりが得られないからこそ浮き出る情報もある。
「つーことは、ディアラントとの話が少しでも漏れると、向こうにとって都合が悪いってことだな。」
おれの呟きに、ジョーが大きく頷いた。
「そうだね。周囲の目を欺くには、多少なり本当の情報も流す必要がある。それすらもしないってことは、一部でも情報を掴まれると、向こうの地位や名誉さえも危ういのかもしれない。はめられたって線が濃厚色になってきたね。」
「ディアラントも否定はしなかったし、そこはもう断定して構わねぇだろうな。多分、おれたちみたいに疑う奴が出ることは想定済みのはず……」
「だから牽制として、今後ドラゴン殲滅部隊に所属する人に連帯責任を課したってところかな。」
「……妙だな。」
おれは率直に思ったことを口にした。
「わざわざそんな牽制をしなくたって、大会で五連覇できなきゃ、ディアラントは宮殿を出ていくしかないんだろ? 奴らは、ディアラントの腕を知ってんのか…?」
「それなら、ディアラント君に大会五連覇なんて条件を出さないと思うよ。圧倒的にディアラント君に有利じゃない。」
ジョーが唱えたのは否。
「あの人たちは、ディアラント君の実力を知らない。ただの学生だからって見くびって、調査を怠ったのか……もしくは僕の時みたいに、ディアラント君の関係者が口を堅く閉ざしているのか。もし後者なんだとしたら、あの人たちが恐れているのはそういったことなのかもしれないね。」
「そういったこと?」
問い返すと、ジョーの顔が真剣さを増す。
「ディアラント君の、他人を惹きつけて絶対に裏切らない味方にするほどの影響力。あの人たちは、それを恐れてるんじゃないかな。そうじゃなきゃ、ここまでの牽制に説明がつかないよ。具体的に何があったのかはさておき、今のディアラント君とあの人たちは対極にいる。で、あの人たちはディアラント君を排除すべきだと思うくらい、ディアラント君のことを危険視してる。」
「でも、だったらさっさと退学にしちまえば話は早ぇんじゃねえのか?」
腑に落ちないのはそこだ。
仮に、総督部がディアラントのことを危険視しているとしよう。
しかし、それならば単純に大学から追い出してしまえばいいだけじゃないか。
明確な規定はないものの、国防軍に入るには国立大学卒業がほぼ必須。
卒業資格を剥奪されて宮殿に介入する方法を絶たれてしまえば、いくらディアラントといえど、総督部に対抗する手段などない。
それなのに、総督部は卒業資格を剥奪するどころか、逆にその資格を与えた。
しかも、左遷部隊とはいえ軍に所属することを許している。
この矛盾は、一体なんなのだろう。
「―――考えられる可能性としては……」
ジョーが眉根を寄せて呟く。
「宮殿内に、ディアラント君に味方する人物がいる。しかも、あの人たちが譲歩案を飲み込まざるを得ないくらいの権力を持った人物が。」
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