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【番外編2】嵐との出会い
第13の嵐 再びの波乱
しおりを挟む〝本当は、剣が好きでしょう?〟
ディアラントの言葉は、おれの中にしつこくこびりついた。
事あるごとにおれの胸を圧迫し、得も言われぬ不快感で全身を縛り上げた。
剣が好き?
そんなはずない。
おれが剣で評価されていなければ、お袋がこんなに重たい期待を押しつけてくることはなかったんだ。
ここまでひたすらに上を目指す必要もなく、もっと好き勝手に、もっと気楽に生きられていたはずじゃないか。
おれは、好きでこの立場にいるわけじゃない。
でも、これまで呪いのような期待を背負ってきたせいで、おれはおれ自身が何を望んでいるのかも分からなくなってしまった。
ここから解放されたいと思うには、もう疲れ切ってしまっていた。
だから、おれはこれから、つまらないが安定した人生を送っていくしかないんだって。
そう思っていた。
そう思っていたかった。
それなのに……
ディアラントがおれの中に蒔いていった嵐の種は、確実に胸の片隅に存在し続けた。
このまま何も感じなくなって、いずれは凍りつくはずだったおれの心を、まだその時ではないだろうと言わんばかりに煽った。
その感覚は、不快以外の何物でもない。
そんな不快を抱え、それでも自分の気持ちを理解できないまま―――おれは、大学を卒業した。
配属先は案の定、第三特級部隊。
まあ、毎年五人も入れないような部隊に迎え入れられたのだから、十分出世の道を辿っていると言えよう。
軍務といっても、大学時代以上の厳しい訓練があるというわけでもなく、割と暇なまま一日を終える。
そんな毎日は予想していたとおり、つまらなくも安定していた。
会う機会はぐっと減ったものの、ディアラントとはあれ以降も顔を合わせている。
ディアラントは、あの日のことには触れてこない。
おれもそれをいいことに、あの日の出来事に蓋をしたまま、ディアラントとの交流を続けていた。
そんなディアラントとの間に再び波乱が訪れたのは、かれこれ二年ばかりが経った頃。
ディアラントが大学三年生になった初夏のことだった。
「ミゲル! ミゲル、いるんでしょ!?」
……誰だ。
こっちは夜勤明けだというのに、インターホンを鳴らしながら遠慮なしにドアを叩いてくる馬鹿野郎は。
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時間はちょうど正午。
床に入ってから、まだ三時間ほどしか経っていないじゃないか。
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いつまで経っても、インターホンとドアを連打する音がやまない。
「うるっせえ!」
結局、おれの堪忍袋の緒が切れる方が早かった。
おれは毛布を蹴飛ばし、大股で廊下を突っ切って玄関に向かう。
「誰だ、非常識な奴―――わっ!?」
ドアを開けた瞬間に部屋の中に押し込まれ、まだ半分寝ぼけていた状態のおれは、大きくよろけて尻餅をつくはめになった。
「あ……ごめん。」
おれを突き飛ばした犯人であるジョーは、目をぱちくりとしばたたかせる。
代表委員の副委員長を務め上げたジョーは、今は国防軍参謀局第一部隊に所属している。
国防軍の中でも、頭脳派が集まる部隊だ。
ジョーは入隊と同時にそのずる賢さと人脈を大いに発揮し、二年経った今では、こいつに頭が上がらない上司も多いともっぱらの噂である。
「ジョー……てめぇ、覚悟はできてんだろうな?」
「ごめんって。でも、それどころじゃないんだよ!!」
そのあまりの慌てぶりに、無理に起こされたおれの怒りは少しばかり収まる。
「……はぁ。」
一つ溜め息をついたおれは、殴るのはやめてやることにする。
「なんだよ。お前がそこまで慌てるなんて、夏なのに吹雪でも起こってんのか?」
「それと似たようなもんだよ。」
気だるげなおれに向かって、ジョーは携帯電話の画面を突き付けてくる。
「一時間くらい前に、急にドラゴン殲滅部隊の解散が発表されたんだ。」
「おう。だから?」
「もう! この辞令をよく見て!!」
ジョーに半ば叩きつける勢いで携帯電話を渡され、おれは渋々とその画面に目を落とす。
人混みに揉まれながらなんとか撮影したのか、写真はひどくぶれていた。
目を凝らすと、掲示板に張り出された白い紙に短く記された文字がなんとか読める。
「えー、なになに……国防軍特別法第六十二条第一項に基づき、下記の者に国立軍事大学の卒業資格を授与……同法の規定により、ドラゴン殲滅部隊隊長への就任を命じる!?」
眠気も何もかも吹っ飛んでしまった。
唐突に貼り出されたという辞令。
そこに記されていた名前は―――
「ディアラントの奴……何やりやがったんだ…?」
激しい動揺を表すように、携帯電話を握る手が震えていた。
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