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【番外編2】嵐との出会い
第3の嵐 とある新入生
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声に誘われて、おれはそちらに目を向ける。
賑やかな声は次第に大きくなり、ざっと十人以上はいる集団が通り過ぎていった。
「ひいっ…」
それを見たアイロスが、引き潰された蛙のような声をあげる。
元々あの集団が何かは確認する気だったのだが、そんな反応されてはさらに興味が湧くではないか。
おれは小走りで渡り廊下を駆け、研究専攻棟の廊下を進んでいく集団の様子を遠目に確認した。
あれは確か、剣術指南研究部の奴らか。
どうやら、過去の授業風景や大会の映像記録を運んでいるところらしい。
(あいつらって、あんなに騒がしい連中だったっけな……)
疑問というか違和感。
おれの知っている剣術指南研究部はもっと静かで、根暗感漂う部活だったと思うが。
「ん…?」
しげしげと彼らを観察していたおれは、ふいにあることに気付く。
彼らの中心に、見慣れない奴が一人いたのだ。
よくよく見れば、会話は彼を中心に繰り広げられており、彼の言葉一つで集団の空気がころころと変わっていくのである。
「あの新入生、随分と人気者だな。」
四年生ともなれば、大学にいるほとんどの人間の顔は知っている。
そんなおれでも見慣れないということは、彼は新入生なのだろう。
おれは特にそれ以上の思考には及ばず、ジョーたちの元へ戻ることにした。
するとそこで待っていたのは、顔を真っ青にするアイロスと、したり顔をするジョーの姿。
「ふふ、やっぱりね~。」
ジョーは上機嫌でアイロスを見やる。
「あの子、君の後輩だよね。アイロス君?」
「は、ははは……」
アイロスはジョーの視線から逃げるように、そろそろと視線を逸らした。
「ディアラント君、十八才。ナイトリン公立剣術専門高等学校卒業。入試方法は一般入試、成績順位は三十八位。高校時代の成績も、まあ上の下って感じ?」
書類の束の中から一枚の紙を取り出し、ジョーはするするとあの新入生の情報をしゃべる。
すると、アイロスが大きく目を見開いてジョーへと視線を戻した。
「えっ!?」
「ん? なあに?」
ジョーはにっこりと笑う。
「い、いえ……」
アイロスは途端に口を閉ざした。
どうやら、これ以上は墓穴を掘らないように無言を貫く手段に切り替えたらしい。
だが甘い。
本気を出したジョーに、口と頭で敵う奴などいないのだ。
「大学からの新入生調査依頼は、特待生と推薦生各十名と、一般入試成績上位三十名。確かに、あの子は調査対象外だよ。」
「………」
「でも、委員会への推薦対象にそんな枠があるなんて、どこの規則にも書いてないんだけどなぁ~?」
「………っ」
「新入生調査が始まってから、アイロス君が時々怪しい行動を取ってたから、それとなーく観察してたんだよね。」
そうだっただろうか…?
おれは記憶を手繰り寄せてみる。
しかし、覚えている限りのアイロスに、特に変なところはなかった。
「ふふ。僕を見くびってもらっちゃ困るなぁ。」
おれの心の声でも聞き取ったのだろう。
ジョーが肩をすくめて笑い、次にひたすらに口を結んでいるアイロスに詰め寄っていった。
「どうやら僕たちの研究専攻に対する動きに敏感だったみたいだから、ちょっと調べさせてもらっちゃった。そしたらなんか、面白そうな子がいるじゃないの。ちょっと鎌かけてみただけなんだけど、僕の勘はビンゴって感じかな?」
「………」
おれは目の前の光景に、目をしばたたかせた。
あのアイロスが、ここまで頑なに口を割ろうとしないとは。
それほどまでに後輩が可愛いのか、はたまた彼に弱みでも握られているのか。
そしてジョーよ。
お前のその追い詰め方は君子じゃなくて、もはや魔女とかの類いに入るぞ。
冷や汗を浮かべ始めるアイロスに、ジョーは最終宣告とも取れる言葉を吹き込む。
「まだ言わせる?」
次の瞬間、ジョーの声のトーンがぐっと下がった。
「―――この子の入試、何か裏があるでしょ? 調べればすぐに分かるよ。大学に正式な申請を通して、あの子の高校時代の成績を事細かに全部提出させようか?」
「―――っ!! す、すみません!!」
とうとう折れた。
血相を変えて頭を下げてきたアイロスに、おれもジョーも向ける視線は冷ややかなものだった。
コネを使って成績を偽り入学してくるというのは、たまにある話だ。
「先輩方、どうか……どうか、お願いします…っ」
微かに震えているアイロス。
彼が怯えるのも、もっともである。
不正を働いて入学したのがばれたら即刻退学だし、それに加担した人間にもそれ相応の処罰が下される。
下手すれば、仲良く退学だ。
しかし、いくらアイロスの性格を知っているとはいえ、見過ごせることと見過ごせないことがある。
無理なものは無理だ。
おれは個人としてではなく、委員長としての言葉を叩きつけるつもりで口を開きかけたのだが……
「どうか……ディアを代表委員に推薦しないでください! あいつが目立つのは、あいつのためにならないんですよーっ!!」
「いくらなんでも無理………んあぁ?」
予想の斜め四十五度を突き抜けていったアイロスの言葉についていけず、おれは危うくこけるところだった。
「……あれ?」
ジョーも目を点にして固まる。
これが、おれがディアラントという人間を知るきっかけだった。
賑やかな声は次第に大きくなり、ざっと十人以上はいる集団が通り過ぎていった。
「ひいっ…」
それを見たアイロスが、引き潰された蛙のような声をあげる。
元々あの集団が何かは確認する気だったのだが、そんな反応されてはさらに興味が湧くではないか。
おれは小走りで渡り廊下を駆け、研究専攻棟の廊下を進んでいく集団の様子を遠目に確認した。
あれは確か、剣術指南研究部の奴らか。
どうやら、過去の授業風景や大会の映像記録を運んでいるところらしい。
(あいつらって、あんなに騒がしい連中だったっけな……)
疑問というか違和感。
おれの知っている剣術指南研究部はもっと静かで、根暗感漂う部活だったと思うが。
「ん…?」
しげしげと彼らを観察していたおれは、ふいにあることに気付く。
彼らの中心に、見慣れない奴が一人いたのだ。
よくよく見れば、会話は彼を中心に繰り広げられており、彼の言葉一つで集団の空気がころころと変わっていくのである。
「あの新入生、随分と人気者だな。」
四年生ともなれば、大学にいるほとんどの人間の顔は知っている。
そんなおれでも見慣れないということは、彼は新入生なのだろう。
おれは特にそれ以上の思考には及ばず、ジョーたちの元へ戻ることにした。
するとそこで待っていたのは、顔を真っ青にするアイロスと、したり顔をするジョーの姿。
「ふふ、やっぱりね~。」
ジョーは上機嫌でアイロスを見やる。
「あの子、君の後輩だよね。アイロス君?」
「は、ははは……」
アイロスはジョーの視線から逃げるように、そろそろと視線を逸らした。
「ディアラント君、十八才。ナイトリン公立剣術専門高等学校卒業。入試方法は一般入試、成績順位は三十八位。高校時代の成績も、まあ上の下って感じ?」
書類の束の中から一枚の紙を取り出し、ジョーはするするとあの新入生の情報をしゃべる。
すると、アイロスが大きく目を見開いてジョーへと視線を戻した。
「えっ!?」
「ん? なあに?」
ジョーはにっこりと笑う。
「い、いえ……」
アイロスは途端に口を閉ざした。
どうやら、これ以上は墓穴を掘らないように無言を貫く手段に切り替えたらしい。
だが甘い。
本気を出したジョーに、口と頭で敵う奴などいないのだ。
「大学からの新入生調査依頼は、特待生と推薦生各十名と、一般入試成績上位三十名。確かに、あの子は調査対象外だよ。」
「………」
「でも、委員会への推薦対象にそんな枠があるなんて、どこの規則にも書いてないんだけどなぁ~?」
「………っ」
「新入生調査が始まってから、アイロス君が時々怪しい行動を取ってたから、それとなーく観察してたんだよね。」
そうだっただろうか…?
おれは記憶を手繰り寄せてみる。
しかし、覚えている限りのアイロスに、特に変なところはなかった。
「ふふ。僕を見くびってもらっちゃ困るなぁ。」
おれの心の声でも聞き取ったのだろう。
ジョーが肩をすくめて笑い、次にひたすらに口を結んでいるアイロスに詰め寄っていった。
「どうやら僕たちの研究専攻に対する動きに敏感だったみたいだから、ちょっと調べさせてもらっちゃった。そしたらなんか、面白そうな子がいるじゃないの。ちょっと鎌かけてみただけなんだけど、僕の勘はビンゴって感じかな?」
「………」
おれは目の前の光景に、目をしばたたかせた。
あのアイロスが、ここまで頑なに口を割ろうとしないとは。
それほどまでに後輩が可愛いのか、はたまた彼に弱みでも握られているのか。
そしてジョーよ。
お前のその追い詰め方は君子じゃなくて、もはや魔女とかの類いに入るぞ。
冷や汗を浮かべ始めるアイロスに、ジョーは最終宣告とも取れる言葉を吹き込む。
「まだ言わせる?」
次の瞬間、ジョーの声のトーンがぐっと下がった。
「―――この子の入試、何か裏があるでしょ? 調べればすぐに分かるよ。大学に正式な申請を通して、あの子の高校時代の成績を事細かに全部提出させようか?」
「―――っ!! す、すみません!!」
とうとう折れた。
血相を変えて頭を下げてきたアイロスに、おれもジョーも向ける視線は冷ややかなものだった。
コネを使って成績を偽り入学してくるというのは、たまにある話だ。
「先輩方、どうか……どうか、お願いします…っ」
微かに震えているアイロス。
彼が怯えるのも、もっともである。
不正を働いて入学したのがばれたら即刻退学だし、それに加担した人間にもそれ相応の処罰が下される。
下手すれば、仲良く退学だ。
しかし、いくらアイロスの性格を知っているとはいえ、見過ごせることと見過ごせないことがある。
無理なものは無理だ。
おれは個人としてではなく、委員長としての言葉を叩きつけるつもりで口を開きかけたのだが……
「どうか……ディアを代表委員に推薦しないでください! あいつが目立つのは、あいつのためにならないんですよーっ!!」
「いくらなんでも無理………んあぁ?」
予想の斜め四十五度を突き抜けていったアイロスの言葉についていけず、おれは危うくこけるところだった。
「……あれ?」
ジョーも目を点にして固まる。
これが、おれがディアラントという人間を知るきっかけだった。
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