竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
532 / 598
【番外編1】ディアとカレンのイタズラ計画

イタズラ決行!

しおりを挟む
 それから一時間後。


「およ?」


 ルカやサーシャと共にカフェテリアに入ったキリハは、そこにあった光景に目をまたたいた。


 そこにいたのは、ディアラントとカレンの二人。
 珍しい組み合わせだ。


 椅子に座ってうつむいてるカレンの前で、ディアラントは何やら焦ったような、困ったような様子。


 一体何があったのだろう。
 キリハたちは互いに顔を見合わせながら、彼らに近付いた。


「おはよー。」
「おお、キリハ! いいところに!!」


 こちらに気付いたディライトが、パッと表情を明るくする。
 キリハはこてんと首を傾げた。


「どうしたの?」
「それが……」


 ディアラントの視線がカレンに移る。


「カレンちゃんがさっき、そこのサッシにつまずいて盛大に転んじゃってさ。その時に足をひねったっぽくて、動けないみたいなんだよ。」


「え…? カレン、大丈夫!?」


 目を大きくしたキリハは、大慌てでカレンの前に膝をついた。


「つー…。思いっきりやっちゃったっぽい……」


 顔を歪めるカレンの表情を見て、キリハは少し肩の力を抜く。


「よかった…。泣いてたわけじゃなかったんだね。」


「こんなんで泣かないわよ。大勢の前でかっこ悪いとこを見せちゃって、恥ずかしくて死にそうなだけで……」


「ああ…」


 周囲を見回し、キリハは納得。


 皆が朝食を取りに来るこの時間帯だ。
 カフェテリアは、多くの人で混み合っている。


 この中で転んだら、自分も少し恥ずかしいかもしれない。


「キリハ。悪いんだけど、カレンちゃんを医務室に連れてってくれるか? オレ、もう会議に行かなきゃいけなくて……」


「いいよいいよ。」


 ちらちらと腕時計を確認しながら頼んでくるディアラントに、キリハは二つ返事でそれを了承した。


 そして、すぐにカレンへと視線を戻す。


「カレン、立てる? おんぶする?」
「おんぶまでは…。ちょっと、支えてもらっていい?」
「もちろん。」


 立ち上がろうとしたカレンを支え、キリハは彼女のスピードに合わせて自分も立ち上がる。


「いった…っ」


 やっぱり、無理があったようだ。
 一歩踏み出そうとしたカレンは、ふらりとバランスを崩してしまった。


「危ない! ほんとに大丈夫?」
「ううぅー…っ」


 キリハの腕にしがみつき、カレンは身を固くしてうめく。
 相当痛いみたいだ。


 キリハは、気遣わしげにカレンの肩を叩いた。


「焦んなくていいよ。痛いもんね。やっぱり、おんぶしよっか?」
「そこは本当に大丈夫。あの……もうちょっともたれてもいい?」
「全然いいよ。がっつりもたれかかって。」


 そう言うと、カレンは素直に身を寄せてきた。


「ありがとう。ほんとにごめんね?」


 潤んだ瞳をして、間近からキリハを見上げるカレン。


 互いの体が密着すると同時に―――その豊満な胸が、キリハの腕に強く押しつけられる。


「なっ…!?」
「カ、カレンちゃん…っ」


 それに反応したのは、ルカとサーシャの二人。
 顔を赤らめる二人は、当然カレンの行為が色んな意味で際どいことに気付いている。


 しかし、当のキリハはというと……


「大丈夫だよ。医務室まで頑張ろうね。あと、今日は任務を休んだ方がよくない? 後でターニャに言っとくから、手当てしたら部屋まで送るね。」


 心配百パーセント。
 この状況の美味しさに、微塵みじんも気付いていないようであった。


「―――ちっ。つまらん。」


 さりげなく視線を逸らし、カレンは低く毒づく。


 それを見るディアラントも、なんとも言えない顔で空笑いを浮かべるしかなかった。


 やっぱりだめでしたか。


 最強の女の武器が効かないとは、この子は煩悩というものをどこに置き忘れてきたのだろう。


 実のところ、ちょっとくらいキリハを狼狽うろたえさせる自信があったカレンは、悔しいやら面白くないやらでふてくされる。


 ディアラントは、ますます複雑な顔へ。


 とにもかくにも、イタズラは失敗ということで。
 さっくりとネタバラシでもしようと思った、その時。


「おい。」


 ルカがキリハの肩を掴んだ。


「代わる。」


 ルカは、剣呑な声音でぶっきらぼうにそう告げる。


「へ?」
「いいから。カレン、こっちに来い。」


 きょとんとするキリハは放置で、ルカはカレンに手を差し出した。


 彼がこんな行動に出るのも仕方あるまい。


 なんたって、好きな女の子が他の男に誤解を与えかねない行為をしているのだから。


「………♪」


 ルカを見つめるカレンが、鋭く目を光らせた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

処理中です...