竜焔の騎士

時雨青葉

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第8章 それぞれが歩んだ道

パーティーの始まり……からの大混乱

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 年に一度の慰安パーティーとはいっても、招かれるのはドラゴン殲滅部隊や竜騎士隊をはじめ、気心の知れたメンバー。


 形式ばったのは最初の挨拶だけで、後は好きなように話して飲んで、好きなタイミングで帰っていく、気軽な飲み会のようなものだ。


「皆さん、お元気そうで何よりです。今年も無事、このパーティーを迎えることができて嬉しく思います。」


 マイクを持ってステージに立ったターニャの言葉から、パーティーは始まった。


「今年は特に、私が長期的に休みを取ることになり、宮殿に残った皆さんにはたくさんのご迷惑をおかけしました。また、宮殿を去った皆さんも、外部から多大なご支援をしてくださり、本当に感謝しております。今も大統領としてこの国を治め続けていられる私を作ったのは、間違いなくこの場にいる皆さんです。」


 相変わらず、一言一言を真摯しんしに紡ぐ人だ。


 ステージのターニャを見つめる皆は、とても穏やかな表情。
 そこには、長い時間で培われてきた揺るぎない信頼感があった。


「今日は年に一度の小休止です。心ばかりではありますが、美味おいしいものをご用意したので、料理とお話を楽しんでください。そして今年は、ルルア大統領のノア様もゲストとしてお越しくださいました。」


「やあ、諸君! 私がセレニアに訪れるのは、友好同盟締結の時以来だな!!」


 ターニャからマイクを受け取ったノアは、いつもと変わらず、底抜けに明るい声で皆に声をかけた。


「ターニャをはじめ、セレニアを変えていかんとする皆の活躍は、私の耳にも届いている。このような国と友になれたことは、私の大統領人生の中でも一番の成果と言えよう。ついてはだな……」


 話しているうちに気分がよくなってきたのか、ノアの声の調子が上がって早口に。


「友好同盟の証として、セレニアにもドラゴン研究所を作ってから三年が経つのだ。ここは次なる一手として、互いの国に姉妹都市を制定しようと思っている。交換留学をはじめ、社会人の交換雇用なんかも想定しているところだ。これにより公・民・学の連携がより強固なものとなり、我々二国の未来は―――」


「ノア様、ノア様。」


 完全に演説モードのノアに、ターニャが狼狽うろたえながら待ったをかける。


「お話が長くなっています。しかも、それはまだ議案をまとめている最中で、情報解禁はさらに先のお話です!」


「うむ? ここにはお前が信頼している者しかおらぬだろう? 守秘義務は察してくれるはずだ。」


「そういうお話ではありません! ここには、今はもう民間人の方もいるのですよ!? とんでもない情報漏洩です!! 挨拶はもういいですから、ノアもおくつろぎになってください!!」


 珍しく大慌てのターニャ。
 これ以上機密事項を漏らされたらたまらないと、即座にノアからマイクをぶんどっていく。


 ノアもノアで相変わらず。
 会場の皆は小さく笑いながら、今聞いたことを胸にしまうのだった。


「では皆さん、グラスをお持ちください。乾杯!!」


 例年に比べると、かなり雑な乾杯。
 ターニャの焦りは察しているところなので、皆は何も言わずにグラスを掲げた。


 それで自由時間となった人々は、別テーブルに並べられた料理や飲み物を取りに行こうと席を立ち始める。


 まさにその時。


「ちょっと待ったぁ!!」


 ステージのノアが大声を張り上げた。


「諸君、一瞬でいいから動かないでくれ! 私が目的地に辿り着くまでの間で構わん!!」


 状況についていけないまま固まる皆を後目しりめに、ノアはステージから大ジャンプ。
 まだ人でごった返していないテーブルの間を、猪突猛進の勢いで駆け抜けていく。


「来るよ、いつものやつ。」
「うん。まあ、ノアにしてはよく耐えたんじゃない?」


 シアノが言い、キリハが静かに同意。
 続けて二人は「避難しておいてよかった…」と呟いて、のんびりと飲み物をすする。


 ノアはとある場所を目指して猛ダッシュ。
 皆が目を白黒とさせる中、一番後ろのテーブルで席を立って、彼女の前に進み出る人物がいた。


 パアッと表情を輝かせた彼女は、こらえきれずに彼の前で思い切り跳躍。
 彼は当然のようにそれを受け止め、軽々と抱き上げた彼女ごとくるりとターン。


 そして二人は、ドラマの熱愛シーン顔負けの濃厚な口づけを交わす。


「でえええぇぇぇっ!?」


 唐突なラブシーンに、会場が大絶叫の渦に包まれた。

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