517 / 598
第8章 それぞれが歩んだ道
劇的なビフォーアフター
しおりを挟む「お前……シアノ、だよな…?」
キリハの後ろでずっと黙っている彼に、ルカがおそるおそる声をかける。
ワイルドに毛先を遊ばせた純白の髪。
キリハと共にいるわけだし、十中八九シアノであることは間違いないのだが、ルカたちが戸惑うのにも理由があった。
すらりと長い手足に、引き締まった細い体。
スタイリッシュでこじゃれた服装が、その長身を魅力的に引き立てている。
ピアスやネックレスといったアクセサリーはきちんと服装に合わせていて、目を引きながらも浮いた印象は持たせない。
その姿は、ルカたちの記憶にあるシアノとは別人と言っても過言ではなかった。
「どーも。久しぶり。」
サングラスを外して、ルカたちにそう言うシアノ。
薄い唇から漏れた声は、声変わりを経て多少低くはなっているが、男性にしては高めの中性的な声だった。
「ほら、シアノ。みんながびっくりしちゃってるじゃん。だから俺と一緒に、定期的にセレニアに帰ろうって言ったのに。」
「別にいいでしょ。ぼくは、セレニアに実家があるってわけでもないんだし。ルルアにいた方が気楽なんだもん。」
「それ、エリクさんが聞いたら泣いちゃうって。」
「なんで? ちゃんとチャットで顔は見せてるもん。」
「チャットと実際に会うのは、また違うんだって。ようやくシアノが帰ってきてくれるって、みんな本当に喜んでたよ?」
「ま、今回は都合よくこっちで仕事があったからね。ついでついで。」
キリハとシアノの掛け合いに、皆が唖然。
話の流れに全然ついていけないようだった。
シアノは戸籍が発行された後、エリクのカウンセリングを受けながら、中央区の孤児院にて保護されることになった。
とはいえ、人間にもドラゴンにも裏切られた経験があるシアノだ。
基本的には自室に引きこもっていることが多く、孤児院でも特別学級でも人間関係は芳しくなかった。
見かねたキリハがレイミヤに連れていったり、ルカやエリクが実家に呼んだりもしたが、これといった効果が見られることもなく。
そこで、ルルアへの留学が決まったのを機に、キリハがシアノも一緒にルルアに連れていったのである。
シアノの口ぶりから察するに、ルルアの環境はシアノに合ったようだ。
それはいいことなのだが……まさか、三年半ほどでここまで変わってしまうとは。
「……ん?」
ふいに、シアノが何かに気付く。
「ちょっとごめんね。野暮用ができた。」
そう言って、カフェテリアの奥へと進んでいくシアノ。
彼が向かった先は、隅のテーブル席に座る二人組の女性だ。
「悪いんだけど、その写真をばらまかれちゃうのは困るなぁ。」
「あ…」
テーブルに片手をついたシアノに詰め寄られ、二人はぎくりと肩を震わせる。
「いつもぼくの動画、見てくれてるの?」
「は、はい…っ」
「そっか、ありがとね。じゃあ拡散しないでくれるなら、その写真は消さないでもいいよ。」
「え…? いいんですか?」
「もちろん。消してって言われると思った? 大事なファンに、そんな冷たいことなんて言わないよ。」
シアノは華やかな笑顔でウインク。
それに、女性二人は見事にノックアウトであった。
「というわけで、ここでぼくを見たことは内緒にしてくれるかな?」
「は、はい! もちろん!」
「そう。じゃあ……」
シアノはショルダーバッグを開き、そこから二つのキーホルダーを取り出した。
「あ、それ…っ」
キーホルダーを見た女性が顔色を変える。
それに、シアノはにやりと口の端を吊り上げた。
「そ。来月から発売予定のキーホルダー。」
一緒に取り出したペンのキャップを外したシアノは、慣れた手つきでキーホルダーにサイン。
そして、それを二人に手渡した。
「うわぁ……い、いいんですか!?」
「うん。ぼくのお願いを聞いてくれるお礼。でも……本当に内緒だよ?」
そっと。
シアノが女性たちの耳元に顔を寄せる。
「発売前のグッズにサインまで書いて渡したってなっちゃったら、ぼくも怒られちゃうし、君たちも他のファンに叩かれちゃうじゃん? だからこれは……ぼくたち三人だけの秘密、ね?」
そっと息を吹き込むような、甘い囁き。
チェックメイトには十分だったようだ。
「お待たせー。やっぱ、サングラスはしといた方がいっか。いきなり盗み撮りされるとは思わなかったよ。」
鮮やかな手腕で女性たちを攻略してきたシアノは、軽い吐息をつきながらサングラスをかけ直した。
「お前……誰だ?」
外見だけではなく中身まで別人になったシアノに、ルカはそれ以外に言える言葉がないよう。
カレンやサーシャも半ば茫然としている。
「とりあえず、ここはもう出ちゃわない? あれ以上捕まると、さすがに情報操作ができなくなるからさ。」
皆の返答を待たず、シアノはバッグから取り出した帽子を被りながらカフェテリアを出ていく。
「あれ…? もしかしてみんな、シアノのこと知らない?」
シアノについてカフェテリアを出た後、駐車場に向かう道中でキリハがルカたちに訊ねた。
返ってきたのは、全員からの頷き。
「シアノ、言ってなかったんだ。」
「言ってない。別に、セレニアでまで有名になろうとは思ってないし。」
一方のシアノはすまし顔。
「えっと…。ファンとかグッズって言ってたから、芸能人でもやってるってことなのかな?」
「わーお! すっごーい。」
首を傾げたサーシャの前で、カレンが口笛を吹いた。
「シアノ君、ネットでシンガーソングライターやってたんだぁ。見て、チャンネル登録者数すっごいよ?」
カレンが差し出した携帯電話には、世界的にポピュラーな動画サイトが映っている。
シアノが管理していると思われるそのチャンネルは、音楽ジャンルの中でもトップと言えるほどの人気を集めていた。
「ネットでは歌手、テレビや雑誌ではモデルという二面性を持つ若手のホープ。ワイルドな仕草や甘い口説き文句に対して、透き通るような声で紡がれる歌は美しくも切ない世界観。そのギャップはすさまじく、ルルアの若い世代で爆裂的な人気を誇っている……だって。」
ネットで見つけた記事を読み上げるカレン。
「まあ、本格的に人気に火が点いたのはモデルを始めてからだけどね。今としてはこんなもんでしょ。」
やれやれと肩をすくめながら、小さな吐息を吐き出すシアノ。
芸能人オーラのなせる業だろうか。
一つひとつの仕草が、一般人とは明らかに違って見えた。
「ははぁ…。だから忙しくて、一度もこっちに帰ってこられなかったってわけね。」
「んなことはないけど。」
カレンの問いに、シアノは首を横に振る。
「モデルの方はめんどくさいことは全部マネージャーがやってくれるし、歌手っていってもネット限定だから、ライブ以外では家に引きこもってればオッケーだもん。楽なもんよ。」
「でも、ああいうファンの対応とか大変なんじゃない?」
「別に? あのくらいチョロいチョロい。どいつもこいつもお馬鹿さんばかりだから、操るのなんて簡単♪ みんな本当に狙いどおりに動いてくれるから、見てて面白いし楽しいよー?」
さらりととんでもないことを告げるシアノは、歌を口ずさみながら先を行く。
「……なんだ? 嫌な予感がする。」
シアノの後ろ姿を見つめて、ルカだけがそう呟いた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる