竜焔の騎士

時雨青葉

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第7章 戦いの終わり

情報の覇者、0.1%のデレモード?

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 会議が終われば、自分も含めてリュドルフリアの血を飲んだ人々の血液や唾液の採取。


 その後は空軍施設跡地に飛んで、リュドルフリアからも生体サンプルをちょうだいしつつ、今後の連携体制についての話し合い。


 宮殿に戻れば血液検査の結果などが出ている頃なので、それを経過観察記録に追記して、さらなる分析を。


 そんなことをしている間に、何らかの情報を欲しがった馬鹿がシステムにハッキングを仕掛けてきたので、片手間でウイルスを叩き返しておく。


 今はくそ忙しいんだから、失脚したくなければ大人しくしてろ。


 特定した犯人に電話をかけて言ってやると、まさかプライベートの連絡先まで掴まれていると思っていなかった相手は、電話の向こうで息を飲んでいた。


「まったく…。危うく、本気であの世送りにするところだった。」


 長い一日も夜更け。
 誰もが寝静まった頃になってようやく、ジョーはオークスの研究室を後にした。


 どいつもこいつも往生際が悪い。


 ターニャがドラゴン討伐をやり遂げただけではなく、ドラゴンとの和解まで成立させてしまったものだから、少しでもその功績をかすませることができるあらを探そうと必死だ。


 あのランドルフとターニャだから、そんな粗なんて残しているはずもないのに。


(どうせ竜使いに協力する奴なんかいないって、高をくくってるから馬鹿を見るんだ。ざまあないね。)


 自分とランドルフの契約も、いよいよ最終段階に入る。
 フールもといユアンから引き継いだ仕事もあるし、やることが山積みだ。


 山積みなのに……


「よ! 待っていたぞ!!」


 このお方は、本当に出てきてほしくない時ほど出てくるんだから。


「ルルアに帰らずに何してるんですか? 暇なんですか?」


 今世紀一見たくない顔を見てしまい、反射的に減らず口を叩いてしまった。


「いやぁ、ターニャが何やら面白いことをすると言うんでな! 爆弾に盛大な華を添えてやろうと思って。」


 宮殿本部に続く渡り廊下で待ち構えていたノアは、こちらの減らず口を華麗にスルーしてそう告げた。


「ああ…。もう何をするつもりか分かってしまった辺り、あなたとの付き合いの長さを思い知りますよ。」


「長さだけではなく、深さもだろう? 私は、お前の秘密にノーヒントで辿り着いた唯一の人間ではないか。」


「屈辱なんで、言わないでください。」


 わざわざ思い出させないでくれ。
 憎たらしいったらありゃしない。


 ジョーは不機嫌な気分を隠さずにそう言って、白衣の胸ポケットに手を入れた。


「……まあ、今は待っててくれて都合がよかったです。」


 ポケットから取り出したメモリースティックを、ノアにぶん投げてやる。


「これは?」


「ロイリアの経過観察データと、あなたが以前から欲しがってたレティシアとロイリアの平常時生体データです。一応、あなたが送ってくださったデータと薬品が役に立ったわけですし、お代に期待していると言ったのはあなたでしょう?」


「ああ…」


 受け取ったメモリースティックを見つめるノアは、何故か意外そう。
 その理由は、この後すぐに知れる。


「お代は、お前がアルシードとして白衣を着られたことで十分だったのだがな。」


 そう言った彼女は、とても嬉しそうに笑った。


 このお方は、空気を吸うように口説き文句しか言わない人だな。
 とっさにそう思ったが、ふとそこで考え直す。


 後に変なしこりを残すのが嫌なのはお互い様。
 ここは綺麗に清算して、この関係をあっさりとしたものに戻そう。


「………あの。」
「ん?」


「………」
「なんだ? どうした?」




「―――ありがとうございました。」




 逡巡しゅんじゅんの果てに、やっとの思いでその言葉を音に乗せる。


「あなたがいなかったら、僕は……くそ兄貴の亡霊に憑りつかれたまま、アルシードとしての心も人生も捨てていたでしょう。そしてきっと、それがどういう意味を示すのかにも、永遠に気付けなかった。キリハ君とロイリアを助けられたのは……あなたのおかげです。」


 筋を通すべきところは通そうと思って言ったけど……なんだか、言ってからムカついてきたな。


 これじゃあまるで、自分が彼女に負けを認めたようじゃないか。
 対価はしっかりと渡したんだし、ここはイーブンってやつでしょ?


 しかも、よりによってノアが無言なんですけど?
 ディアラントと一緒で空気を読まない単細胞なんだから、ここでも空気を粉砕してくれよ。


 時間が経つほどに、居心地が悪くなってくる。


「じゃあ、言うべきことは言いましたから。もう無駄に絡んでこないでくださいね?」


 結局いたたまれなくて、ジョーは足早にノアの隣を通り過ぎる。


「―――……」


 ノアは、しばらくその場で呆けていた。

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